【2021年】DX化に伴う企業のリスキリング実施状況は二極化傾向に

2021年に株式会社リクルートが実施したDXに関する調査の結果から、最近、注目を集めるリスキリングについてまとめてご紹介します。IT・デジタル化を推進するDX人材を育成するため、リスキリングに取り組む企業は、どのような広がりを見せているのでしょうか。株式会社リクルートHR統括編集長の藤井薫が、企業のリスキリングの実施状況について、従業員規模別、業種別、地域別などのデータをもとに詳しく解説します。

リスキリング実施の差は、いずれ企業変革の差に直結

株式会社リクルートHR統括編集長の藤井薫が、リスキリングについて説明するとともに、企業のDXに関するリスキリングの実施状況を細かく分析しました。今回の調査結果からは、DX推進におけるリスキリングの広がりの遅延と、二極化が進んでいることが明らかとなりました。今後はリスキリング実施の差が、企業変革の差として顕在化してくることが予想されます。

リスキリングとは

リスキリングとは、新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得したりさせたりすることを指します。近年では、IT・デジタル化の進展により生まれた新たな職種や、仕事の進め方が大幅に変わる職業などで活躍するために、対応するスキルを習得することを指すケースが多いです。

リスキリングは単なる学び直しとは異なります。幅広い学びを推奨する概念ではなく、「仕事を通じて、価値を創出し続けるために必要なスキルを学ぶ」ということが強調されている点に特徴があります。

企業のDX推進における「リスキリング」の広がりの遅滞と二極化

「DX調査の第2弾として、今回明らかになったDXに関する『リスキリング』の実施状況。その結果からは、企業のDX推における「リスキリング」の広がりの遅滞と二極化の実態が見えてきます。

【実施率の増減】
微増(2020年度:31.1%、2021年度:32.6%)

【実施率の二極化】
実施 3割強(32.6%) 不実施 4割超(43.7%)
※カッコ内は2021年度の数値

【規模による二極化】
1000人以上 実施率計 半数超(52.1%)
5~29人 実施率計 ごく一部(16.4%)

【業種での二極化】
金融業・情報通信業 4割超(金融業:48.0%、*情報通信業:40.9%)
情報・サービス業、建築業 約3割 (情報サービス業:29.1%、建築業:30.1%)

【対象者の二極化】
DX推進担当者+希望者計 3割弱(27.0%)
全従業員に実施     ごく一部(5.6%)
*情報通信業は、「情報・サービス業」の内訳

全社を挙げたリスキリングの推進が、企業の人材求心力の差に直結する

実施率の微増、実施率の二極化、さらに従業員規模・業種、対象者の各セグメントで見た実施の二極化の実態は、 企業のDXに関するリスキリングの大きな課題と機会を示していると言えそうです。

ご存知のように、DXには、業務遂行の手段をデジタル化・効率化を超えて、企業の価値創出の仕方、顧客の体験価値の向上といった事業構造の変革までが含まれています。 まさにDX for CX(Customer Experience)by CX(Corporate Transformation)と言われる所以です。

当然、DXを進めるためには、推進担当者だけではなく、社員全体のITリテラシーを上げ、結果として顧客体験の向上を実現することが必要になります。バリューチェーンの各プロセスにいるすべての人が「デジタルで価値を創造する」ための新たなスキルを獲得する。全社を挙げたリスキリングこそDX推進の方途ともいえます。

企業におけるリスキリングの拡大は、自らのスキルセットをアップデートし、キャリアアップを望む、従業員・求職者にとっても大きな魅力になります。DX人材確保が難易度を増す中、リスキリング実施の差は、優秀な人材の採用力・定着力・変革貢献力といった、企業変革の差に直結していくでしょう。

株式会社リクルートHR統括編集長 藤井 薫(ふじい・かおる)

株式会社リクルート HR統括編集長

藤井 薫(ふじい・かおる)

