中途採用の面接で「趣味・特技」について質問されることはそれほど多くはありませんが、「もし聞かれたら、何をどう伝えたらいいのか」「そもそも語れる趣味や特技がない」と戸惑う人もいるでしょう。企業が「趣味・特技」について質問する意図とは何なのでしょうか。どのような基準で答えを選び、どのように伝えればアピールに繋がるのでしょうか。組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏が、面接で「趣味・特技」を伝えるときのポイントや注意点についてご紹介します。
企業が面接で「趣味・特技」を聞く理由とは
前提として、中途採用において「趣味・特技」が選考に影響するかというと、ほとんどの場合は影響しないと考えて良いでしょう。
リクナビNEXTが企業の採用担当者に実施した調査では、「履歴書の『趣味・特技』で合否の判断をしたことがあるか」という質問に対し、「合格にしたことがある(11%)」「不合格にしたことがある(7%)」「どちらもない(82%)」という結果となっています。
にもかかわらず、企業が「趣味・特技」を応募書類に記入させたり、面接で質問したりする意図とは何でしょうか。
自社へのカルチャーフィットを判断したい
趣味・特技は、偽りのないその人らしさが出やすい部分です。従って、経歴とは別の角度から、応募者の人間性を知りたいと考える採用担当者は一定数いるでしょう。
趣味・特技への取り組み方や、そこで得られたことを聞き、回答から企業のカルチャーとのフィット度合いや、配属予定部署のメンバーとの相性などを見ることもあります。興味や志向の部分で、応募者と部署のメンバーとの間に共通点があれば、「この人は早く職場に馴染めそうだ」など、選考判断の補足材料とすることがあるかもしれません。
業務への適性を見たい
応募者の趣味・特技を、仕事への適性の判断材料にしている可能性もゼロではありません。例えば、特技として語学やPCスキルがあれば、直接仕事に役立てることが可能です。ブログの記事作成が趣味で、アクセスを相当数稼いでいるのであれば、そのスキルをコンテンツマーケティング等に活かせる可能性もあります。また、チームスポーツでキャプテンを続けてきた人なら、チームワーク重視の組織で活躍する適性があると判断されるでしょう。
面接の場の緊張をほぐして力を発揮してもらいたい
本題に入る前に応募者の緊張をほぐし、リラックスして受け答えができるよう、アイスブレイクとして趣味・特技に関する質問をすることもあります。実際には、このような意図で使われるケースが多いのかもしれません。冒頭で「履歴書に趣味○○とありますが、いつから始められたのですか?」などと聞かれたら、深く考えず率直に受け答えをすればOKです。
「趣味」の答え方のポイント
採用担当者から趣味について聞かれた場合の内容の選び方、好印象を与えられる伝え方のポイントをご紹介します。
仕事に関連しなくても本当に好きならOK
趣味の話を通じて採用担当者が知りたいのが、応募者の人柄やカルチャーフィットだとすれば、まずは自分が本当に好きなことをシンプルに選び、飾らずに伝えるのが一番でしょう。自分が本当に没頭している趣味を選んでおけば、採用担当者に重ねて質問された時も、自然に深く語ることができるはずです。見栄えの良い趣味を無理に選んで、答えに詰まるよりも、楽しさを自然に伝えられる趣味の方が、相手に好印象を与えられるでしょう。
長所が伝わる趣味を選ぶ
「読書」「音楽鑑賞」など、ごく一般的な趣味であっても、取り組み方は人それぞれです。例えば、「ひとつのテーマで10冊を目標に読み、体系的に知識を深めてきた」(継続性・知識欲)など、自分の強みに紐づくエピソードが語れる趣味があれば、それをアピールするのも良いでしょう。また、外食産業を志望する人の趣味が「食べ歩き」(情報収集)であるなど、仕事に役立ちそうなものがある場合は、それを優先的に伝えるのもお勧めです。
思いつかない時の探し方
「語れるような趣味がない」という方は、普段から習慣的に行なっていることを思い浮かべてみるのも1つの方法です。例えば、毎週末に欠かさず洗車をしていることや、毎日の犬の散歩、寝る前のストレッチなども、趣味として語れる要素は十分あるはずです。なぜそれを続けているのか、こだわっている点、自分なりの楽しみ方などについて掘り下げてみると良いでしょう。
趣味を聞かれた時の回答例
面接で趣味について聞かれた場合は、「きっかけ」「エピソード」「それによって得られたもの」などを盛り込んで伝えるとより具体的になります。回答例をご紹介しますので、参考にしてください。
【回答例1 トライアスロン】
〇年前からトライアスロンに取り組んでいます。始めたきっかけは、管理職になって意思決定する機会が増えるに伴い、心身を鍛えて感覚を研ぎ澄ませ、判断の波を減らすことが重要だと考えたためです。また、会社から独立して経営者になった友人で、トライアスロンに取り組む人が多く、ビジネス上にも良い影響があるとアドバイスを受けたことも要因です。
【解説1】
「自分に向き合い、心身の状態を整えることができる人」「ストイックな人」「経営者の知人も多くビジネス人脈あり・スキルが高そう」といった印象を与えられる。
