転職で年収が下がる理由とは?年収を下げないコツ、年収ダウンでも良かったケース、見直したいケースも紹介

ノートパソコンを操作する人

転職の際に「年収アップを実現したい」という方もいれば、「年収以外の条件を重視しているが、今より年収が下がってしまうことが不安」という方もいるでしょう。転職で年収が下がる理由や、年収を下げずに転職するためのコツ、年収が下がっても転職して良かったと思えるケースと、転職することを再検討したいケースなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

調査から見る「転職で年収が下がる人の割合」は?

まずは、転職によって年収が上がる人、下がる人の割合をご紹介します。

厚生労働省の調査(※1)によると、令和4 年(2022年)の転職者全体のうち、前職よりも収入が「増加した」人の割合が34.9%、「減少した」人が33.9%、「変わらない」人が29.1%となっています。

また、リクルートが発表している『リクルートエージェント』のデータ(※2)によると、2023年10〜12月期の転職で賃金が「1割以上」増えた人の割合は35.0%となり、過去最高値を更新しました。

平均すると、転職で年収に増減がある人の割合はそれぞれ3割強で、それ以外の人は現状維持となるようです。「転職すると年収が下がるのではないか」と不安を感じてしまう方もいますが、年収のアップ・ダウンは転職の状況によってケースバイケースと言えるでしょう。

(※1)出典:厚生労働省ホームページ (https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/dl/gaikyou.pdf
(※2)出典:株式会社リクルート「転職時の賃金変動状況」

転職で年収が下がる理由

転職で年収が下がる理由について解説します。

未経験職種などにキャリアチェンジした

未経験の職種・業界に転職する、いわゆるキャリアチェンジとは、新しい仕事にチャレンジすることになるため、これまでと同じ業界・職種に転職するよりも難易度が高くなります。そのため、企業も高い金額の提示はできず、年収が下がることが多いようです。特に、今まで在籍した会社で実績を積み、順調に昇給してきた場合は、現職(前職)よりも給与水準の高い業界へ移らない限り、実績がない状態からのスタートとなるため、収入減になる可能性は高いと考えておいた方が良いでしょう。

しかし、現職(前職)よりも成長性がある業界や企業に転職することで、長い目で見れば収入がアップする可能性もあります。

役職や等級が下がった

現職よりも役職が下がることで年収も下がるケースはよくありますが、同じ役職で採用された場合でも、選考での評価が等級に影響するケースもあります。例えば、「部長」という職位に応募した場合、「現時点では、部長職としての経験・スキルが自社の水準に達していない」などと判断された場合、部長職の中でも下位の等級に位置付けられ、年収が下がってしまうことがあります。

また、企業によって役職の責任範囲や業務内容、評価制度、手当は異なり、給与水準も異なるため、現職と同じ役職で採用されても、場合によっては年収が下がることがあります。

選考時に適切な年収交渉を行わなかった

応募者が内定獲得を優先し、希望年収を伝えないまま選考が進んでしまうと、年収ダウンの提示を受ける可能性があります。また、面接中に希望年収を聞かれた際、「○○万円は欲しい」と金額を伝えるだけで、それだけの金額を必要とする根拠や背景の説明がない場合は、企業側も納得感が得られないものです。その結果として、希望通りの年収を実現できないケースもあるでしょう。

大手からベンチャーなど規模の小さい企業に転職した

大手企業の場合は、業務を細分化することで生産性を高めているケースが多くあります。また、スケールメリットを活かした仕入れの効率化や、高い知名度による営業力によって、高い利益率を維持しているケースもあります。こうした背景から、「年収水準が高い」「手当が充実している」などの傾向があるようです。

一方で、中小企業やベンチャー企業などは、大手企業よりも規模が小さいために、売り上げが小さかったり、利益率が低かったりすることも多く、年収もそれに比例して少ない傾向があります。もちろん、入社後の事業成長によって、将来的に年収がアップする可能性もありますが、規模の小さい企業に転職した場合、入社当初は給与ダウンとなるケースが少なくないようです。

労働時間が短くなる

転職先の基本給が前職と同等だった場合でも、残業によって実質的な労働時間が変われば、時間外労働手当の金額も変わります。現職の残業時間数が多い場合は、転職先の残業時間の状況によって年収が下がる可能性があるでしょう。