1988年、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。以来、人と組織、テクノロジーと事業、今と未来の編集に従事。『B-ing』、『TECH B-ing』、『Digital B-ing(現『リクナビNEXT』)』、『Works』、『Tech総研』の編集、商品企画を担当。『TECH B-ing』編集長、『Tech総研』編集長、『アントレ』編集長・ゼネラルマネジャーを歴任。2016年、『リクナビNEXT』編集長に就任(現職)、2019年にはHR統括編集長を兼任(現職)。*HR=Human Resources(人的資源・人材)

2020年度のDX人材確保は、約7割が必要人数よりも少ないと回答

2020年度においてDX人材確保が必要だったとの回答者に、確保状況を聞いたところ、「必要人数より大幅に少ない」は32.4%、「必要人数より多少少ない」36.2%と、7割近くが少ないと回答しました。一方、「必要人数通り」以上との回答(必要人数以上・計)は、26.1%でした。

また、DX人材の確保先について聞いたところ、「社内からのみ確保」は19.5%、「社外からのみ確保」は14.1%でしたが、「社内および社外から確保」は58.4%でした。また、「人材は確保せず専門会社などに発注」は2.4%でした。

■再掲 第1弾)2020年DX人材確保の必要状況(全体/単一回答)

2020年DX人材確保の必要状況の回答結果(n=3,077)。「必要ではなかった」が45.2%で最多

 

※DX人材とは、「DXを推進するために必要な人材」としている

■2020年度DX人材の確保状況(「DX人材が必要だった」との回答者/単一回答)

2020年度DX人材の確保状況の回答結果(n=789)。「少ない」の回答は68.7%と7割近くにのぼる

 

※少ない・計=「大幅に少ない」+「多少少ない」
※必要人数以上:計=「必要人数通り」+「多少多い」+「多い」

■2020年度DX人材の確保先について(「DX人材が必要だった」との回答者/単一回答)

2020年度DX人材の確保先についての回答(n=789)。「社内および社外から確保」したケースが58.4%で半数以上を占める

 

2021年度DX人材の確保先は、約半数が社内・外

2021年度においてDX人材が必要であるとの回答者に、確保先(予定含む)について聞いたところ、「社内からのみ確保」は18.1%、「社外からのみ確保」は19.2%でしたが、「社内および社外から確保」は48.8%でした。また、「人材は確保せず専門会社などに発注」は4.6%でした。

■再掲 第1弾)2021年度DX人材の必要状況、2020年度の必要状況から見た2021年度の必要状況(全体/単一回答)

2020年度の必要状況から見た2021年度のDX人材の必要状況についての回答(n=3,007)。「必要」41.6%、「必要ではない」31.7%、「わからない」26.7%

 

※DX人材とは、「DXを推進するために必要な人材」としている

■2021年度のDX人材の確保先(予定含む)について(「DX人材が必要である」との回答者/単一回答)

「DX人材が必要である」と回答した者の2021年度のDX人材の確保先(n=1,252)。「社内および社外から確保」との回答が約半数を占める

 

DXに伴う『リスキリング』は、2020年度および2021年度ともに3割強が実施

人事担当者にDXに伴うリスキリングの実施状況について聞いたところ、2020年度、2021年度ともに、実施していないとの回答は4割を超えているものの、実施との回答は、2020年度は31.1%、2021年度は32.6%と、ほぼ同率の3割強で、実施の二極化傾向が見られました。また、実施対象者を見ると、「DX推進担当者のみに実施」は、2020年度は9.6%で、2021年度は7.7%と微減していますが、希望者などへの実施や全従業員に必須としての実施が、2020年度より2021年度の方がやや増加する傾向が見られました。

■DXに伴うリスキリングの実施状況(全体/単一回答)

□2020年度

2020年度のDXに伴うリスキングの実施状況(n=3,007)。「実施していない」が46.1%と最多

 

□2021年度

2021年度のDXに伴うリスキングの実施状況(n=3,007)。「実施していない」が43.7%と最多

 

