
「転職したい」という気持ちがあっても、「今の自分は転職した方が良いのかどうか判断がつかない」「転職して後悔するのではないかと思うと不安」などと思い悩み、迷っている方もいるかもしれません。そこで、「転職したいけれど怖い」という不安の原因や、迷いや不安を払拭するための対処法、「転職すべきかどうか」を判断するために確認したいポイントなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
よくある転職の6つの不安と、払拭するための考え方
「転職したい」という気持ちがあるのに、漠然とした不安が拭い切れない場合は、まず「何が不安なのか」を考えてみることが大事です。ビジネスと同様に、「不安の原因=課題」であると認識するところから始めれば、具体的な解決策を導き出すことができるかもしれません。
ここでは、転職に対するよくある不安と、それらを払拭するための方法を6つ紹介します。
【1】希望に合う転職先が見つからないかもしれない
転職先に求める条件が漠然としている場合に、このような不安を抱くことがあるようです。「転職によって実現したいことは何か」を明確にした上で、その実現に必要な条件を整理し、転職活動の軸を定めてみましょう。その際には、希望条件に優先順位をつけることも大切です。
また、情報源を複数持つことで、入手できる情報も広がります。転職サイト、転職エージェント、スカウトサービス、SNSなど、さまざまな情報源を活用しましょう。幅広く情報収集することで、希望に合う転職先が見つかる確率が高まります。
【2】不採用になるのが怖い
選考を受けて不採用になることを、「自分の経験や能力が否定される」と考え、必要以上に怖がってしまうケースも見られます。しかし、不採用になる理由はさまざまです。経験・スキルや人物像が合っていたとしても、「年収などの条件が合わない」「現時点では希望に合うポジションがない」というケースも考えられます。
「最終的に、自身にマッチする1社と出会うことが大切である」というスタンスで、転職活動をとらえてみましょう。
【3】現職より待遇や条件を悪化させたくない
転職にあたり、「年収や休日休暇、福利厚生などの条件面は現職と同等以上でありたい」と考える方は少なくありません。
リクルートエージェントの調査(※1)では、「2025年4-6月期にリクルートエージェントを利用して転職が決定した人のうち、前職と比べて賃金が1割以上増加した人の割合は39.3%」という結果となっています。およそ4割の人が転職によって年収増となっていますが、入社時点で年収増にならなくても、入社後に評価されて年収が上がるケースもあります。
あまり現職の待遇にこだわると、転職先の選択肢が限られてしまう可能性があるため、転職時点での変化にとらわれすぎないことが大事です。中長期的な視点で、自分に合う企業を探しましょう。
出典(※1)「2025年4-6月期 転職時の賃金変動状況」(株式会社インディードリクルートパートナーズ)
https://www.indeedrecruit-partners.co.jp/newsroom/pressrelease/2025/0725_3787/
【4】転職先に馴染めない・活躍できないことが心配
転職先の仕事内容の変化や人間関係に馴染めず、活躍できないことに不安を感じてしまう方もいるようです。
しかし、厚生労働省が発表した「令和2年 転職者実態調査」(※2)の「転職について」によれば、「現在の勤め先での満足度項目:仕事内容・職種」については、「満足」が69.2%、「どちらでもない」は21.3%となっており、「不満足」は8.7%という結果でした。また、「現在の勤め先での満足度項目:人間関係」に対し、「満足」と回答した人は59.7%、「どちらでもない」は25.3%となっており、「不満足」は14.2%にとどまっています。もちろん、転職者のすべてが満足しているわけではありませんが、転職先の仕事内容や人間関係に不満を感じる人は多くはなさそうです。
とはいえ、ミスマッチな転職先を選んでしまったり、転職先で担当する業務や任される責任などが想定していたものと違っていたりするケースもあります。そのため、選考段階で、職場の雰囲気や具体的な仕事の進め方、成果が求められるようになる時期などについて、しっかりと確認することが必要です。
出典(※2):「令和2年転職者実態調査の概況」(厚生労働省)
『表 22 現在の勤め先での満足度項目、性・事業所規模・現在の勤め先の就業形態、職業生活の満足度別転職者割合及び満足度』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/6-18c-r02.html
【5】仕事をしながら転職活動ができるのか不安
