【メディカル業界の転職】No.1ヘッドハンターに聞く年収・キャリア形成・最新動向

リクルートダイレクトスカウトが提携する約3,700名のヘッドハンターの中から、2021年にメディカル業界のハイクラス(年収800万円以上)転職決定人数部門ランキングでNo.1を獲得したエージェント、Apexの山村日向子氏にインタビュー。メディカル業界の最新転職動向とともに年収やキャリアのポイントについて伺いました。最近担当されたケースで高年収や満足度の高い転職をかなえた事例もご紹介します。

【メディカル業界の転職トレンド】採用は一時的に落ち込んだものの回復は早く、管理職以上の求人案件はコロナ前の水準に戻る

当社はメディカル業界に強みを持つ転職エージェントで、私は主に医療機器業界のコマーシャル部門(セールス・マーケティング)を担当しています。

医療機器業界は、コロナ直後は少なからず影響を受けました。高額の医療機器の購入を見送る動きや、コロナ禍でのセールス職の訪問自粛などがあり、2020年前半は採用を全面ストップする企業もありました。

ただ、医療機器は必要不可欠のものであるため他の分野に比べても業績回復スピードは速く、2020年後半からは採用も盛り返しました。2021年以降は、特に管理職以上の採用はコロナ前と変わらない水準まで戻ったという印象です。

【転職市場の今後の見通し】新たな戦略を考えるデジタルマーケティングやコマーシャルエクセレンスなどのニーズが増える

現在は、職種を問わず採用は堅調。特に旺盛なのはデジタルマーケティングのポジションで、今後も採用ニーズは増えると見られます。
医療機関へのセールス職の訪問制限が続く中、各社とも対面以外の方法でドクターにアプローチできる方法を考える必要が出てきました。そこで、デジタルマーケティングに関する知見を持ち、Webサイトの充実や医療従事者向けのコンテンツ作り、SNSの活用などの戦略を練り、実行できる人が求められています。

セールス職は、採用ニーズ自体は堅調ですが、分野によって取捨選択の傾向が強まっています。コロナ前は分野を問わず一括大量採用する企業もありましたが、自社が強みを持つ分野へと人員を集中させ、それ以外の分野は現状維持とする傾向は今後も続くと見られます。

一方で、効率的な営業戦略を考えるセールスプランニングやコマーシャルエクセレンスのポジションは今後さらにニーズが高まると見ています。このポジションは、医療機器業界よりも製薬業界のほうが進んでいて経験者も多いため、製薬業界から医療機器業界に転身する人が今後さらに増えると予想されます。

【決定年収の傾向】自社のニーズに合致する人材を慎重に探し、高年収を提示するケースが増加

採用ニーズ自体は堅調ですが、一つひとつの採用決定には慎重になる企業が多いと感じます。自社の募集条件にどれぐらいのレベルでマッチしているのか、ドクターとのネットワークはどれぐらい持っているのかなど、より踏み込んで確認するケースが増えています。
一方で、「この人は条件に合致している」「事業拡大に貢献してくれる」と確信した候補者に対しては、高水準の年収を提示する企業が多いようです。コロナ禍で転職を躊躇する人が一定数いますが、求める要件にピッタリ合った人に対しては、年収を上乗せするのでぜひ来てほしいとアプローチするケースもあります。

また、新たな注目領域として期待されている分野は、年収も上がる傾向にあります。現在、注目を集めているのはストラクチャーハート疾患(心臓構造的修復分野)。関連する医療機器のローンチが続いているため、心臓血管外科や循環器に詳しい人材は各社で争奪戦の状況になっており、年収提示額もつり上がる傾向にあります。その他、手術支援ロボットの領域でも最新のテクノロジーを使用した新製品のローンチが続いており、外科系のご経験を活かしてキャリアップを望める新しい市場となりつつあります。

