50代の転職活動のポイントとは?転職が実現する人の特徴も解説

オフィスにてパソコンを操作する人

「人生100年時代」と言われ、70代まで働き続ける未来が現実味を増している中、定年を待たずに転職して「セカンドキャリア」を築くことを検討する方が増えています。そこで、50代の転職市場の傾向や転職活動のポイント、理想のキャリアを実現できる人とそうでない人の特徴などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

50代の転職市場の傾向

転職活動を始める前に、まず転職市場の傾向を知っておきましょう。50代の転職市場の傾向や特徴について解説します。

50代でも約4割が転職を考えている

「就業者の転職や価値観等に関する実態 調査2022」(株式会社リクルート調べ)(※1)によると、年代が高くなるほど転職意向は低くなる傾向がありますが、50代でも約4割の人に転職意向が見られ、約1割の人は転職活動中とのデータがあります。

(※1)出典:株式会社リクルート「就業者の転職や価値観等に関する実態 調査2022」

50代での転職は、以前と比べると増加傾向

年代別の動向では、50代の転職は他の世代に比べると多くはありません。ただし、近年は少子高齢化による働き手の減少や、働き方の多様化を背景に、50代の転職が増加傾向にあります。総務省が2022年11月に発表した「労働力調査 第5表 年齢階級別転職者数及び転職者比率」(※2)でも、45~54歳の転職者数は2018年からコロナ前の2020年まで年々増加していることが分かります。

(※2)出典:総務省 労働力調査 「第5表 年齢階級別転職者数及び転職者比率」

少子高齢化時代を迎え、高まる「ミドルシニア(※3)雇用」の気運

昨今は少子高齢化に伴い、労働人口の減少が課題となっています。人材不足を解消するため、女性や外国人のほか、ミドルシニア人材の活用を強化する企業も増えつつあります。「定年制度の延長」や「定年廃止」を打ち出すなど幅広い業界・業種でミドルシニア層の活用が広がっています。

改正高年齢者雇用安定法の成立により、70歳まで働ける社会になりつつある今、50代の方の転職も今よりも増えていく可能性があるでしょう。

(※3)この記事では「40~60代」を「ミドルシニア」と定義しています。

50代の人が転職を検討する理由

前述した「就業者の転職や価値観等に関する実態 調査2022」(株式会社リクルート調べ)によると、転職を検討する理由には「仕事内容への不満」「人間関係への不満」「賃金への不満」「労働条件や勤務地への不満」がどの年代にも共通して上位4項目を占めています。

50代が転職を検討する理由で他の世代と大きく異なる点は、5番目が「定年」であることです。大手企業では、業績好調であっても将来を見据えて組織の再構築を図るため、「早期退職プログラム」を導入するケースが増えています。いわゆる「黒字リストラ」と呼ばれているものです。こうした動きを受け、働き手も定年退職までの在籍が難しいと感じ始めています。その結果、50代に設定されることが多い「役職定年」までに「セカンドキャリア」へ踏み出そうとする方も少なくありません。また、家族の介護などプライベートのやむを得ない事情で、転職を検討するケースも見られます。

50代の転職、理想のキャリアを実現できる人の特徴

50代の転職で理想のキャリアを実現できる人の特徴には、「攻めの姿勢で転職活動を行なっている」「役職よりも役割を重視している」といったことがあります。それぞれについて解説します。

攻めの姿勢で転職活動に行っている

50代の転職で理想のキャリアを実現できる人は、自分の市場価値をきちんと把握した上で、転職エージェントに「こういった企業やポジションを探してもらいたい」といった提案をしたり、スカウト型サービスに登録してカジュアル面談を積極的に申し込んだり、転職サイトや企業のホームページから応募したりなど、自ら動き、「攻め」の姿勢で転職活動を行なっているという特徴があります。

役職よりも役割を重視している

「役職」や「条件」よりも、入社後に自分が担う「役割」や「経営陣との相性」など入社後に転職先で活躍できるかどうかを重視していることも、50代で理想のキャリアを実現できる人の特徴のひとつです。

50代の転職、理想のキャリアを実現できない人の特徴

50代の転職で理想のキャリアを実現できない人の特徴には、「希望条件を固定し、自分からは動かない」「これまでの経歴や役職に固執しすぎる」といったことがあります。それぞれについて解説します。

希望条件を固定し、自分からは動かない

例えば「上場企業で年収〇万円以上希望、役職は部長職以上に限る」など、複数かつ高い希望条件を設定して譲らない人の中には、転職がうまくいかないケースが見受けられます。さらに、高い希望条件を叶えようと自身で企業を探すことをせずに、転職エージェントやスカウト型サービスに登録だけして積極的には動かない「受け身の姿勢」の場合は、より転職の難度は上がるでしょう。「他人任せ」「他責志向」は理想のキャリアが実現できない人の特徴の一つです。転職活動がうまくいっていない人は、まずは求人に応募してみるなど、自らアクションを起こすことで状況が好転することもあるでしょう。