U・Iターン転職した

給与水準は地域によって異なるため、都市部から地方にU・Iターン転職する場合は、年収が下がるケースもあります。厚生労働省が発表した「令和4年賃金構造基本統計調査(※3)」の「都道府県別にみた賃金」によると、大都市圏の企業と比較すると、地方企業は給与水準が低い傾向にあります。大都市圏で働いていた場合は、同レベルの年収水準を求めると転職先が見つからない可能性もあります。地方に本社を置く企業の場合は、大都市に比べて生活コストが安いなどという理由から、給与水準が低めに設定されているケースがあるなどの地域特性も踏まえて、条件にこだわり過ぎず柔軟に検討しましょう

(※3)出典:厚生労働省ホームページ (https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/dl/10.pdf

年収が下がる転職をする前に知っておきたいこと

「いくらまでなら年収を下げてもいいのか」と考える方もいますが、年収条件をどこまで譲歩するのかは人それぞれと言えるでしょう。

例えば「転職することで、よりやりがいある仕事に就きたい」という目的があるなど、自身として明らかなメリットを感じた場合は、年収が大きく下がることを許容するケースもあります。しかし、大幅に年収ダウンすれば「生活レベルが下がる」「家族を養うための生活費が不足する」「子どもの教育費などの貯蓄ができなくなる」「働くモチベーションが下がる」などの影響を及ぼす可能性もあるでしょう。

また、転職時の年収は、前職基準で決定されることが多いため、一度大きく下がってしまえば、再度転職する際にも上げにくくなる可能性があります。

現在の生活や今後のライフプランなども踏まえて、自身として年収を下げてもいい許容範囲を考えることが大事です。

転職で年収を下げないためのコツ

転職で年収を下げないために、押さえておきたいコツをご紹介します。

希望年収を超える可能性がある求人を選ぶ

企業の募集要項には、〇万円〜○万円と幅を持たせた想定年収が掲載されていることが多く、基本的に企業はその範囲内で応募者に年収を提示します。したがって、交渉をしても提示された金額の上限を大きく上回る可能性は低いと言えます。また、上限の年収額で採用される場合も、選考で相応の高評価を得ることが必要となるでしょう。

そのため、希望年収を超える可能性がある求人を選ぶことが年収アップのポイントになります。例えば、年収800万円を希望する場合、募集要項に記載された想定年収が「800万円~1200万円」など、下限の年収が希望年収を超えている求人を選ぶようにするといいでしょう。

なお、転職エージェントでは、掲載企業の給与体系や報酬決定の方針、実際にいくらの提示があったかという実績などを把握している場合があります。事前にしっかりリサーチしたい方は、相談してみるのも一案です。

評価を上げるためにアピールする

応募する役職の中でいかに高く評価されるかどうかも、希望年収を叶えるポイントになります。そのためには、キャリアの棚卸しをしっかり行い、応募する企業や役職の業務に対する理解を深め、自分の経験・スキルとの接点を見出してアピールすることが基本になるでしょう。

内定前に希望年収を企業に伝えておく

希望年収は内定前に伝えておくことが大事です。企業は応募者に任せる仕事内容に加えて、年収も含めて内定の判断をするからです。本人と企業との認識がずれたまま内定が出た場合、交渉をすることも可能ですが、うまくいかなければ不本意な条件で入社したり、最悪の場合は採用自体が見送りになったりする可能性もあります。

面接中に採用担当者から希望年収を聞かれた時は、本音を伝えることがポイントです。希望年収を確認されないまま選考が進んだ場合は、希望年収についてお伝えするタイミングや確認の仕方について一度エージェントにご相談してみてもいいかもしれません。

企業に伝える際は、希望年収と最低希望年収、それらの根拠や背景を具体的にすることがポイントです。例えば、「今年は昇進する年次で○万円となる想定なので、最低その額を希望します」といった伝え方をすれば、企業側も年収決定時の検討材料の一つにすることができるでしょう。

