充分、検討して決めたはずの転職先。ところが、入社してから、自分に合わないと感じてしまう人も少なくないようです。そこで今回は、転職先が合わないと感じる理由や辞めたいと悩んだときに役立つ対処法、再転職を考える場合のメリット・デメリットについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
転職先が合わないと感じる理由
転職先が合わないと感じるのは、どのような理由によるものでしょうか。代表的なものをいくつかご紹介します。
経営陣や上司、同僚との人間関係
経営陣や上司、同僚など、転職先でかかわる人たちと「合わない」と感じるケースです。自分の意見や感情が充分に相手に伝わっていなかったり、相手の言動や態度に違和感を覚えたりと、意思疎通がうまくいっていないことが原因のひとつと考えられます。
加えて、考え方の相違に端を発する問題もあるでしょう。特に、管理職クラスの場合、経営方針やマネジメントに対する考え方の相違が生じることも考えられます。
仕事内容や仕事の進め方
転職前にイメージしていた仕事内容と実際の仕事内容が異なっていた場合も、違和感を覚えることがあるでしょう。また、転職先の仕事の進め方が合わないと感じる場合は、前職やこれまでの経験に縛られている可能性も考えられます。過去の成功体験ややり方に固執してしまうあまり、転職先でのやり方を受け入れられない事態にも陥りがちです。
特に管理職クラスは、早い段階で目に見える実績を求められることもあり、前職での方法論やマネジメントスタイルを転職先でも貫こうとした結果、同僚や部下に受け入れられなかったというケースも少なくないようです。
社風・職場の雰囲気
転職先の社風が自身の価値観や目標に合わないことが、モチベーションの低下や負担感、ストレスの増加を招いてしまうケースです。例えば、個人の裁量権を多く持って働きたいという人が、トップダウン型の会社に入社した場合、「意見やアイデアを自由に発信することが難しい」などといった点で、合わないと感じるかもしれません。一方、チームワークを重視したい人が、個の独自性を評価する会社に入った場合、人間関係やコミュニケーションの面でストレスを感じることもあるでしょう。
労働環境・待遇面
入社前に提示された求人条件と実際の条件が異なっていたケースなどが考えられます。また、例えば「前職では、比較的自由に出張に行かせてもらえたが、転職先ではなかなか認められない」「以前の職場では、リモートワーク用のPC購入費が会社から補助されていたのに、転職先では補助されない」など、経費や福利厚生費面での違いも、「合わない」と感じる原因となるようです。
転職先が合わないと感じた際に今すぐできる対処法
転職先が合わないと感じたときは、どのように行動すると良いでしょうか。
新しい環境に馴染むよう努力する
社会人経験が長かったり、前職で高い実績を上げたりした人でも、転職によって環境が変わることで、戸惑ったり、焦ったり、プレッシャーを感じたりすることは、決して珍しいことではありません。むしろ、それが当たり前と考え、転職後3カ月くらいの間は、まずはすぐに行動を起こさずに新しい環境に馴染むことに注力するのも一案です。
そのためには、職場の同僚と積極的にコミュニケーションをとって関係性の向上を図り、仕事の進め方や社風などの理解を深め、環境の改善を試みましょう。例えば、人間関係がネックになっている場合は、自分の意見や感情を率直に伝えてオープンな対話を心がけると同時に、相手の意見や視点、価値観を理解しようと努めることも大切です。相手への共感や理解を示したり、ときには仕事以外の雑談をしてみたりすることで、お互いの共通点や趣味などの話から関係を深めていくのも良いでしょう。仕事の進め方や考え方が合わない場合は、新しい知見を得るチャンスと捉えて取り組むのも一案です。
経営陣や上司とのコミュニケーションを図る
経営陣や上司とのコミュニケーションを意識的にとることも心がけてみましょう。株式会社リクルートが行った「転職者に聞いた転職後実態調査(転職後半年~1 年の方対象)(※)」によると、上司からの業務支援を受けている人や、周囲から期待されている人、自分の持ち味を理解してもらっている人、周囲との協働を実感している人が、転職後にいきいきと働けている傾向が示されています。経営陣や上司とのコミュニケーションを通じて、サポートを受けたり、自身を理解してもらったりすることには、一定の効果が見込めると言えそうです。また、そうしたコミュニケーションを通じて、会社と「合わない」と感じていることを率直に相談するのも一つの手です。
(※)出典:株式会社リクルート「転職者に聞いた転職後実態調査(転職後半年~1 年の方対象)」(2023年)
人事に相談する