【企業が求める人材像とキャリアのポイント】クリエイティビティとリーダーシップが求められる傾向に

ここ最近、職種やポジションを問わずクリエイティビティやリーダーシップを求める企業が増えていると感じます。

コロナ禍で、医療機器業界も新しいビジネスモデルを作らなければならない、従来型のセールスストラテジーを見直さなければならない…など変革が求められるようになりました。その際、知見を活かしつつも新しい時代に対応したアイディアを発案し、皆の意見をまとめながら戦略を練り上げ、先頭に立って組織を引っ張ることができる人が高く評価されています。特に管理職以上のポジションにおいては、クリエイティビティやリーダーシップがより強く求められる傾向にあります。

【求職者側の動き】先行き不安感が強まる中「慎重派」と「積極派」で二分化。若手中心にベンチャーで管理職を目指す動きも

山村日向子氏

求職者の動きは、コロナ禍で二分しています。
コロナがひと段落し先行きが見えてくるまでは様子を見ようと、転職に慎重姿勢の人が一定数いる反面、所属企業の組織再編や事業の選択と集中を受けて将来に不安感を覚える人の動きは活発化しています。「今すぐ転職したいわけではないけれど、いざというときのために業界の転職市場の動向や求人情報を知っておきたい」と相談に来られる方も増えています。

20~30代の若手においては、管理職のポジションを目指してベンチャーへの転職を志す人が目立っています。医療機器業界はテクノロジーとの相性が良く、医療×ITで新しいサービスを展開するスタートアップ企業が増えつつあります。昨今では、ベンチャーでも資金調達を行い、ほしい人材には高年収を提示するケースが増えているので、大手とそう遜色ない条件で転職することも可能。大手でセールスやマーケティングの経験を積んだ30代が、スタートアップの管理職に転身してハイクラス人材を目指すケースは、今後さらに増えると思われます。

高年収&満足度の高い事例TOP3を紹介

前述のように、自社が求める人材要件にマッチする人、自社の事業計画に必要なスキルや経験を持ち合わせている人には、高い年収を提示するケースが増えています。

【Case1:40代後半】日系企業での米国駐在経験者が、外資系メーカーの事業部長に転職、年収1700万円を実現

日系ヘルスケア企業の医療機器部門に所属し、長らく米国に駐在していたAさん(40代後半・男性)。米国では事業全体の責任者としてビジネス全体をマネージする立場にありましたが、帰国後はどうしても裁量の範囲が狭まるため、「裁量が広くチャレンジングな環境に移りたい」と希望されていました。

そんなAさんにご紹介したのは、外資系医療機器メーカーの事業部長のポジション。Aさんは、同社が今後拡販する予定の医療機器分野に知見があり、英語力も非常に高いことから、企業側はAさんを高く評価。Aさんも、事業部長として一つの事業全体を任されることにやりがいを覚え、マッチングが成立しました。

決定年収は1700万円。米国駐在時代は年収2400万円でしたが、帰国後は駐在手当がなくなり1600万円まで減収だったところを、100万円アップさせることができました。

【Case2:40代半ば】事業立ち上げ経験を買われ、大手メーカーのセールスディレクターに。年収は250万円アップの1800万円に

外資系医療機器メーカーでセールスディレクターの職に就いていたBさん(40代半ば・男性)。日本でのセールス組織の立ち上げから関わり、10年かけて同社の主力事業に育て上げたことから、「この会社ではもうやり切った。さらにチャレンジングな環境でステップアップしたい」との思いを持っておられました。

そんなBさんにご紹介したのは、外資系の大手医療機器メーカー。同じセールスディレクター職ですが、大手企業ならではのスケールを感じながらさまざまなことにチャレンジしてみたいと乗り気になってくださいました。
企業側も、単にセールス部門のマネジメントをするだけでなく、数字を分析しながらより戦略的に指示を出せる人を求めていたため、事業の立ち上げ経験があり、かつコマーシャルエクセレンスの経験も持ち合わせていたBさんを高く評価。同社のセールス部門は組織変更を行ったばかりであり、セールスディレクターには「新しい組織を作り上げカルチャーを醸成する」というチャレンジングなミッションが課せられていましたが、「Bさんの経験とスキル、そしてコミュニケーション力があれば任せられる」とマッチングが実現。年収は前職から250万円アップの1800万円で決定しました。

