
30代での転職は、どのような点に留意して進めると良いのでしょうか。年齢で厳密に区切ることはできませんが、30代の転職で知っておきたい転職活動のポイントや、目指したいキャリアを実現できる人の特徴について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
30代の転職市場の傾向
転職活動を始める前に、まずは転職市場の傾向を把握しておきましょう。30代の転職市場の傾向や特徴には次のようなものが挙げられます。
転職者の3割強が30代
株式会社インディードリクルートパートナーズの調査によると、転職支援サービス『リクルートエージェント』を利用して2024年7月〜12月の間に転職が決まった人の平均年齢は36歳で、30代が占める割合は34.23%でした(※1)。30代も含めて、幅広い年齢で転職先が決まっていることが分かります。
(※1)出典:『リクルートエージェント』転職市場データ「転職者の平均年齢」
業種や職種を超えた「越境転職」が加速
採用する側の企業は、職務経験が長くなってきている求職者に対しては即戦力となる実績・スキルを求めるケースが多くなります。ただし、「即戦力」の定義は、かつてほど限定的ではなくなりつつあり、企業によって幅が出てきています。
というのは、転職支援サービス『リクルートエージェント』の10年間の転職者分析によると、2022年度に転職を決定した30代のうち、30〜34歳の35.7%、35〜39歳の31.4%が、異業種かつ異職種に転職しています。また、異業種かつ同職種に転職した人も、30〜34歳では33.9%、35〜39歳では35.6%と、それぞれ3割を超えています(※2)。
背景には、各産業・企業においてビジネスのあり方が変革し、事業の再定義が行われていることに呼応して、社内には居ない異業種や異職種の人材を積極的に採用する動きがあります。また、働く個人も、人生100年時代を見据えて成長機会を求め、経験した業種や職種にとらわれずに越境し始めていることがうかがえます。この傾向から、業種・職種を超えて応用できるスキルや経験を整理することが重要とも言えるでしょう。
(※2)出典:『リクルートエージェント』転職者分析(2013年度〜2022年度)
リーダー・管理職経験を求めるポジションが増える
職務経験が長くなると、リーダーや管理職などマネジメント経験が問われるケースが見られます。メンバーの育成・管理を行うピープルマネジメントや、タスクや進捗の管理を行うプロジェクトマネジメントの経験などがない場合は、現職でリーダーを任せてもらってから転職活動を開始するという方法も考えられます。
30代の転職で目指すキャリアを実現できる人の特徴
識者が支援した事例を見ると、30代の転職で目指すキャリアを実現できる人の特徴には、大きく次の3つが挙げられます。
自分の経験・スキルが言語化できている
求職者と採用担当者の経験してきた業界や分野などの違いから、求職者の実績や経験、スキルについて、十分な説明なしに採用担当者が正確に理解するのは困難なケースがあります。自身の経験してきた業界や分野に詳しくない人が聞いてもある程度理解できるよう、具体的な内容やレベル感を言語化できていれば、採用担当者に伝わりやすくなります。そのためには、自己分析やキャリアの棚卸しをして強みを整理し、言語化することが重要です。
広い視野で転職活動をしている
先述したように、近年は異業種や異職種からの中途採用を積極的に行う企業が見られ、30代の転職者においても、「異業種×異職種」「異業種×同職種」に転職する人がそれぞれ3割を超えています。一方で、「同業種×同職種」の転職パターンは2割程度にとどまっているという調査結果も出ています(※3)。目指したいキャリアや転職理由に基づいて異業種や異職種などにも視野を広げることは、転職活動がうまくいく可能性も広げることにつながるでしょう。
(※3)出典:『リクルートエージェント』転職者分析(2013年度〜2022年度)
転職の「軸」を明確にしている
転職に際して大事にしたいことや、転職の目的を実現するために譲れないことなど、転職の「軸」と呼ばれるものが明確だと、「応募企業を決める」「自己PRや志望動機など選考で伝える内容を検討する」「入社企業を決める」といった転職活動の各段階での判断に迷うことが少なくなります。
30代の転職活動のポイントと注意点
