日本の各地域には魅力的な企業がたくさんある。またそのような企業の多くの経営者が後継者を探している。だが、後継者採用は難航するケースが多い。人材像が見えにくく、そして経営者もなかなか納得できないからだ。しかし今回、石坂氏は、四国有名旅館の後継者探しで、企業・求職者双方とも納得感の高い採用を実現した。どう対応したのだろうか?
「息子さんのような人材を採用したいのでは?」
ヒルストンキャリアは、北陸・長野・静岡・岡山などの地域転職に強い総合転職エージェントで、四国の転職支援にも力を入れている。代表取締役でコンサルタントでもある石坂氏は、あるとき四国有名旅館の経営者・Dさんと出会った。Dさんは旅館経営の後継者候補を探しており、石坂氏に声をかけたのだ。「私たちのホテルを、まったく新しいコンセプトのグローバルホテルへと変革してくれる後継者を採用したい」というのが、Dさんのオーダーだった。
当初、石坂氏が有名ホテルの運営責任者など、業界経験の豊富な候補者を何名か紹介したところ、全員が書類選考段階で落ちてしまった。「どの候補者も私の世界観に合わない」というのが、Dさんの感想だ。石坂氏も求める人材像を見極めるべくヒアリングを深めるが、どうしても抽象的な返答や感想しかもらえず、一時は誰を紹介してよいのかわからなくなってしまった。「これは絶対に決まらない案件では・・・」
しかし、石坂氏は改めて社長の気持ちに立ち、人物像を想像してみた。「もしかしたらDさんは、以前お伺いしたことのあるご自身の息子さんのような人を採用したいのでは?と思い当たったのです」(石坂氏)。実はDさんには、外資系金融機関で活躍する優秀な息子さんがいる。息子さんのように、金融・商社・ITといった異業界で働く超優秀人材を求めているのではないか。
石坂氏はそう推測し、改めてターゲットの再設定を行い、リサーチを開始した。業界での際立った経験者から業界未経験でも経営ポテンシャル重視の超優秀人材へターゲットをシフトしたのだ。経営ポテンシャルやグローバルな視野といった抽象度の高いターゲットを、海外の「MBA」ホルダーなど様々な角度からリサーチし、何人かの候補者を推薦。すると、中でも優秀な経歴の2名が書類選考を通過して、面接に進むことになった。石坂氏の推測は当たった。
2次面接は現地にて実体験を踏まえての事業理解。奥様を交えた食事会も実施
石坂氏は、転職を阻む懸念点を的確に捉えていた。1次面接は候補者のお住まいのある東京で設定。「Dさんは2名の候補者を大変気に入った様子でした。候補者の2人も、1次面接での1時間半にわたるDさんの熱いプレゼンテーションに共感しており、転職意向は十分に高まっていました。そうすると、最大の懸念点は、「ご家族の納得」です。実は、首都圏から地域へのIターン案件では、候補者が転職をいったん決心した後に、奥様やご家族に反対されて転職を取りやめるケースがとても多いのです。特に今回の場合、ご家族には縁もゆかりもない四国へ引っ越し、その土地で長く暮らすことになります。ご家族からご納得いただけないリスクが高いことが想定できました。何とかして回避する方策が必要でした」(石坂氏)
石坂氏は2次面接を候補者とそのご家族を含めて現地旅館での宿泊体験を提案。実体験を踏まえての事業理解と併せてご家族のご理解・共感を得ることが狙いだ。Dさんも意図を理解し、2次面接は候補者の奥様帯同のもと、Dさんが経営する四国の旅館で行われた。候補者と奥様に旅館のサービスを体感してもらいながら、現地でより深く対話することに成功したのだ。また現地では、面接に加えて、奥様を交えての食事会も開催した。石坂氏が知る限り、採用プロセスの一環として、奥様も交えた食事会を開くケースはかなり珍しいという。「2次面接の結果、Dさんは1名を選んだのですが、その方の奥様は転職を快く受け入れてくれたそうです。奥様同伴の2次面接や食事会は、奥様の不安解消に間違いなく効果があったと思います」(石坂氏)。
入社してすぐに組織改革や新たなポストの採用も
最終候補者・Eさんとの最終面接が改めて東京で行われることになった。ここでも石坂氏は動く。最終面接に臨むにあたり、入社後のミスマッチ解消の観点から、Eさんに具体的な経営変革アイデアをレポートにまとめてもらったのだ。最終面接ではこのレポートがベースとなり、DさんEさん双方にとってより意義のある深いディスカッションが実現した。Dさんは、Eさんのプレゼンテーションにも満足し、内定が正式に決まった。石坂氏は、地方転職のノウハウや段階的な選考プロセスを設計し、双方納得感の高い採用を実現させたのだ。
Eさんは、入社してすぐに現場を隅々まで把握して、現状をレポートにまとめた。それだけでなく、Dさんに組織改革案を提出し、早くも変革に取りかかっている。並行して、DX推進部門の採用も始めた。DさんはEさんの発想と行動力に満足しているという。
「今回の事例のように、日本の各地域には魅力的な会社がいくつもあり、事業後継者などの優秀人材を強く求めています。一方で、首都圏・大都市圏のビジネスパーソンのなかには、地域での活躍を選択肢の1つとして考える方々が、実は少なくありません。採用ターゲットを整理して両者のニーズを結びつけ、納得感の高い採用を実現するのが、私たちの介在価値です。実際、私たちは他案件でも、地域優良企業に首都圏の優秀人材を数多くご紹介してきました。今回もノウハウを活かすことができ、嬉しく思います」(石坂氏)。
転職者・企業へのメッセージ
【転職者の方へ】
日本の各地域には魅力的な企業がたくさんあります。Iターン・Uターン転職を考えている皆さん、ヒルストンキャリアの活用を検討していただけたら嬉しいです。
【企業様へ】
首都圏・大都市圏のビジネスパーソンを採用したいとお考えの地域企業の方々、ぜひお声がけください。きっとお手伝いできることがあると思います。
石坂裕氏
株式会社ヒルストンキャリア 代表取締役
東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。求人広告の営業など、東京・富山・熊本・大阪で勤務。20年以上にわたって人材ビジネスに携わる。その後、2011年に株式会社ヒルストンを設立(M&A仲介)。2014年に株式会社ヒルストンキャリアを設立(人材紹介)し、現在に至る。「日本の地方を元気にしたい」という想いで地方転職に注力している。