これまでの経歴や役職に固執しすぎる

面接での自己アピールの際に、前職の企業規模や知名度、役職、実績に固執しすぎる人は、採用担当者から「仕事に関する変化対応ができないのでは?」「アンラーニングしてもらえないのでは?」といった懸念を持たれ、評価を得られない可能性があります。これまでの経歴や役職に固執しすぎず、柔軟な姿勢を見せることでポジティブな評価を得ることができるでしょう。

50代の転職が有利になる経験・スキル

50代の転職が有利になる経験・スキルをご紹介します。

高度な専門性

特定の専門領域において深い知見と高度なスキルを持つ人材は、合致する求人数はあまり多くないものの、企業側のニーズにぴったりマッチすれば高待遇で迎えられます。

組織風土を変革する力

今後の事業環境の変化を見据え、組織風土の変革を推進する力に期待が寄せられます。組織の枠組み・仕組み作りから構築まで手がけた経験があれば高く評価されます。

企業経営に関わってきた経験

企業の経営に関わるポジションでの経験も、非常に有効です。「経営」の視点で社内外の環境変化をとらえ、新しい事業のビジョンを描く力、事業の仕組みを構築・推進する力が求められます。

昨今、後継者不在に悩む中小オーナー企業を、プライベートエクイティファンドが買収するケースが増えています。識者が支援したこのようなケースでは、ファンドが新しい経営陣を募集し、50代以上の経営幹部経験者が採用されています。

「次世代リーダー」を育てる力

部下のマネジメントだけにとどまらず、次世代のリーダーとなる人材を育成する役割を担うことが求められています。

近年では、「事業承継」を背景とした中途採用において、50代以上の方が採用されるケースも増えています。高齢となった企業オーナーがご子息などに事業を引き継ぐにあたり、継承者がまだ若く経験不足である場合、一時的に知見の豊富なベテランに代表を引き継ぎ、次世代の社長の指導・育成を任せるのです。あるいは、経験不足の2代目・3代目社長を支える経営幹部として、50代以上の経営経験者を迎えるケースも見られます。

50代の転職活動で知っておきたいポイントと注意点

50代の方が転職を目指す場合、次のようなポイントと注意点を意識して臨むことで、理想のキャリアを実現できる確率が高まります。

応募先を絞り込み過ぎず、異業界にも目を向ける

経験が豊富な方となれば、自身が経験してきた業界・職種の範囲内で求人を探しがちです。しかし最近は、大手企業が異分野の新規事業に乗り出すなど、業界・業種の垣根が崩れつつあります。ご自身の経験・スキルが意外な業界・業種で求められていることもあるので、視野を広く持ちましょう。さらに、企業規模や条件(年収・勤務地)など、条件を広げてみると選択肢は確実に広がります。

実際に、希望の条件とは異なる求人も検討した結果、やりがいのあるポジションに出会い、「この仕事であれば年収が下がってもやりたい」と、前向きに転職を決意される方も少なくありません。

さまざまなサービスやルートを活用し、じっくりと取り組む

転職エージェント、転職サイト、ビジネスSNS、独自の人脈など、さまざまなチャネルを活用しながら、長期的視点で活動を進めるといいでしょう。

希望条件の優先順位をつける

年代に限らず、転職において希望条件すべてを満たすことは難しいものです。希望条件の優先順位をつけておき、チャンスが訪れたときに適切な判断ができるようにしておくといいでしょう。
以下の観点で、自分にとって「譲れないポイント」を考えてみてください。

  • 経営理念・事業方針への共感
  • 仕事内容
  • 組織風土
  • 勤務条件・各種制度

幅広い雇用形態を検討する

「正社員」にこだわると、選択肢が狭まってしまいます。「契約社員」「業務委託」、あるいは「顧問」といった形態も視野に入れてみるのも一案です。近年、ミドルシニア層には「業務委託」「顧問」として複数の企業と契約する方も増えています。

「柔軟性」「変化対応力」をアピールする

職務経験が長いと、採用担当者によっては「自身のやり方に固執し、新しいやり方になじめないのではないか」「新しいテクノロジーを活用したシステムやツールなどに対し、抵抗感があるのではないか」といった懸念を抱くことがあります。自身の成功体験やノウハウに固執せず、転職先企業のやり方に柔軟に対応する姿勢、新しいことを積極的に学んでいく姿勢があることを伝えてください。

特に1社に何十年も勤務してきた方は、単一のカルチャーになじんでいて、「環境変化に対応できないのではないか」と思われがちです。1社での勤務経験が長くても、異動・転勤・出向などで環境変化を経験してきたこと、あるいは社外活動で多様な人と交流・協業してきたことなどを伝えれば、そうした懸念を払しょくできる可能性があります。

