30代後半以降に業界未経験の転職を望むケースがある。今回のUさんがまさにそうだ。石居氏は、Uさんの想いを汲み取って、「未知の医療業界に飛び込みたい」という願いを丁寧に実現し、遠隔地からのフルリモート勤務ができるV社のポジションを得た。石居氏によれば、転職のタイミングはこのときしかなかったという。GOOD AGENT AWARD 2021 特別賞を受賞したマッチングを紹介したい。
まったく未経験の医療業界への転職を希望していた
Uさんは30代後半のITコンサルタントだった。「会社員だけでなく、会社を経営して新規事業を開発したり、NPOで働いたりとさまざまな経験があり、直近は個人事業主でITコンサルタントをしていました。プライベートでの辛い経験をきっかけに、まったく未経験の医療業界への転職を希望していました。医療領域の課題解決をしたい、という強い想いがあったのです」(石居氏)。
しかし、Uさんの想いを叶えるのは決して簡単ではなかった。「Uさんは家族のために年収は下げたくないとおっしゃっていましたが、一般的には業界未経験への転職では年収が大きく下がります。また、地域在住で、首都圏企業でのフルリモート勤務を求めていました。コロナ禍で増えてきたとはいえ、フルリモート勤務はまだ一般的とはいえません。この条件で絞り込むと、候補案件はかなり限られます。さらに、UさんはNPOや個人事業主の経験が長く、転職回数も多いため、会社組織にフィットするかという懸念も上がりやすい傾向にありました」(石居氏)。
石居氏は、Uさんの想いに寄り添いながらヒアリングし、その願いをできるだけ叶えてあげたいと思っていた。ただ、その一方で「Uさんの希望を叶えるのは難しいです」と、プロとしてきっぱりと提案しなければならないかもしれない、とも考えていたという。
一見、物足りなく見える企業の魅力を「翻訳」して伝えた
この後、石居氏は最善を尽くしていく。Uさんに対しては、Uさんの転職の何がどのくらい難しいかを丁寧に説明した上で、いくつかの案件を紹介した。そのうちの1つが、医療系ベンチャー企業のV社だった。その募集は、UさんのITコンサルタント経験や新規事業開発経験を十二分に活かせるものだった。
V社はすでに上場済みで、ビジネスが軌道に乗っていた。「私たちプロコミットは、ベンチャー・スタートアップへの紹介を得意としていますが、V社のような企業は概して採用に苦戦しがちです。草創期のスタートアップ、あるいはメガベンチャーはイメージがつきやすく、入社希望者が多い傾向にあります。ところが、V社のようにスタートアップの段階を抜け上場したベンチャー企業は、見方によっては上場前より魅力が薄れ、中途半端に感じられる傾向にあります。一見入社のメリットが見えにくく、転職希望者が物足りなく感じるのです」(石居氏)。
そこで、石居氏はV社の「魅力の翻訳家」となって、その良さを詳しくUさんに伝えた。「V社のビジネスは患者さんが大きなメリットを享受できるサービスで、経営層や社員の皆さんは社会的意義を強く感じながら、高いモチベーションで働いていました。私は、V社ならUさんの想いを叶えられると思い、お勧めしました」(石居氏)。Uさんは石居氏の説明に納得し、V社へ応募する。V社のUさんの能力評価・人物評価は最初から高く、経営陣との面接でも意気投合した。Uさんも面接するごとに志望度を高めていった。
とはいえ、個人事業主からの転職、地域からのフルリモート勤務など、UさんはV社にとっていろいろと前例のない人材だった。当然ながら、人事は不安になる。「人事の方とは緻密にやり取りしました。Uさんの転職背景、医療業界を希望する理由、何よりもUさんがV社の社内課題を解決するうってつけの人材であることをしっかりと説明していきました」(石居氏)。石居氏の丁寧な対応のかいもあり、UさんはV社の内定を得た。
「このタイミングを逃したら医療業界には転職できない」とはっきり伝えた
ところが、ここで問題が発生する。Uさんは別の会社からも内定を獲得したのだ。「Uさんはもう1社の年収の高さに惹かれていました。家族もいますから、迷うのは当然のことです。しかし、その会社は医療業界ではありません。医療業界に飛び込んで社会問題を解決したい、という想いを叶えるなら、選択すべきはV社でした。さらに私の目から見ると、Uさんが業界未経験で医療業界に飛び込めるのは、まさにそのときしかありませんでした」。新型コロナの流行が一段落し、求人数も目に見えて戻りつつあった。石居氏は、「このタイミングを逃したら、Uさんは医療業界には転職できないと思います。本当に得たいのは、目先の年収ではないのではないでしょうか」とはっきり伝えたという。
Uさんは石居氏のアドバイスを聞き入れて、V社に入社した。Uさんは入社後の立ち上がりが速く、フルリモート勤務ながら、すでに全社横断プロジェクトを複数任されているという。「私が常に心がけているのは、求職者の「伴走者」であることです。ただ、ぴったり横につくのではなく、寄り添いながらも、必要なときには客観的なアドバイスをするような、ほんの少し「先」を走っているような存在でありたいと思います。転職活動では誰しも迷うもの。求職者が迷ったときこそ、本当に大事にすべきものは何か、中長期的なキャリアを考えた時の最善の選択はどれか、とコンサルタントが問いかけることが大切だと思っています」(石居氏)。
転職者・企業へのメッセージ
【転職者の方へ】
ベンチャーを中心に2022年に入って求人数は回復傾向にあり、若手・第二新卒採用なども活発になっています。ベンチャー・スタートアップへの転職チャンスを求めている方、ぜひお声がけください。
【企業様へ】
御社の「魅力の翻訳家」になります。採用上の課題を抱えているベンチャー・スタートアップの人事の皆様、一度ご相談ください。
株式会社プロコミット
石居美穂子氏
岡山大学卒業後、JR西日本に入社。 学生時代に抱いていた「目の前の人の人生に深く関わりたい」という想いと、自身の成長環境を求めて「人材業界×ベンチャー」にキャリアチェンジ。企業の採用支援に携わる一方で、キャリアコンサルタントとして、ビジネスサイドのプロフェッショナルの方を中心とした転職支援に従事。