【Case3:40代後半】経験を買われコマーシャルエクセレンス部門の立ち上げ責任者に。年収は200万円アップの2200万円+ストックオプションで決定

中規模の外資系医療機器メーカーで、コマーシャルエクセレンス業務を担当していたCさん(40代後半・女性)。長らくデータ分析などに携わってきましたが、より経営に近い立場で裁量を発揮しながら、事業全体をスケールさせたいとの思いを持っておられました。

そんなCさんが転職したのは、外資系スタートアップ企業のコマーシャルエクセレンスディレクター。実は、Cさんにご紹介したのは別の職種でしたが、Cさんのご経歴を企業側にお伝えしたところ、「コマーシャルエクセレンス部門を立ち上げる段階にあり、その責任者を探している」とのニーズが判明。Cさんにとっては、これまでの経験をフルに活かせるうえ、経営ボードメンバーとして発言権を持つ立場に就けるという、希望にピッタリの案件。お互いにとってメリットが大きく、とんとん拍子で話が進みました。年収も、前職の2000万円から200万円アップの2200万円、それに加えてストックオプションも年間200~300万円相当分が付与されることで決定しました。

【メディカル業界のハイクラス転職のポイント】非公開求人の情報を持っているエージェントと定期的に情報交換を。英語力は日系企業でも必須に

山村日向子氏

ハイクラス案件になるほど、ポジション自体がコンフィデンシャルであるケースが増えます。「薬事承認が下りそうだから、その事業のヘッドとなる人が欲しい」「日本法人を立ち上げたいからカントリーマネージャーが欲しい」など、事業戦略に直結した採用が急きょ生まれるケースも少なくありません。したがって、希少な求人が公になることはほぼなく、特定のエージェントのみが情報を持ち、秘密裏に採用活動するケースが大半です。
したがって、今すぐ転職を考えていなくても、定期的にエージェントと連絡を取り、情報を収集することは重要です。

また、ヘルスケア領域において「英語力」は必要不可欠です。日常で英語を使う機会が少ない方であっても、自己研鑽するなどして英語力を高めれば、ご紹介できる案件数が圧倒的に増えます。
目安としては、外国人と1対1で会話ができることが最低ライン。できればディスカッションができたり、ミーティングをファシリテートできたりするレベルが求められます。面接では、実務ベースでどれぐらい英語を使っているか、どれぐらいの交渉経験があるかを見られるケースが多いようです。

英語力を重視するのは外資系に限ったことではなく、日系企業でも同様です。グローバルでのビジネス展開を目指して、経営ボードに外国人を招く企業が多く、日本語レジュメだけでなく英文レジュメの提出を必須とする日系企業が増えています。ヘルスケア領域のハイクラス転職においては、英語は避けては通れないと考えたほうがいいでしょう。

なお、ハイクラスの面接では、「自社の〇〇事業は今このような状況にあるのだけれど、あなたならどうする?」などアイディアを求められるケースが少なくありません。この質問に答えるには、応募先企業のビジネスや今後の方向性を理解しておく必要がありますし、自分自身の経験・スキルを棚卸しして、応募先企業ではどの経験が活かせるのか洗い出しておく必要もあります。
なかには、そのまま企業とのディスカッションが盛り上がり、より高年収で招かれるケースもあります。応募先企業を理解し、自分自身を理解することをぜひ心掛けてほしいですね。

山村日向子氏

Apex株式会社 コンサルタント

生物系理系学部卒業後、新卒で外資系製薬企業に入社。その後、外資系医療機器会社を経験した後、ヘルスケア業界のリクルーターとしてキャリアを積む。2018年にApexに入社、現在は医療機器チームのコンサルタントとしてコマーシャル部門、特に事業部長クラスから、マーケティングディレクター~プロダクトマネージャー、セールスディレクターといった案件を中心に担当する。

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