日本では、大手企業の幹部クラスがスタートアップに転職する事例はまだ決して多くない。すべてのスタートアップが成功するわけではなくブランド志向が強い人から見ると確実な未来が見えないため、彼らはキャリアダウンにも見られかねない。それ故に勇気を持って飛び込む転職者が少ないのだ。林氏はこの稀有な事例を、数々の工夫を重ねて見事成功に導いた。いったいどのようにマッチングしたのか。“GOOD AGENT AWARD 2021”金賞を受賞した事例を紹介したい。
大手広告会社幹部からスタートアップへの「大挑戦」を全力で後押し
フォースタートアップスは、「for Startups」というビジョンのもと、起業支援と転職支援を中核とした成長産業支援事業を推進している。日本のスタートアップを何社も支援しており、スタートアップ界隈に幅広いつながりがある。長期にわたって採用全般を支援しているスタートアップも数多い。いまや数百名規模となった有名スタートアップB社は、社員数名の頃から現在まで採用をサポートしてきた。林氏は現在、採用コンサルティング室の室長でありながら、B社担当の採用コンサルタントとして、単に人材を紹介するだけでなく、採用プロセス構築などにも深く関わっている。
そのB社には何年もの間、採用に苦戦していたポジションがあった。広報・PRのトップ人材だ。創業者が広報・PRに強いこだわりを持っているため、求める条件のハードルが極めて高く、まったく決まらなかったのだ。しかし、B社にとって広報・PRは生命線であり、そのトップ人材は絶対に必要だった。林氏は、そのポジションにAさんを紹介することに成功した。
Aさんは大手広告会社の部長級で、その先の成功も約束されていた。しかし、その安定の道を選ぶのではなく「広報・PRの専門性を活かして、未経験のITテクノロジー業界にチャレンジしてみたい」とフォースタートアップスを訪れたのだ。林氏は、Aさんの強い意志に触れ、大手広告会社幹部からスタートアップへの「大挑戦」を全力で後押しすることに決めた。
職種ではなく「志」で両者を結び合わせた
林氏はAさんと何度も話し合った。Aさんの転職を成功させるためには、これからのキャリアと人生をどのように送りたいのかを明確にする必要があったからだ。Aさんには、大企業での成功の道を凌駕するほど、刺激的な転職チャレンジを提供しなくてはならない。Aさんが家族や周囲を十分に納得させられるようなチャレンジでなくてはならないのだ。そのためには、Aさんが心から求めるものは何かを、Aさんと林氏が一緒になって形にする必要があった。
2人で対話を重ねた結果、Aさんが抱いたのは「後進のためにも、広告人材の価値を世に広めるためにも、広告業界からテック系スタートアップへの新たなキャリアの道を拓きたい」という強い想いだった。林氏は、その想いに応えるポジションはB社の広報・PRトップしかない、と考えた。しかし、一つ大きな問題があった。当初彼らは、事業会社にてPRの責任者経験のある方を探していた。AさんはB社が元々想定していた「求める人物像」とは異なる領域に強みがあり、「PRの責任者」という経験はむしろ持ち合わせていない。
ところが、林氏には勝算があったという。「Aさんと長く話すうちに、AさんとB社の創業者や経営陣は、言葉こそ違うのですが、ほとんど同じ考えを持っているように思えてきたのです。採用条件よりも 『こんな世界を作りたい』という深い『志』の部分でマッチングすれば、必ずうまくいくと感じました」(林氏)。B社の採用コンサルタントとして、創業者・経営陣と日々向き合っている林氏だから得られた直感だろう。
また林氏は、採用コンサルタントとして、B社の広報・PRトップには、いわゆる経営人材が必要だと感じていた。「ポジションは広報・PRのトップですが、仕事内容は、経営者視点がないと達成できないものでした。経営がわかる方でなければ、務まるポジションではなかったのです。少なくとも私には、そのようにしか見えませんでした」。企業は往々にして、求める人材像の正解を持っていない。このケースでは、B社よりも林氏のほうが、人材像の正解がわかっていたのかもしれない。
書類選考の条件には当てはまらないため、通常通り紹介してもAさんの素晴らしさは伝わらないだろうと考えた林氏は「素晴らしい方なので、まずは一度会ってみてください」とB社の経営陣に声をかけるところから始めた。両者は会ってすぐに意気投合し、B社の採用意向はあっという間に高まった。林氏の読みどおり、AさんとB社は『志』がピッタリ一致していたのだ。
最後の決め手となったのは「肩書き」
ただ、最後に一つ障害があった。Aさんの「後進のためにも、広告人材の価値を世に広めるためにも、広告業界からテック系スタートアップへの新たなキャリアの道を拓きたい」という想いを叶えるためには、周囲からキャリアダウンしているように見えることは避けなくてはならなかった。憧れられる挑戦として背中を見せたかった。これは、大手企業からスタートアップへの転職がまだ一般的ではない日本では、よく問題になる点の一つだろう。
林氏が間に入ってA氏がこれから担う役割をあらためて説明し、彼のためだけの新たな肩書きを設けることに合意。単なる権限としての肩書きだけではなく、彼が得意としている領域での強みを発揮できるネーミングを正式に設け、無事にB社入社が決まった。
Aさんはいま、B社の顔として大活躍している。
転職者・企業へのメッセージ
【転職者の方へ】
ぜひ一度、スタートアップの起業家・経営者がどのように挑戦しているのか、そのリアルな情報に触れに来てください。あなたの志と、彼らの挑戦をご縁にします。一歩を踏み出しませんか。お待ちしています。
【企業様へ】
ぜひ御社が目指す世界、成し遂げたいビジョンを教えて下さい。競争優位性を高めることができる素敵な「ヒューマンキャピタル」をご支援します。それによって社会に大きな変革を、共に起こしたいと思っています。
フォースタートアップス株式会社
林 佳奈氏
立教大学卒。2017年に5Gライブ配信市場を牽引するSHOWROOMに新卒1号社員として入社。学生時代から音楽に没頭し、エンターテインメントショーハウスを運営した経験を活かし、同社立ち上げに従事。当時の売上ギネス記録を更新するなど、入社最短でグループマネージャーへ昇格。プロダクト新機能開発にも携わりスタートアップのグロースを経験。
その後、フォースタートアップスへ参画。現在はGM/シニアヒューマンキャピタリストとして、CxO/ハイレイヤーポジションへの支援実績を持ち、日本を代表するスタートアップ企業の成長を支える。採用コンサルティング事業の推進責任も担っている。