中途入社した際に自分の採用にかかわった人事担当者に相談するのも良いでしょう。転職理由や選考を通じて伝わった人となりを理解してくれているため、より客観的かつ親身なアドバイスやサポートが期待できそうです。例えば、同じような経歴を持つほかの中途入社者を紹介してもらって悩みを共有したり、役員に働きかけて面談の機会を設けてもらったりといったことを依頼してみるのも良いでしょう。
今の職場で実力を蓄える
次の転職を見据えつつ、現在の環境を活かして、スキルアップに努めたり、経験を積んだりするのも一案です。たとえ人間関係が合わない場合でも、「仕事内容にはやりがいがある」ということであれば、「この事業のマネジメントができる立場を活かして1年は頑張ろう」「このプロジェクトを達成するまでは続けよう」といった割り切り方で取り組むのも良いでしょう。そうするうちに、より多くの人とつながることで環境が改善され、「合わない」という気持ちが解消されることもあるかもしれません。
転職支援サービスを利用する
すぐに転職する気がなくても、転職のプロに相談することで、「今の自分にはどういう転職先があるのか」という最新の求人情報を得ておくことができるでしょう。例えば、転職エージェントやスカウトサービスに登録する職務経歴などの情報を更新していくことで、より最新の情報や自身に適した情報を得られる可能性があります。また、そうすることで、次に転職活動を始めるときにも、スムーズにスタートできるでしょう。特に、辞めようかどうか迷っているのであれば、転職エージェントの担当者に相談することで、自身の今の状態を客観視することにつながったり、今の職場での取り組み方についてアドバイスが受けられたりするかもしれません。
転職先が合わなくて再転職を考える場合のメリット・デメリット
転職先が「合わない」と感じて、すぐに再転職を検討する場合、どのようなことを知っておいたら良いでしょうか。転職後まもなく再転職した場合のメリットとデメリットを考えます。
再転職のメリット1 環境を切り替えられる
転職後どうしても職場に馴染めなかったり、自分の望んでいた仕事ができない環境で能力やスキルが発揮できなかったりする場合は、再転職を検討することも一つの選択肢です。「合わない」と感じている会社で仕事をすることに感じるストレスや、仕事のパフォーマンスが発揮できない状態を続けるよりも、切り替えて自分の力を発揮できる転職先を探すほうが、長い目で見てメリットがあるとも考えられます。
再転職のメリット2 心身の健康維持が期待できる
仕事のストレスや不満が体調に影響を及ぼし、心身の健康やパフォーマンスに支障をきたす可能性がある場合、早めに再転職することで負担が軽減し、それ以上の体調悪化を防ぐことができそうです。
再転職のメリット3 新たなスキルを身につけられる
転職することで新たなスキルや知識、経験を身につけられる可能性があります。「この業務はもう経験したから、次の新しい経験・スキルを身につけに行こう」といった具合に、転職先に求めることが明確になり、キャリア設計に活かせるのも、再転職のメリットと言えそうです。
再転職のデメリット1 定着しにくい人材と思われる可能性がある
転職後、数週間で退職した場合などは、再転職の際、応募先企業に「定着してくれないのではないか」と懸念を抱かれることも考えられます。そのため、早期退職の理由を説明することが求められるでしょう。また、その際、不平や不満を列挙したり、誰かに責任を転嫁したりすると「他責傾向のある人」という印象を与えてしまう可能性があります。極力、ポジティブな言い方にあらためたり、意欲をアピールしたりする方向で伝え方を工夫すると良いでしょう。
再転職のデメリット2 応募できる求人が限られる傾向がある
直近に転職活動をしていたために、希望条件に合う求人の多くは応募・選考済みの可能性があります。特に管理職クラスの場合、採用の枠自体が少ないので、条件に合う求人が限られていることも想定されます。そのため、面接など選考の場では、自分が再転職先に求める「軸」を明確にして、応募先とのすり合わせを十分に行いましょう。転職エージェントやスカウトサービス、リファラル採用やビジネスSNSなど、自身の対応し得る限りで応募の経路を増やしたり、応募先の業種を広げたりすることも検討しましょう。
再転職のデメリット3 経済的に苦しくなる可能性がある
次の転職先が決まる前に退職した場合、退職後の転職活動が長引くことで、ブランクができてしまうケースもあります。経済的に苦しくなり、再転職先を妥協せざるを得なくなると、結果として再び「合わない」転職先に甘んじなければならない事態も想定されます。貯蓄を準備したり、家族・パートナーの理解を得たりしたうえで、退職後の転職活動に臨むことも一案です。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。