転職活動では、企業が求めている役割やスキルに自分が合致していることをアピールすることが理想の転職を実現するための鍵となります。キャリアステージ別に「転職に必要なスキル」とはどのようなものを指すのか、また、自分の武器になるスキルをどのように見出し、整理してアピールするとよいのか、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
転職で企業が重視するスキルとは
まずは、求職者に対して企業が期待するスキルについて解説します。
「ポータブルスキル」「テクニカルスキル」の2種類が重視される
これまで支援した事例では、求職者には「ポータブルスキル」と「テクニカルスキル」の大きく2つが求められる傾向にあります。
ポータブルスキル
ポータブルスキルとは、どのような業界、企業、職場でも通用する、汎用性の高いスキルのことです。「仕事の進め方」「人との関わり方」によって構成され、「論理的思考力」「コミュニケーション能力」「交渉力」などが一例です。特に、未経験の職種への転職を希望する場合、ポータブルスキルをしっかりとアピールすることが転職実現の鍵の一つとなります。
テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、その業務を遂行するために欠かせない知識や技術、能力のことです。例えば、ITエンジニアならプログラミング言語を用いたプロダクトの開発力、営業企画ならマーケットの分析や戦略立案・実行力といった、与えられた職務で活かせる専門的なスキルを指します。また、資格もその人のテクニカルスキルを分かりやすく示すものの一つと言えるでしょう。
企業の採用背景や募集ポジションに紐づくスキルであることも重要
ポータブルスキルとテクニカルスキルの中で、具体的にどのようなスキルがどの程度求められるかは、募集職種やポジション、企業が期待する人物像などによって異なります。例えば、「新規事業を立ち上げたいので、0→1の立ち上げの経験がある人が必要」「既存事業を拡大させたいので1→10の拡大の肝を分かっている人が必要」「経理部門の課長職の欠員を補充したいので、同等のスキルを持つ人が必要」など、求人によってさまざまです。募集内容などからどのようなスキルがどのレベルで求められているのかを読み取り、そこに結びつくような自身の専門性やスキルを選んでアピールすることが大切です。
【キャリアステージ別】企業が重視するスキルの傾向
企業が重視するスキルをキャリアステージ別に見た際に、傾向として言えることには、次のものがあります。筆者の経験をもとに解説します。
若手層の場合
社会人経験5年以内程度の若手層の場合、「まだビジネス経験を積んだ期間が短く伸び代がある」という観点から、ポテンシャル(基礎学力や素養)やスタンス(仕事に対する価値観や考え方)が注目される傾向にあります。
スキルに関しては、テクニカルスキルというよりもポータブルスキルが求められる傾向があります。例えば、課題を明らかにして考え抜く力、計画を立てて実行する力、上司からの指示への対応力、提案力など、自身の業務を遂行する上で必要な、基本的な能力が求められるでしょう。
中堅層の場合
社会人経験10年以上などある程度経験を積んできた中堅層の場合、ポータブルスキルに加えてテクニカルスキルがより重視される傾向があります。求められるテクニカルスキルは職種によって異なり、営業なら「提案力」や「交渉力」「プレゼンテーション力」、人事なら「人事・労務に関する知識」「戦略構築力」などが挙げられるでしょう。ポータブルスキルに関しても、自ら難度の高い課題を設定し、能動的に行動する力など、若手よりも一段上のレベルを求められるでしょう。
また、リーダーや係長などの募集においては、「マネジメント力」が評価のポイントの一つになります。現場の課題を解決する力や自分の考えを発信して周囲を動かす力など、自分の職場やメンバーに対して働きかける能力が求められるでしょう。
ベテラン層の場合
社会人経験20年以上などのベテラン層の場合、ポータブルスキルはすでに高いレベルで備わっており、かつ、その影響力が広範囲に渡っている人物であるかどうかに着目される傾向にあります。例えば、社外の顧客やパートナーとの信頼構築力や、人材の指導・育成などにおいて高い影響力を発揮してきた経験は評価されるでしょう。また、積み重ねてきた専門性から、新たな価値を創造するための「企画力」や「提案力」も重視されることがあります。