年収交渉は内定承諾する前に行う

希望年収がかなわなかった場合、年収交渉をしたいと考える方もいることでしょう。年収交渉は、内定承諾前に行うことが基本です。最終面接の際に条件面を確認されるケースは少なくないので、そのタイミングで伝えると良いでしょう。また、企業によっては、内定を得た後もオファー面談などで年収交渉をすることが可能です。

年収交渉をする際には、内定企業の給与テーブルに沿った金額で交渉することがポイントです。かけ離れた金額の場合は、年収条件が合わず、採用見送りになる可能性もあるので注意しましょう。

経験・スキルを活かせる仕事に応募する

管理職の場合はマネジメント経験、専門職の場合は求められている専門スキルなど、入社後の仕事に活かせる経験・スキルがあれば、企業からも年収交渉を受け入れてもらいやすいでしょう。経験・スキルを活かせる仕事に応募することも年収アップのコツの一つです。

また、異業種・異業界などに未経験転職する場合も、これまで経験してきた業種・業界の知識を活かし、ビジネスや組織に対する活躍・貢献ができることをアピールすることで、年収交渉を進めやすくなります。

転職エージェントやスカウトサービスを活用する

転職エージェントに相談し、希望の年収条件を満たす可能性のある求人を紹介してもらう方法もあります。未経験転職を目指す場合は、転職市場の相場観などを把握している転職エージェントに相談することで、自身の経験・スキルに見合った年収相場について確認することもできるでしょう。また、企業に年収交渉をしたい場合は、どのような点に注意すればいいのかアドバイスを受けることも可能です。

また、スカウトサービスを通して企業からスカウトを受けた場合、自身の経験・スキルが求められている可能性が高いため、年収交渉も切り出しやすいでしょう。転職エージェントやスカウトサービスを活用して、転職活動を進めることも一案です。

年収は下がったけれど「転職して良かった」と思えるケース

先に挙げた「転職で年収を下げないためのコツ」を実践しても、年収ダウンを避けられないこともあります。しかし、「それでも転職に納得感があった」「後悔はしていない」という人も数多くいます。

ここでは、年収ダウンの転職に踏み切っても「転職して良かった」と思えるケースについて解説するので、判断ポイントの参考にしてみましょう。

転職で実現したいことがある

転職において重要なのは、年収だけはありません。例えば、「目指すキャリアのために、現職ではできない経験を積みたい」「社会的意義のある仕事に転職してやりがいを感じたい」「家族のためにワーク・ライフ・バランスを重視したい」など、実現したいことが明確にある場合が挙げられます。年収ダウンすることより、自身の希望を叶えることで仕事へのモチベーションをより高めたり、日々の幸せを感じたりすることを重視しているなら、転職に踏み切っても後悔することは少ないでしょう。

将来的に年収アップが見込める

入社後、一定期間を経て年収アップが見込める場合も「転職に踏み切って良かった」と思えるケースと言えます。例えば、「入社○年目に昇進・昇格でき、昇給で年収アップする見込みが持てる」「こんな成果を挙げれば、業績賞与やインセンティブを得て、年収アップできる」など、納得できる説明を企業の担当者から聞くことができれば、転職を前向きに考える材料になります。

その他、応募先企業の住宅・資格・役職手当などの各種手当や、ストックオプションなどの制度なども含め、現職よりもプラスになる条件がある場合も当てはまるでしょう。

年収ダウンの金額が許容範囲

企業に提示された年収ダウンが、自身にとって「許容範囲」である場合は、納得の上で転職することができます。一方、生活水準を大きく落とすような年収ダウンは、家族をはじめ、周囲の理解が得にくい上に、それによるストレスが仕事のパフォーマンスに影響を与えることもあります。

生活にかかる費用を整理し、「固定費用」と「削減可能な費用」を仕分けした上で、少しの余裕を持って最低希望年収を算出した上で、許容範囲であるかどうかをしっかり検討することが重要と言えるでしょう。

年収を下げて転職するか見直すことが必要なケース

年収ダウンを受け入れて転職したことで、後悔するケースもあります。以下のようなケースが当てはまる方は、再度、年収を下げてまで転職する必要があるかどうか、慎重に検討してみることも大事です。

