銀行・証券の2023年度上半期の転職市場の求⼈・求職者の動きを、業界に精通した株式会社リクルートの人材領域で活躍するキャリアアドバイザーがレポートします。「2023年度上半期の転職市場や業界トレンドを知りたい」「納得感のある転職活動のために、採用動向を知っておきたい」という方はぜひ参考にしてください。
銀行・証券の2023年度上半期の転職市場の展望を一言でいうと
銀行は活況、証券は変わらず堅調に推移。銀行の新規事業などでは異業界出身者も歓迎。
制度・環境変革が進み、離職防止につながるケースも。銀行では幅広い業界から流入。
1.【銀行・証券】業界・企業側の動き
銀行の求人数が過去最高水準に達しています。2~3年前と比較し中途採用計画数は2~3倍に拡大。新卒採用を減らして中途採用にシフトする動きが見られています。背景にあるのは2021年施行の「改正銀行法」。本業以外の事業への参入障壁が下がり、新規事業への取り組みを強化しています。特に採用意欲が高いのは、M&A・LBO(※)・プロジェクトファイナンス・企画系(経営企画・事業企画・業務企画)など。また、リスク管理・コンプライアンスの高度化を図っており、これらのポジションもニーズが高まっています。
直近で増加しているのは、個人/法人向け問わず「決済」領域におけるサービス高度化企画などで、新たな求人も生まれています。また、海外事業において、「海外駐在確約」の中途採用求人が多数出てきているのも最近の傾向です。すでにコンサルティング業界経験者などからの採用事例が生まれています。
また、まだ事例は少ないですが、金融機関外の異業種からの転職実績も増加傾向にあります。具体的には、メーカー・エネルギー企業・IT企業・官公庁などから、専門性が高い人材やプロジェクトマネジメント、社内調整に長けている人材が採用に至っていて、管理職での採用に至った事例もあります。
中途採用拡大を打ち出した企業が目立った2022年初頭から、銀行は応募者に寄り添った採用活動を強く意識し始めました。選考期間を大幅に短縮しつつ、丁寧な面接を行い、採用現場の協力も得て応募者が知りたい情報を提供しています。そうした努力が、各社採用成功につながっています。さらに、人事制度改革への取り組みも進めています。
また、2023年に入り、アルムナイ(退職者)コミュニティの構築、アルムナイの再雇用にも注力しています。証券も、求人数は引き続き過去最高水準で推移。サステナビリティ経営の支援に向け、ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)関連の採用ニーズが継続しています。直近数カ月では、富裕層への接点強化を目指し、「ウェルスマネジメント」「プライベートバンキング」の採用に注力する動きも目立ってきました。年収テーブルを見直し、専門性が高い人材に報酬を出していこうとする傾向も強くなっています。
2.【銀行・証券】求職者側の動き
以前は出向や役職定年を機に退職するケースも多く見られましたが、近年では働く環境も改善されたため、長く銀行に勤める専門職の方も見られます。一方、前述のとおり、異業界から銀行への転職者は増加。異業界出身者にとって「年収の高さ」「一次情報収集がしやすいネットワーク」「市場や社会への訴求力・影響力」などが魅力を感じるポイントです。なお、メーカーでリスク管理・コンプライアンスを手がけていた方が「より規制が厳しいフィールドでスキルを磨きたい」と、金融業界に転職した事例もあります。
リモートワーク制度を求める声も多くなっています。「育児支援」への意識や体制を含め、ダイバーシティ施策にどれほど本気で取り組んでいるかも注目されています。証券会社では目標設定や顧客への向き合い方の方針を変えたことから、それらを理由とした退職者が減っている印象です。
※ LBO:Leveraged Buyout(レバレッジド・バイアウト)M&Aで買収対象となる会社(売り手企業)の信用力を担保に融資を受け、買収資金を調達する手法
2023年度上半期のそのほかの業界の動向について知りたい方は、こちらを参考にしてください。
【2023年度上半期】転職市場の動向|17業界コロナ禍後の中途採用・転職活動の最新状況を解説
早﨑 薫
新卒で大手都市銀行に入社。法人営業として、ベンチャー、中小、大手問わず幅広い規模、業種の企業を担当。法人営業をする中で、多くの企業の事業成長には、適切な人材の登用が必要不可欠だと感じたためリクルートに転職。現在は、金融領域専門コンサルタントとして、大手金融機関におけるリーダークラスからディレクタークラスの転職支援を担当。
水谷 努
金融領域出身。リクルートキャリア(現リクルー ト)においては金融領域専門のアドバイザーとして多数のメガバンク・メガ証券・大手生損保出身 者、リースや運用会社出身者まで幅広い転職支援 実績を誇る。