転職市場の動向や特徴、目指すキャリアを実現できる人の特徴などを踏まえると、30代での転職活動のポイントと注意点は、次のようなものが挙げられるでしょう。
キャリアプランを整理しておく
今まで積み上げてきた経験・スキルを棚卸ししたうえで、どの領域・スキルを伸ばしていくのかを考えましょう。将来的にどのようなキャリアを描きたいのかをあらかじめ整理しておくと、求人を選んだり、志望動機を考えたりする際にも役に立ちます。
業界・職種未経験に挑戦する場合は、活かせるスキルを探す
未経験の業界や職種にチャレンジしたい場合は、応募先企業が求めることとこれまでの経験・スキルと共通するものがないかを洗い出してみましょう。中途採用において企業が求職者に期待するスキルには、その業務・職務を遂行するために欠かせない専門的な知識や技術などの「テクニカルスキル」と、論理的思考力や交渉力など、どのような業界・企業・職場でも通用する「ポータブルスキル」があります。テクニカルスキルだけでなく、ポータブルスキルに着目することで、業種や職種を超えて応用できるスキルに気づくことができるかもしれません。
条件の優先順位を決める
社会人経験が長くなると、転職に際してさまざまな希望条件を設けてしまうことがあります。譲れない条件を持つことは大切ですが、あまりに高望みをしてしまうと希望通りの求人がなかなか見つからず、転職活動が長期化してしまう可能性もあります。希望条件を、「譲れない条件」と「望ましい条件」の2つに整理し、優先順位を明確にしておけば、転職活動をよりスムーズに進めることが期待できるでしょう。
応募先の企業を絞りすぎない
応募する企業はできる限り柔軟に考えましょう。最初から現職以上の条件にこだわったり、同業界・同職種に固執しすぎたりしないこともポイントの一つと言えるでしょう。年収については、最初から高い年収を求めるのではなく、応募企業に入社してから実績を上げて給与アップを実現するという方法もあります。また、勤務地や転勤の有無など働く場所の希望に関しても、テレワークなど柔軟な働き方を取り入れる企業も増えているため、現時点での条件にこだわりすぎると選択の幅を狭めてしまうことになるかもしれません。視野を広げてみることで、思いがけないチャンスに出会える可能性も十分考えられるでしょう。
企業からの期待値を上げすぎない
「できないこと・やったことがないこと・知らないこと」については、決して背伸びをせず、誇張しないようにしましょう。多少知っている程度のことや、あまり深く携わったことがないことを、安易に「できる」と言い切ってしまうと、入社後にプレッシャーとなる可能性があります。ギャップが大きかった場合は、評価ダウンにつながるばかりか、会社に居づらくなることも考えられます。
働くイメージが曖昧なまま入社を決めない
内定承諾までに分からないことは素直に質問し、できるだけクリアにしておくことが大切です。仕事内容のほかにも、入社後のキャリアパス、働く環境、業務で使用するツール、勤務時間などを含めた働き方、企業のカルチャー、人事評価などを確認し、高いモチベーションを保ちながら働けるかどうかを具体的にイメージするようにしましょう。
【事例】30代の転職での理想のキャリアの実現例
30代の転職で本人が理想とするキャリアを実現できた人の事例を2つ紹介します。
積極的に自分の強みを明確化する機会を持つことで、経験をフル活用できる場へ
異なる業界の複数の企業で営業や新規事業開発などを経験後、化粧品のDtoC(Direct to Consumer)企業で営業・マーケティング部門の役員を務めていたAさん(30代)。会社の経営悪化を機に転職活動を始めました。
しかし、多様な経験をしてきたために、強みやアピールポイントを転職エージェントに正確に伝えきれず、なかなかマッチする求人の紹介を得られないという課題に直面。
そこで、改めて自身の強みやアピールポイントを整理して言語化するとともに、登録した自身の経験・スキルに興味を持った企業や転職エージェントから直接スカウトを受けられるスカウトサービスに登録。積極的に面談に応じることで、自身に合う企業を絞り込むことができました。
結果、同業界の企業に執行役員(グループ企業の経営者候補)での採用が決定。化粧品の企業で培った経験・スキルをフル活用できる場を選択されました。
焦らずじっくり取り組むことで、高水準の希望を実現