同じ業界・職種への転職で年収が下がる

同じ業界・同じ職種への転職であるにもかかわらず、年収がダウンしてしまうケースです。ワーク・ライフ・バランスや福利厚生など、収入以外の面で明らかなメリットを感じていなければ、転職は考え直した方が良いかもしれません。「環境を変えたい」などの理由で転職に踏み切ったとしても、同じような環境と仕事内容で収入だけが下がれば「前の会社の方が良かった」と後悔する可能性があるでしょう。

転職を急ぎすぎている

人間関係の悪化や早期退職など、さまざまな事情から「今の会社を辞めて転職したい」と焦っているケースも注意が必要です。企業から年収ダウンを提示されても冷静な判断ができず、勢いで入社を決めてしまうことは少なくありません。こうした事態を避けるには、数社の選考を同時進行させ、可能な限り、複数の選択肢から比較検討できるように転職活動を進めることが大切です。

入社後の収入について明確な説明がない

企業から年収ダウンの提示をされた際に、入社後の手当や賞与、昇格のタイミングなどについて実現性のある範囲で説明がない場合は、納得感がないまま転職し、後悔してしまうケースもあります。気になる点についての説明を求めても、納得できる回答でない場合には、その企業への転職は見合わせた方が良いかもしれません。

家族の理解が得られない

年収ダウンに納得して転職する場合でも、家族や周囲に対して相談しなかったり、反対されて押し切ったりした結果、家族との信頼関係を損ない、後悔するケースがあります。年収が下がる可能性について、生計を共にする家族の理解が得られない転職の場合は注意が必要です。その企業への入社は見送って他の企業への転職を考えたり、転職自体を考え直したりなどの選択をする必要もあるでしょう。

年収を下げて転職した場合にもらえる可能性がある補助金

転職したことで年収が下がった場合、国から「就業促進定着手当」を受けられる可能性もあるので、把握しておきましょう。こちらは、再就職手当の支給を受けた方で、再就職先に6か月以上雇用され、再就職先での6か月間の賃金が、離職前の賃金よりも低い場合に、基本手当の支給残日 数の40%を上限として、低下した賃金の6か月分を支給する手当です。

再就職手当の支給申請を行ったハローワークで申請できるので、該当する方は受給資格の条件などを確認の上、窓口で相談してみると良いでしょう。

年収を下げて転職することが不安な人によくあるQ&A

年収を下げて転職をすることに不安を感じる人によくあるQ&Aを紹介するので、不安解消に役立てましょう。

年収交渉を成功させるコツは?

年収ダウンすることが生活に影響を及ぼすことや、家族の理解が得られないことを伝えることは一案です。在職中に転職活動を進めている場合は、現職にとどまった場合の年収・給与額を引き合いに出すことで、考慮してもらえる可能性があります。また、選考を並行している企業や、他に内定を得た企業の年収・給与条件を話し、選択に悩んでいることを伝えてみるのも一つの方法です。

内定後でも年収交渉はできる?

内定後にオファー面談などがある場合は、企業が応募者に具体的な年収条件を伝えてオファーするため、それに対して金額アップの交渉をすることも可能です。

ただし、すでに内定承諾している場合は、「内定を承諾したということは、給与を含む提示条件に納得している」ということになるので、年収アップの交渉は難しくなる可能性があるでしょう。

年収・給与が下がることが内定承諾のネックになっている場合、企業に正直に話してもいい?

内定先の企業の給与テーブルによって、どうしても入社時の年収を変えられないケースはありますが、正直に自身の考えを伝えることで、入社後の給料の上がり方や、キャリアアップすることで年収アップを叶えたモデルケースなどを教えてくれる企業もあります。納得できるかどうかの判断材料にすることができるでしょう。

内定を得ても年収条件で迷った時の判断方法は?

キャリアが長い方ほど「年収ダウン=自身の価値の否定」と考える傾向があるようです。しかし業界や企業によっても、給与水準や評価基準はさまざまであり、現職よりも年収ダウンしたとしても、自身の市場価値が低くなるわけではありません。

年収ダウン自体を過剰にネガティブに捉える必要はないと言えますし、年収にこだわりすぎることがキャリアの選択肢を狭める可能性もあります。年収のみにとらわれず、その他の部分で自身にとって転職するだけの価値があるかどうか、将来性なども含めて検討することが大事だと考えましょう。

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粟野友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。