現職が忙しい場合は、時間の使い方などを工夫して転職活動に割く時間を捻出する必要があります。「転職準備を進める際には、タスクを分割し、すき間時間を活用して進める」「活動期限を決めて、集中して取り組む」「繁忙期を避けて活動スケジュールを組む」などの方法を考えてみましょう。
また、転職エージェントやスカウトサービスを活用することも一案です。企業の情報収集や面接日程などの調整・交渉のサポートをお願いする、自分に合うスカウトが届くのを待つ、といった方法で、転職活動の負担を軽減することもできるでしょう。
【6】自身のスキル・キャリアに自信がない
「希望の職種やポジションに対し、自身のスキルや経験が不足している気がする」「自分のキャリアでは、企業の応募要件を満たせる自信がない」と不安を抱く方もいます。しかし、経験・スキルが十分でなかったり、提示している応募要件をすべて満たしていなかったりしても、採用される可能性はあります。
例えば、マネジメント経験が少ない方がマネジャー職に応募した結果、入社後の成長性などを評価され、「マネジャー候補」として採用されるケースがあります。また、未経験の業界・職種にキャリアチェンジする場合に、ポータブルスキルや、異業界・異職種の経験を活かして活躍できると判断されて採用されるケースもあります。
求人情報に掲載されている募集要件のみで判断せず、「チャレンジしたい」と思ったら応募してみることも一案です。もし転職エージェントを利用している場合には、キャリアアドバイザーに相談することも有効でしょう。
転職するかどうか迷ったときの自分への3つの質問
「そもそも今の自分は、転職した方が良いのか、しない方が良いのかがわからない」と悩む方もいるでしょう。そこで、例として「このような状況であれば、転職が選択肢となるケース」をお伝えします。ただし、あくまで参考とし、自身の状況をさまざまな角度から見て判断しましょう。
現職のままでは、状況の改善が難しいのか
中長期的な視点で、「現職のままでは状況の改善が難しい」と感じた場合は、転職を視野に入れても良いかもしれません。具体的には、ハラスメントや長時間労働、業績悪化、低賃金など、個人の力で(あるいは短期で)状況を改善することが難しいケースが挙げられます。また、意に沿わない転勤・異動などで、自身や家族・パートナーのワーク・ライフ・バランスが崩され、長く改善できる見込みがない場合などもこれに当てはまるでしょう。
転職で実現したいことが明確になっているか
目指すキャリアや、手に入れたい働き方が明確にありながらも、「現職では実現が難しい」「実現はできない」という場合は、転職によってそれを実現できる環境を得られる可能性があります。転職を前向きに検討することで、自身の可能性を広げることもできるでしょう。
転職によって待遇アップ・キャリアアップの可能性があるか
待遇改善やキャリアアップに興味がある場合は、今持っているスキルをより高く評価してくれる企業に移ることで待遇アップ・キャリアアップにつながったり、より貢献を実感できたりして、やりがいを感じられる可能性があります。あるいは、転職によって新たな経験を得ることでキャリアの幅が広がり、将来の選択肢も増えることも考えられます。実際に転職活動を始めてみて、他社からの評価を確認してみると良いでしょう。
転職するかどうかを慎重に検討したいケース
一方、次のような状況の場合は、転職に踏み切る前にもう一度慎重に検討してみると良いでしょう。ただし、こちらもあくまで一例ですので、自身の状況に応じて判断することをおすすめします。
明確な転職理由や転職の目的がない
明確な転職理由や転職の目的がなく、例えば「現職への不満だけが動機」「勢いや感情に任せて転職したくなっている」「転職さえすれば問題は解決すると考えている」といった状況になってはいないでしょうか。転職することそのものが目的になっている場合は、転職してもまた同じような不満が募る可能性があります。
現職のままでも状況を改善できる方法がある
現職のまま今の状況を変えたり、不満の理由である課題・問題を解決したりできそうであれば、転職に踏み切る前に現職で行動を起こしてみるのもひとつの方法です。上司に相談したり、社内公募制度などを活用したりすることで、希望を実現できるケースもあるでしょう。
転職に求める理想が高すぎる
「就きたいポジション」「手がけたい仕事やプロジェクト」「得たい収入」など、転職に求める理想が高すぎてはいないでしょうか。そうした場合、高すぎる理想と経験・スキルにギャップが生じ、応募しても不採用が続いてしまう可能性があります。また、理想に合う企業を見つけて転職できたとしても、「事業理念や仕事内容は理想的だがワーク・ライフ・バランスが整わない」など、別の側面で不満を感じるケースも考えられます。
家族・パートナーの賛同を得られていない