ITコンサルタント・マネジャーの経歴を持つBさん(30代)は、出産を機に家族との時間をもう少し持ちたいと思うようになり、転職エージェントやスカウトサービスを複数併用して転職活動を開始。
Bさんの経験・スキルは非常に市場価値が高く、高年収の仕事や役員候補など多くのオファーがありましたが、希望条件(ワーク・ライフ・バランス、IT領域での最先端のキャッチアップ、スタートアップ企業、年収、リモートワークなど)をすべて満たすには至りませんでした。
Bさんは現職でワーク・ライフ・バランス以外に大きな不満はなくやりがいも感じていたため、条件を妥協することなく、高収入・役職のオファーに揺れることもなく、焦らずに半年以上かけて転職活動に取り組みました。
結果、希望条件を高水準で実現できる場として、IT関係のスタートアップベンチャーのカスタマーサクセス・マネジャーへの転職が決まりました。
【事例】30代の転職でのミスマッチ例
一方で、入社後にミスマッチが起こった事例もあります。2つ紹介します。
リサーチ不足とキャリアの過信で起こったミスマッチ
監査法人で公認会計士として各種監査やアドバイザリー業務をされていたCさん(30代)。IPOを経験してキャリアアップを図りたいと考え、IPO準備中の企業の管理部門のマネジャーに転職しました。
転職先は知名度のある企業であったことから、Cさんは経営者の価値観や社風について十分に調べないまま入社を決定。IPOを目指すと言いながら体制の整備が全くされていないことに気がついたのは入社後のことでした。思い描いた経験やスキルが得られないどころか、オーナー社長が管掌する営業を始めとしたフロント部門の発言権が強く、管理部門は社内での立場が弱い状況にありました。
また、Cさんは自身の専門性を発揮すれば事業会社でもスムーズに仕事を進めることができると思っていましたが、監査法人と転職先では評価や仕事の進め方が異なり、自信を持っていた専門性はほとんど評価されないまま、約1年半在籍して退職しました。
将来の「独立」のためのキャリア形成のつもりが、早期退職に
人材サービス企業で営業をされていたDさん(30代)は独立するために退職。しかし、計画がうまく進まず、独立は一旦断念して転職に切り替えました。
転職エージェントやスカウトサービスを活用して転職活動を進め、将来の独立を見据えて規模の小さなベンチャー企業で経営者の近くで働くことを選択。小規模ながら営業部長として経験を積めることも魅力でした。
しかし、実際に入社してみると、仕事の進め方や営業方針についての経営者との相違が大きく、営業部長としての戦略立案や実行が思うようにできないまま、人間関係が悪化していきました。
また、前職では各種ツールや手続きが当たり前のように整備されていましたが、転職先では勝手が違い、労働環境にも不満を抱えるように。独立につながる経験も積むことができず、年収や役職などのキャリアアップの面でも見込みとのずれが生じたことから、1年弱の在籍で中規模の人材会社に営業として転職しました。
30代の転職Q&A
30代の転職にまつわる「よくある疑問・質問」にお答えします。
以前はよく言われた「35歳限界説」ですが、現在は転職市場も変わりつつあり幅広い年齢で 望み通りの転職を実現できるケースは増えています。長期戦も視野に入れながら、根気強く転職活動を行いましょう。
条件によっては可能です。厚生労働省の雇用動向調査によると、令和6年度上半期に転職した人のうち、「前職よりも賃金が増えた」という人の割合は、30代では4割を超えていました。また、「1割以上の増加」と回答した人は、30~34歳で32.9%、35歳~39歳で35.4%でした(※5)。年収アップの可能性はあると言えるでしょう。
(※4)出典:厚生労働省「雇用動向調査」令和6年度上半期「転職入職者の賃金変動状況別割合」
30代の転職は自身の経験・スキルを把握することが大切
かつては転職が難しくなると言われていた年齢であっても幅広い年齢で転職先が決まっており、転職できるのは何歳までという制限は以前ほどなくなってきています。 自身の経験・スキルを十分に言語化し、広い視野を持って転職活動を行いましょう。
粟野友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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