モノづくりの現場で「イノベーションは偶然の出会いから生まれる」と実感
理工(化学)系の大学、大学院を修了後、1990年に人材教育を手掛ける会社を立ち上げ、10年以上、企業向けにチームワークやリーダーシップ等を教える研修を行っていました。2000年からはITビジネスを手掛ける会社も立ち上げ、2社の経営に携わりましたが、一般企業への勤務経験がないまま経営者になったために、常に「企業経営とはこれでいいのか?独りよがりの経営になってはいないか?」と自問自答していました。
そんなとき、偶然見たインターネットの情報から東京理科大学が新たにMOT(技術経営)大学院を設けると知りました。入学案内を良く見ると、講師陣の中に、学生のころから尊敬する経営者である花王の常盤文克元会長の名前。当時、会社を経営する難しさ、それよりも自分自身の経営に対する哲学のなさ、自信のなさに対するジレンマを感じていた中で、「常盤元会長から経営を学んでみたい。」というただその”ひらめき”だけで入学を決意。
MOTではさまざまな戦略論を数多く学びましたが、その対極にある常盤元会長の「モノづくり哲学」の講義に自然と引き込まれました。「モノづくりは心」という考え方に共感し、もっとモノづくりの現場を知りたいと、MOTの先生方や仲間たちとNPO法人日本モノづくり学会を設立、全国各地の中小企業を回るようになったんです。ご存じない人がきっと多いと思いますが、当時あの新潟県の佐渡ケ島にノキアなど世界の名だたる企業を相手に事業展開している携帯電話向け部品メーカーがあったり、岐阜の山奥にボーイング社の飛行機の翼の部品を提供している加工メーカーがあったり…と、「こんなところに小さなグローバルメーカーが!?」と驚かされることが多々ありましたね。改めて日本の技術力の高さを実感するとともに、モノづくりの世界の奥深さ、技術者のモノづくりに対する情熱や粘り、そして技術に対する真摯な姿勢に感動しました。
そして同時に、「イノベーションとは、偶然の出会いから生まれる」ということもわかりました。ある技術と技術者が出会った瞬間、ある技術者と組織(経営者)が出会った瞬間などその一瞬一瞬が核となり、その核を経営者が粘り強く上手に育てていく先にイノベーションが創出されている。まさにそれが私が見たイノベーションが起こる現場でした。まさに、”人と人の出会い”と”技術と技術の交配”がイノベーションの”核”となることをさまざまなモノづくり企業を訪問する中で感じたのです。
そこで、「自分にはモノづくりはできないけれど、“出会い”を作り出すことで日本のモノづくりの現場を盛り上げ、元気にできるのではないか」と思うようになり、MOT大学院修了後に人材紹介を手掛けるジャパンクオリティリサーチを立ち上げました。人材紹介を通してイノベーションのための種まきをするのが、私の役割であり使命であると感じたのです。
よきモノづくりに国境はない。日本の技術は東アジアに広がる
そして、人材紹介ビジネスを始めて4年目になりますが、今では、クライアントの8割以上が海外メーカー。中国、韓国など東アジアのモノづくり企業が中心となっています。立ち上げ当初は、「日本の中小メーカーを元気にする」を念頭に置いて活動。素晴らしい技術を持った中小企業と、異分子となり得る技術者とを結ぶことで、イノベーションを創出することに注力していました。
一方で、NPO活動からアジアへと人脈が広がり、アジア各国の中小企業団体や、技術系の大学などから勉強会や講演などの話が舞い込むように。それに付随して、アジアの製造業を視察する機会が急増したのです。中国、韓国、台湾、そしてモンゴル…さまざまな国のモノづくりの現場を回るなかで、アジアにおいても高い技術力を持ち、モノづくりに情熱を注いでいる企業が多数存在することを知りました。
それまでは、「モノづくりは日本の専売特許」と思っていたし、アジアのメーカーには量産専門の安かろう悪かろうのイメージを勝手に持っていましたが、ガラリとくつがえされましたね。