DX人材の確保状況は、従業員規模間、業種間でばらつきが見られる

2020年度のDX人材の確保状況について、主勤務先の従業員規模別および業種別に見てみると、従業員規模間、業種間でばらつきが見られました。

■2020年度DX人材の確保状況(主勤務先従業員規模別/単一回答)

2020年度の従業員規模別DX人材の確保状況では、いずれの規模でも6~7割が「少ない」と回答

 

■2020年度DX人材の確保状況(主勤務先業種別/単一回答)

2020年度の業種別DX人材の確保状況では、いずれの業種でも約7割が「少ない」と回答

 

従業員規模が高くなるにつれ『リスキリング』実施が高い傾向

DXに伴う『リスキリング』の実施状況について、主勤務先の従業員規模別に見てみます。

従業員規模別では、2000年度および2021年度ともに、規模が大きくなるにつれて『リスキリング』の実施率が高くなっている傾向が見られ、1000人以上規模では、半数以上が実施していました。

また、実施対象者について、「全従業員に必須で実施」との回答は、2020年度では「300~999人」が5.2%で最も高く、次いで「1000人以上」の4.9%でした。2021年度では、2020年度同様に「300~999人」が8.1%で最も高く、次いで「1000人以上」の7.5%でした。

■DXに伴うリスキリングの実施状況(主勤務先従業員規模別/単一回答)

□2020年度

2020年度の従業員規模別DXに伴うリスキングの実施状況。5~29人規模での実施率は14.9%、1000人以上の規模では50.8%と差が見られる

 

□2021年度

2021年度の従業員規模別DXに伴うリスキングの実施状況。実施率はいずれの規模でも微増の傾向にあった

 

DXに伴うリスキリングの実施状況~実施率が高い業種は「金融業」

DX人材の確保状況について、主勤務先の業種別に見てみます。

実施率が最も高い業種は、2020年度、2021年度ともに「金融業」でした。ちなみに、「情報通信業(「情報・サービス業」の内訳)」の実施率は、2020年度、2021年度ともに「金融業」の次に高い結果となりました。

2021年度の実施対象者では、2020年度よりも多少ではありますが、「DX推進担当者のみ」から希望者や全従業員必須への実施の広がりが見られました。

■DXに伴うリスキリングの実施状況(主勤務先業種別/単一回答)

□2020年度

2020年度の業種別DXに伴うリスキングの実施状況。製造業での実施率は35.2%、流通業は31.0%、建設業は28.5%

 

□2021年度

2021年度の業種別DXに伴うリスキングの実施状況。製造業での実施率は35.2%、流通業は31.0%、建設業は28.5%

 

 

<調査概要>
■人的資本経営と人材マネジメントに関する人事担当者調査(2021)
調査目的:人的資本経営や人材マネジメント等に関する実態を明らかにする
調査方法:インターネット調査
調査対象:全国の人事業務関与者(担当業務2年以上)
調査期間:2021年10月29日~11月12日
調査回答数:3007人
回答属性:下表参照

【主勤務先従業員規模】

表【主勤務先従業員規模】

 

【主勤務先業種】

表【主勤務先業種】

 

【主勤務先地域】

表【主勤務先地域】

 

・北海道・東北:北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
・関東:茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県
・東海:新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
・関西:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
・中国・四国:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県
・九州:福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

<調査結果を見る際の注意点>
・「%」を表示する際に小数点第2位で四捨五入しているため「%」の合計値と計算値が一致しない場合がある
・n数が50未満の場合、参考値として掲載している
・主勤務先業種別では、「その他」は割愛している
<用語の定義>
・DX=デジタルトランスフォーメーションの略。経済産業省「DX推進指標とそのガイダンス」より、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変化するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することを意味します
・DX人材=この調査では「DXを推進するために必要な人材」としています
・リスキリング=新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得したりさせたりすることを意味します
・大都市圏=埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県

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