家族やパートナーに相談せずに転職活動を行い、転職を決めると、トラブルを招くケースもあります。まずは「転職したい」という意向や、転職によってどのようなことを実現したいのかを家族やパートナーにきちんと伝えた上で、転職活動を進めると良いでしょう。
転職したいけれど悩んだときに、やっておきたい5つの行動
転職したいけれど悩んだとき、自身の状況を整理するためにやっておきたい行動をご紹介します。一例として、次の5つのことを試してみると良いでしょう。
1:現状に対する不満を分析し、現職のままで解決できないか検討する
まずは現状に対する不満を分析し、「現職のままで解決できる方法はないか」を検討してみましょう。「仕事内容が合わない」「今の仕事のままでは経験・スキルが身につかない」などの場合は、社内制度を活用した部署異動や職種転換、新たなプロジェクトへの参加などで解決できるケースもあるでしょう。「昇進・昇格ができない」という不満も、社内のキャリアパスや評価基準などを確認することで、実現の道筋を見出せることもあります。
2:転職によって何を実現したいのか考える
現職への不満だけを理由に転職すると、転職先でも不満を感じた場合、また転職を繰り返してしまう可能性があります。転職によって何を実現したいのかを考え、その上で、「転職する目的」を明確にすることが重要です。
今すぐ実現したいことだけでなく、中長期な視点を持って、5年後、10年後にどうなっていたいのかをイメージし、キャリアの道筋を考えてみると良いでしょう。転職する目的を明確にしておけば、実際に転職活動を進める際も「どのような企業を選択すれば良いのか」を見定めやすくなります。
3:自身の強みとなる経験・スキルを洗い出す
自身の経験・スキルに自信が持てずに一歩を踏み出せない場合は、キャリアの棚卸しを行い、自身の強みを洗い出してみましょう。
まず、これまでの経験を振り返り、経験してきた業務やプロジェクトをすべて書き出します。そこから身につけたスキル、成功体験、評価されたことなどを抽出していくと、自身が得意とすることが見えてくるでしょう。
4:転職市場の相場観を調べてみる
転職サイトなどで、自身が転職したいと思うような企業・職種の求人を調べ、年収などの相場観を確認しておくことも大事です。希望する採用ポジションに対し、自身の経験・スキルが見合っていなければ、選考をクリアするのが難しくなる可能性もあります。自身にマッチする求人があるか調べてみましょう。
5:転職活動の進め方を理解する
転職したい気持ちはあっても、「転職活動のやり方がわからない」「何から手をつければ良いのかわからない」といった理由で行動を起こせない方も少なくないようです。
転職活動は、準備として「自己分析・キャリアの棚卸し」「情報収集」「応募書類作成」を行い、応募後、書類選考に通過したら「面接対策・面接」へ進み、「内定」に至ります。転職活動の一連の流れを理解し、スケジュールを立てるところから始めてみましょう。
「まず転職活動を始めてみる」のもひとつの考え方
状況を整理した上で転職したい気持ちは変わらないものの、どうしても迷いや悩みが解消されない場合は、とりあえず転職活動を始めてみるのもひとつの手です。転職活動を通じて自分のスキルやキャリアの志向性をより客観視できるようになり、初めて見えてくることも少なくありません。結果的に転職を見送ったとしても、その後のキャリアの納得度が高まるきっかけになるでしょう。
具体的なアクションを起こすことで得られることもあるため、次の方法も検討してみましょう。
実際に求人に応募して手応えをつかむ
情報収集したり考え続けたりしてみても、実際にやってみないとわからないこともあるものです。気になる求人があれば応募してみて、企業の反応を確認してみても良いでしょう。想定以上に高い評価を得られ、手応えをつかめるかもしれません。あるいは自身の課題が明確になり、今後の努力目標が見えてくることもあるでしょう。現職の良さを再発見し、「転職しない」と決断できることもあります。
転職エージェントに相談してみる
転職エージェントに相談してみると、さまざまな不安の解消につながる情報やアドバイスを得られる可能性があります。希望条件にマッチする求人の紹介を受けられるほか、自身では想定していなかった業界や企業で経験・スキルが活かせるとわかるケースもあります。
スカウトサービスに登録してみる
スカウトサービスに登録しておくと、求人企業や転職エージェントから直接スカウトを受けることができます。どのような企業が自身の経験・スキルを求めているのかがわかり、今後のキャリア構築や転職の方向性がつかめるかもしれません。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
記事掲載日 :
記事更新日 :
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。