この経験を機に、モノづくりにおけるイノベーションの土壌は東アジア全土に広がっているのだと実感。これからは日本のみならず広く東アジア全体を見据え、さまざまな国でイノベーションの種まきをしようと決意したんです。まさに、経営の競争が東アジア全体に広がり、野心とビジョンある経営者のもとへ技術が集まりつつある、というのが私の東アジア観です。日本からアジアへの技術の流出は、単なる時流ではなく、イノベーションの創出から考えると極々自然な流れだと私は考えています。おそらく次のイノベーションは、韓国や中国が舞台となるかもしれません。
そこで、人脈をたどって志ある中国や韓国のメーカーに働きかけ、技術に対する想いと誇りを持った日本の技術者をつなぐ活動を始めたところ、予想以上の反響が得られ、引き合いが急増。現在では、クライアントであるアジア企業からの要望で、人材紹介だけでなく、日本企業との業務提携や技術に関するコンサルティングも行っています。
目指すは、東アジアNo.1の技術と技術系人材のコンサルティング会社です。
東アジアは成長マーケット。熟練技術者の採用ニーズはますます高まる
製造業における現在の求人動向を見ると、最先端技術を持った技術者は日本企業、それ以外の技術は中国中心にアジア各国で求められているという印象です。
国内においては今後の事業拡大が見込めない、日本ではすでに当たり前となりつつある技術分野で長年にわたり経験を積み、技術力とクオリティーの向上に努めてきた技術者は、中国企業では引く手あまた。特に自動車部品や素材系の技術は高く評価されています。
例えば、社員数200名程度で、年率2ケタ成長を続けている中国のオイルシールメーカー。新たに車載部品に進出を目論んでいましたが、そのためにはさらに品質を高める必要がある。「高い技術力と豊富な経験を持った日本の技術者の力を借りたい」と社長からご相談を受けました。
そこで私がご紹介したのが、大手ゴム部品メーカー出身の62歳の工場長経験者。60歳で定年退職した後、日系ゴム部品メーカーで技術顧問をしていましたが、「いくつになっても国を問わず現場の仕事に関わりたい」との思いから当社にご登録くださっていたのです。社長は大いに喜び、「製造工程の見直しだけでなく人材教育もすべて任せたい」と彼に3年間の有期で社長職を譲り、経営全般を任せることになりました。まさに、人と人の出会いにより企業の内発的な力が誘発されたよい例だと思います。
そのような事例が増えてきているのも今の中国です。東アジア、特に中国市場はダイナミックに変化しつつあることを日々私は実感しています。
このように、日本の技術者ならではの技術クオリティーの高さを評価し、入社後のイノベーションを期待して、中小でも厚待遇で迎えるケースは非常に増えています。技術者として、自らの技術に自信を持ち、プロだと胸を張って言える方であれば、アジアに目を向ければ活躍の場はどんどん拡がっています。しかも、「技術力は年齢に左右されない」という考え方が主流であり、50代、60代の方でもニーズは確実に増えています。「生涯を通して技術者でありたい」「自分が身につけた技術を”国を問わず”次の世代へ繋いでいきたい」と願う方には、東アジアはとても魅力的な市場。是非前向きに検討していただきたいですね。
ジャパンクオリティリサーチ株式会社 代表取締役
松山 隆幸さん
慶応義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修了後、1990年に人材教育ビジネスを手掛ける会社を立ち上げ、リーダーシップ研修、チームワーク研修などを手掛ける。2000年からは並行してIT関連会社も経営。2004年より2年間東京理科大学専門職大学院で新事業創出・起業のための技術経営(MOT)を学んだことを機に、「異質な技術者と組織の組み合わせこそがイノベーション創出につながる」と2010年人材紹介ビジネスへ進出。豊富な経験とスキルを持つ日本の技術者と、国内のみならず東アジア、特に韓国や中国のモノづくり企業とのマッチングに力を注いでいる。