50代の転職・理想のキャリアを実現できた事例

50代の転職の理想のキャリアを実現できた人の事例をご紹介します。

50代から新たにキャリアをつくる姿勢で多くの内定を獲得

大手総合商社から出向した金融系の企業で執行役員をされていたAさん(50代)は、優秀な同僚の存在や社内の力関係を見て、自分はこれ以上の昇進を望めないと感じて転職を決意しました。

大手総合商社の海外支店で支店長の経歴があったため、当初は業界に馴染みのある商社やメーカーで転職先を探していましたが、それではこれまでの延長線上になります。経験のない分野で新しいキャリアに挑戦する方が今後の働くモチベーションにつながると考え、一念発起して方向性を大幅に変更。「50代から新たにキャリアを築いていくのだ」という姿勢で、ベンチャー、IT、Webなど、これまで経験したことのない業界や企業にチャレンジしました。新しいことに挑む柔軟な姿勢とこれまでの経験・スキルが評価され、複数社から内定を獲得されましたが、新たなキャリアの構築と海外での経験も活かせることを重視して、海外展開を視野に入れている不動産×IT系の企業に転職をしました。

粘り強く活動して、年収ダウンを回避

大手の総合IT企業で営業部門長に就かれていたBさん(50代)は、社内での昇進に限界を感じ、転職を決意しました。転職活動は初めてで、当初は現職と同じ条件の大手企業を希望していましたが、自分の市場価値が思ったよりも低かったことにショックをうけ、大手ではなく中小やベンチャー企業も視野に入れ、年収ダウンも覚悟するなど、少しずつ転職の方向性を調整しました。一方で「経験・スキルを活かす」いう軸はぶらさずに、時間をかけてコツコツと転職活動を続けていきました。

前職に在職しながら転職活動を行っていたため、転職までにかなり時間を要しましたが、「IT企業で公共部門担当」というメインキャリアが、日本進出2年目の外資系IT企業からのニーズ「公共部門への事業領域拡大に際し責任者募集」にマッチし、営業部長として転職が決まりました。また、懸念していた年収ダウンも回避できました。

50代の転職・理想のキャリアを実現できなかった事例

50代の転職で理想のキャリアを実現できなかった事例をご紹介します。

スキルの見誤りと妥協による年収ダウンによるストレスで、早期に退職

キャリアアップ目的で転職活動を始めたCさん(50代)は、リスクコンサルタントとして長らくコンサル業界を渡り歩き、多くの実績を重ねてきた自負がありました。ただ希望条件が大手企業の管理職のため、転職活動は難航しました。転職の方向性を広げた結果、大手サービス業のリスク管理部門の部長補佐で転職が決定。現職が高額年収だったため、年収は大幅ダウンとなりました。

実際に入社してみると、コンサル会社と事業会社の仕事の進め方が大きく異なることに戸惑いました。Cさんは「分析」と「提案」は得意でしたが、事業会社で必要な「実行」のスキルや、知識や経験のレベルがバラバラの部下を「マネジメント」するスキルにも足りない部分がありました。年収がダウンしてしまったことに日々の仕事のストレスも加わり不満が募っていった結果、早期に退職する運びとなりました。

理想と現実の乖離によって体調を崩し、早期の退職

大手の外資系IT企業でマーケティング部長をされていたDさん(50代)は、同じく外資系ITでスタートアップベンチャー企業のマーケティング部長へと転職しました。

Dさんはリファラル採用による転職で、入社前に日本法人の社長から「あなたはマーケティング部門のトップとして入社していただき、部署のことはすべて一任します」と言われた言葉を信じ、社内のリサーチを行わないまま入社。実際は本国からの介入が多く、Dさんに裁量権はほとんどありませんでした。また、日本法人の社長とも相性が合わず、ストレスフルな毎日を送ることになってしまいました。体調を崩して休職し、一度復職しましたが、やはり耐えられずに退職することになりました。

50代の転職Q&A

50代の転職にまつわる「よくある疑問・質問」にお答えします。

50代の転職では、年収ダウンを覚悟した方がいいですか?

必ずしもダウンするとは限りません。経歴やスキルによってケースバイケースですが、「雇用動向調査」(厚生労働省調べ)(※4)によると2021年は50代前半で約3割の人が、50代後半で約2割の人が、前職に比べて年収が増加しているとのデータがあります。

(※4)出典:厚生労働省「雇用動向調査 離職理由別離職の状況」

50代での転職は厳しいと聞きました。本当に転職できますか?

転職は可能です。前述した通り、少子高齢化によってこの10年でミドルシニア層の雇用は増えつつあり、50代で転職する人も増加傾向にあります。ただし、求められるスキル・経験の要件や水準は高くなるため、20代や30代と比べると、相対的に転職の難易度が増すことは理解しておきましょう。

50代の転職は柔軟な視野と粘り強く行うことが大切

少子高齢化や働き方の多様化など時代の変化に伴って、近年では50代でも望み通りの転職を叶える人が増えてきました。柔軟な姿勢を心がけ、広い視野を持って粘り強く転職活動を行なってみましょう。

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粟野友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。