管理職においては、ポジションが上がるほど個別の業務に関係するテクニカルスキルの領域が少なくなり、グループや部門全体、あるいは会社全体など、より広い範囲を俯瞰してマネジメントする力が重視されるようになります。さらに、管理職として所属部門の戦略立案に携わるだけでなく、経営環境の変化をふまえて新しい事業や仕組みを企画・推進する力や、組織風土を変革する力なども求められるようになるでしょう。
また、経営に関わる人材には、高度なマネジメントスキルに加えて、知識や情報を体系的に組み合わせ、起きている事象を概念化して自社の戦略に繋げる能力が求められるようになります。加えて、業界全体に関する深い知見を持っていることや、他社の経営層とも人脈があるといったことも強みとなるでしょう。
【職種別】企業が重視するスキルの傾向
次に、職種別に企業が重視するスキルの傾向として言えることを解説します。「営業職」「コーポレートスタッフ」「企画職」「ITエンジニア職」「管理職」の5つについて、厚労省の職業情報提供サイト「job tag」の「しごと能力プロフィール」(※1)のスキルに関する数値をもとに見てみましょう。
(※1)各職業に就いている一部の人にアンケート調査を行い、回答の平均値や比率をまとめたもの。必ずしもその職業全体を正確に反映しているものではないとされている。
営業職の場合
営業職の場合、顧客(法人・個人)や取り扱う商材(有形・無形、価格帯)、営業方法(直販・代理店など)によって重視されるスキルが多少異なります。
IT分野の営業職を例に見てみると、必要なスキルを7段階で評価した平均値が最も高かったのは、「傾聴力」(3.9)で、次に「説明力」(3.5)、「交渉」(3.5)、「文章力」(3.4)、「読解力」(3.3)、「指導」(3.2)、「他者の反応の理解」「説得」「時間管理」(いずれも3.1)などが続きました(※2)。顧客に向き合う仕事であることから、顧客課題の理解や、提案・プレゼンテーション、資料作成に関わるスキルが重視される傾向にあることが伺えます。
(※2)出典:厚生労働省ホームページ「job tag『営業(IT)』」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/452
コーポレートスタッフ(管理部門)の場合
コーポレートスタッフも、職種によって求められるスキルは異なります。ここでは、人事と経理について紹介します。
人事(人事事務)の場合、最も高かったのは「傾聴力」「説明力」(いずれも4.3)で、次に「文章力」「指導」(いずれも4.2)、「読解力」「他者との調整」(いずれも4.1)「他者の反応の理解」「説得」(いずれも3.8)、「継続的観察と評価」「交渉」(いずれも3.7)などが続きました(※3)。
経理(経理事務)の場合、最も高かったのは「傾聴力」(3.6)で、次に「資金管理」(3.5)、「読解力」「文章力」「説明力」(いずれも3.4)、「他者との調整」(3.0)、「指導」(2.9)などが続きました(※4)。
(※3)出典:厚生労働省ホームページ「job tag『人事事務』」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/432
(※4)出典:厚生労働省ホームページ「job tag『経理事務』」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/430
管理部門は、社内の各現場や経営陣との業務が中心となり、場合によっては社外とのコミュニケーション・折衝を行うこともあることから、社内外の関係者に対する傾聴力や説明力、調整力、交渉力などが必要とされていることが伺えます。
企画職の場合
企画職として、新製品や新サービスの設計・開発のために市場調査や企画の立案・設計をする「企画・調査担当」を例に見てみると、最も高かったのは「文章力」(4.8)で、次に、「傾聴力」(4.7)、「読解力」(4.6)、「説明力」「他者との調整」(いずれも4.5)、「論理と推論(批判的思考力)」(4.3)などが続きました(※5)。
商品・サービスや事業などの調査、企画立案、運用設計などを担当する職種であることから、論理的思考力や分析力、伝わる資料を作成する力、経営陣や社内外の広範な関係者に対する説明・調整力などが必要とされることが伺えます。
(※5)出典:厚生労働省ホームページ「job tag『企画・調査担当』」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/434
ITエンジニア職の場合