【回答例2 ガーデニング】
コロナの影響で自宅時間が増えたことをきっかけに、ガーデニングが趣味になりました。最初は簡単なハーブなどを育てるだけでしたが、徐々に日当たりを調節したり、土壌改良したり、コンポストを導入するなど、書籍や動画を参考にして新しいことにチャレンジするようになりました。失敗も楽しみながら、マイペースに取り組んでリフレッシュしています。
【解説2】
研究熱心さや行動力、新しいことを取り入れる柔軟性が伝わる。
「特技」の答え方のポイント
採用担当者から特技について聞かれた場合の内容の選び方、好印象を与えられる伝え方のポイントをご紹介します。
仕事にも活かせそうな特技を選ぶ
応募企業の求める人物像を洗い出したうえで、例えば「Officeソフトは誰よりも使いこなせる」「記憶力が良く、1度会った人の顔と名前は忘れない」など、転職先の仕事に役立ちそうな特技を持っている場合は、面接で優先的に伝えると良いでしょう。
もちろん仕事に活かせる特技ではなくても、スポーツや音楽、家事など、あなたの個性や人となりが表現できるものであれば何でもOKです。自分が得意だと感じていることの中から、ユニークなものや、人から面白がられることが多いものを選ぶ方法もあるでしょう。
どのようなシーンで発揮されるかを伝える
たとえ目を引く特技でも、それに紐づく具体的なエピソードがなければ、聞き手にとって説得力がありません。その特技がどのような場面で発揮されるのか、何に役立つのか、他者からの評価も交えて話すことができれば、よりリアルなものとして伝わります。特に仕事で活かせる特技をアピールする場合は、実際に役立ったエピソードとセットで伝えることが大切です。
思いつかない時の探し方
特技が思いつかない時は、趣味から考えることもお勧めです。水泳やピアノなど、子どもの頃の習い事で「人より少しできる」くらいのものでも構いません。また、自分の好きなことから特技を洗い出す方法もあります。例えば人と接するのが大好きという方には、「どんな相手からでも話題を引き出せる」という特技があるかもしれません。
家族や会社の同僚などに聞いてみると、自分では気づかなかった特技について教えてもらえることもあります。普段、人からどのような「頼まれ事」をされるかもヒントになります。例えば、会社の行事の司会をよく依頼されるとしたら、仕切りが上手で話術に長けている証拠であり、「イベントの司会進行が特技です」とアピールすることができるでしょう。
特技を聞かれた時の回答例
面接で特技について聞かれた場合は「どの程度のレベルなのか」「どのような場面で活かせるか」を具体的に盛り込むと、より伝わりやすいものになります。回答例をご紹介しますので、参考にしてください。
【回答例1 語学】
特技は、英語以外の語学の習得です。英語はビジネスレベルで、中国語とスペイン語についてはビジネスの利用経験はありませんが、大学時代に第二外国語で中国語を学んでから語学学習に興味を持ち、今もオンラインで学習を続けています。いずれも現地でコミュニケーションを取るには問題のないレベルだと考えています。
【回答例2 資料作成】
○○等のツールをフル活用し、プレゼンなどの資料作成を得意としています。「視認性に優れていて誰が見てもわかりやすい」と、社内外で私の作った資料の評価は高く、会社の提案資料のフォーマット作成を任されたり、同僚から内容のチェックを依頼されたりすることもよくあります。
「趣味・特技」を答える時の注意点・NGポイント
趣味・特技の質問が直接合否に影響することはほとんどありませんが、小さなことでもマイナス評価に結びつくような対応は避けたいもの。回答する時は次の点に注意しましょう。
楽しくても長く話しすぎない
好きなものや得意分野について聞かれると、つい夢中になってあれこれ話したくなる人もいますが、趣味・特技の話はあくまで面接においてサブ的な位置づけであることを忘れてはいけません。面接の時間は決まっているので、それだけ本題のアピールに使える時間が削られてしまいますし、アイスブレイクのはずの話が延々と続けば「空気が読めない人」と思われるリスクもあります。その分野に詳しくない人にも、分かりやすく端的に伝えられるよう、内容を整理しておきましょう。
話を盛ったり嘘をついたりしない
自分を飾ろうとして嘘の趣味や特技を伝えたり、知識がないのに詳しいふりをしたりすることはやめましょう。経験のある採用担当者なら、ごく簡単な質問で応募者の嘘を見抜いてしまいます。「嘘をつく人」「話を盛る人」と判断されれば、大きなマイナスポイントになるリスクもあります。
また、コンサルティングファームなどの採用では、ケース面接が行われることがあり、応募者の趣味・特技をテーマに問題が出題されることもあります(例:映画鑑賞が趣味の人に、日本の映画館の数を求めさせる「フェルミ推定」を出題するなど)。そうした場合、応募書類に事実と違う趣味・特技を記載していると、苦戦する可能性があるので注意しましょう。
【アドバイザー】
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。