ITエンジニア職として、システムエンジニア(業務用システム)と、プロジェクトマネージャー(IT)を例に見てみましょう。
まず、システムエンジニア(業務用システム)において最も高いのは「読解力」「プログラミング」(いずれも4.3)で、次に、「傾聴力」「文章力」(いずれも4.2)、「説明力」「要件分析(仕様作成)」(いずれも4.1)、「指導」「カスタマイズと開発」(いずれも3.7)、「新しい情報の応用力」「他者との調整」(いずれも3.6)などが続きました(※6)。
システムエンジニアの場合、プログラミングなどのテクニカルスキルや、新しい情報を応用あるいはキャッチアップする力、カスタマイズ・開発力などが求められることが伺えます。同時に、システム要件の理解や要件分析、クライアントなどとのコミュニケーション力なども必要とされていることが伺えます。
(※6)出典:厚生労働省ホームページ「job tag『システムエンジニア(業務用システム)』」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/312
次に、プロジェクトマネージャー(IT)において最も高いのは、「傾聴力」(5.4)で、次に「他者との調整」(5.1)、「説明力」「説得」「交渉」「時間管理」(いずれも5.0)、「読解力」「文章力」「要件分析(仕様作成)」(いずれも4.9)、「複雑な問題解決」「指導」(いずれも4.8)などが続きました(※7)。時間管理や交渉、問題解決など、プロジェクトをマネジメントする上で必須となるスキルや、メンバーへの指導力などが必要とされることが伺えます。
(※7)出典:厚生労働省ホームページ「job tag『プロジェクトマネージャ(IT)』」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/322
管理職の場合
管理職として、営業課長と人事課長を例に見てみましょう。
まず、営業課長の場合、最も高いのは「傾聴力」(4.7)で、次に、「指導」(4.4)、「説明力」「他者との調整」「交渉」(いずれも4.3)、「説得」「読解力」「文章力」(いずれも4.2)、「論理と推論(批判的思考)」「他者の反応の理解」(いずれも4.1)などが続きました(※8)。
営業職においてマネジメントの立場になると、顧客に対してだけでなく、経営陣からの方針の理解や部下の指導など、社内の業務も加わり、より高い水準で各種スキル(傾聴力、説明力、調整力、交渉力など)が必要とされていることが伺えます。
(※8)厚生労働省ホームページ「job tag『営業課長』」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/539
次に、人事課長の場合、最も高いのは「傾聴力」(5.3)で、次に、「人材管理」(5.0)、「文章力」「時間管理」(いずれも4.8)、「読解力」「説明力」「他者の反応理解」「他者との調整」(いずれも4.6)、「説得」「指導」(いずれも4.5)などが続きました(※9)
経営陣や部下とのコミュニケーションスキルや(傾聴力、プレゼンテーション力、調整力など)、説得・指導などのスキルが必要とされていることが伺えます。
(※9)厚生労働省ホームページ「job tag『人事課長』」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/537
自身の経験・キャリアから企業に評価されるスキルを見出だし、アピールする方法
では、自身の経験やキャリアから武器となるスキルを明確にして企業に伝えるには、どのようすればよいでしょうか。具体的な方法の一つを解説します。
キャリアの棚卸しをする
キャリアの棚卸しとは、これまで自分が積み重ねてきたキャリアを振り返り、どのような経験や成長があったかを確認する作業です。
まず、これまでの業務内容や経験、実績を書き出し、「どのような役割を果たしたか」「何を工夫したか」「何にこだわったか」「周囲との関係性は」「何にやりがいを感じたか」などについて振り返ります。そして、実績を上げたときの共通項を探すのです。すると、自身の成功パターンと強みが見えてくるでしょう。多様な経験を通じて自分の行動特性や強みを整理するという点で、ビジネス経験が長い人ほどキャリアの棚卸しは効果的です。
キャリアの棚卸しの方法は、以下の記事も参考にしてください。
見つけた強みやスキルを言語化する
キャリアの棚卸しで整理した自分の行動特性や強みについて、スキルとしてどう表現できるかを考え、言語化してみましょう。例えばテクニカルスキルなら、業務に必要な知識や技術力、分析力、有効な資格など。またポータブルスキルなら「課題を俯瞰して捉える力」「周囲を説得して巻き込む力」「スピード感を持って業務を進める力」など、人によってさまざまな表現が見つかるでしょう。
企業が求職者のスキルについて重視するのは「○○事業を立ち上げた」「○○億のプロジェクトを実行した」という事実のみではなく「そこでどのような強みを発揮したか」「得た経験を今後どう活かせるか(再現性があるか)」といったプロセスです。自分のスキルを整理するときはその視点を忘れず、相手に伝えられるように準備しておくことが大切です。
応募企業が求めるスキルについて、具体的経験をもとに説明する
自身のスキルを企業にアピールするにあたっては、募集内容から必要とされているスキルを読み解き、そこに紐づく自身の専門性やスキルを選んでアピールします。
その際は、経験を「事実ベース」で整理し、エピソードに落とし込むと効果的です。例えば、スキルを事実ベースで整理するためのひとつの手法として「STARフレーム」と呼ばれるものがあります。
「S:どのような状況で(Situation)」
「T:どのような課題があり(Task)」
「A:どのような行動をして(Action)」
「R:どのような成果が出たのか(Result)」
これら4つの枠組みに当てはめてエピソード化すると自分自身でも整理がしやすく、その結果、企業側にも伝わりやすくなるでしょう。
転職面接でスキルを伝える場合の自己PR例
実際に面接で企業にスキルを伝えるにあたり、STARフレームを用いて伝えたい要素を整理した自己PR例を2つ紹介します。自身にも当てはめて考えてみましょう。
中堅社員の自己PR例
商品企画職として培ってきた分析力や提案力、そして、リーダーシップが自身の強みです。
〈状況(Situation)〉
売上増のために既存顧客のリピート率を高める必要があると考え、新サービスの開発を提案したところ、開発プロジェクトのリーダーを任されることになりました。
〈課題(Task)〉
社内各部門からメンバーを集めて開発チームを組成しましたが、個別で相談した際に、担当者によってテーマの捉え方や懸案事項が異なることに気付きました。
〈行動(Action)〉
そこで、一人ひとりのこだわりをヒアリングした上、共通項を洗い出して目指す方向性をとりまとめ、個々の強みに応じてメンバーの役割分担をしました。
〈結果(Result)〉
最初に方向性を決めたことで、目標からぶれることなく、モチベーションを維持してプロジェクトを進行できました。○カ月で新サービスを立ち上げ、リピート率○%アップという成果を挙げることができました。
管理職の自己PR例
人事課長として、社員の教育・育成の仕組みづくりに注力してきました。
〈状況(Situation)〉
前職では、中堅社員が育たず、離職が多いという問題を抱えていました。人材不足で現場は逼迫し、中途採用で凌いでいましたが、また離職者が出ることの繰り返しでした。
〈課題(Task)〉
そこで、3年目~5年目社員の育成を行わなければ組織の成長はないと考え、定着・成長の支援の仕組みづくりに動きました。
〈行動(Action)〉
具体的には、社内の各部署に協力を要請し、部署横断の育成専任チームを結成。OJTとオフJTのカリキュラムを作成し、中堅社員が所属する現場との情報共有にも力を入れました。
〈結果(Result)〉
その結果、中堅社員の離職率を〇%減らすことに成功しました。さらに、マネジャーへの昇進者が2年で〇%増加するという成果を得ることもできました。
アピール内容に悩む場合、転職エージェントやスカウトサービスを活用することも一案
企業にアピールすべきスキルやその伝え方に悩むときは、転職エージェントやスカウトサービスを活用する方法も一案です。
転職エージェントのキャリアアドバイザーに相談すれば、キャリアの棚卸しやアピールできる自身のスキルについてアドバイスをもらえることがあります。また、企業に応募者を推薦する際に、応募者のスキルや人物像について、第三者の視点で補足説明を加えてもらえることもあります。
また、スカウトサービスでは、レジュメなどに記載されているスキルや自己PRをふまえた上でスカウトメールが送られてくるため、自身にマッチする企業に出会いやすいというメリットがあります。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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