雇用保険の基本手当、いわゆる「失業保険」の受給期間が一定以上残った状態で、早期に再就職を決めると、一定の条件のもと支給される手当があります。それが、「再就職手当」です。再就職手当の内容と受給条件、給付を受ける際の手続き方法などについて、特定社会保険労務士の原 祐美子氏が詳しく解説します。
再就職手当とは?
再就職手当とは、雇用保険の基本手当(いわゆる「失業保険」)の受給資格のある人が再就職した際に、所定の条件を満たしていると受給できる手当です。基本手当の所定給付日数(※1)が3分の1以上残っていることが条件の一つであり、また、早く就職するとより高い金額を受給できる(上限あり)など、早期の再就職を促す制度設計がなされています。
(※1) 基本手当の支給を受けることができる日数。離職した日の年齢や雇用保険の被保険者であった期間、離職理由などに応じて90日~360日の範囲で決定される。
再就職手当を受給するメリット
再就職手当を受給するメリットとしては、次の2つが挙げられます。
経済的に安定する
無職のまま、支給期間が決まっている雇用保険の基本手当を受給し続けるよりも、早めに再就職を決めて再就職手当を受給しながら次の就職先で働き続ける方が、経済的に安定します。
失業という不安から抜け出せる
同様に、早めに再就職先を決めることで、次の仕事が決まらない状況が続く不安から抜け出すことができます。
なお、所定給付日数いっぱい基本手当を受給するよりも、所定給付日数を残して再就職し、再就職手当を受給する方が受け取れる額は少なくなります。ただし、考え方によっては上述した2つのメリットは、受け取ることができる手当額以上のメリットがあると言えるでしょう。
再就職手当の受給条件
再就職手当の支給を受けるためには、基本手当の所定給付日数が3分の1以上残っていることなど、次の「再就職手当の受給要件」をすべて満たす必要があります。
再就職手当の受給要件
次の8つの要件をすべて満たしている場合、再就職手当の支給を受けることができます。
- 基本手当の受給手続き後、7日間の待期(※2)満了後の就職であること
- 基本手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上あること
- 離職前の事業主に再び雇用されたものでないこと(資本・資金・人事・取引等の状況からみて、離職前の事業主と密接な関係にある事業主も含む)
- 離職理由による給付制限を受けた場合は、待期満了後1カ月間は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介により就職したものであること
- 1年を超えて勤務することが確実であると認められること
- 原則として、雇用保険の被保険者になっていること
- 過去3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていないこと
- 受給資格決定(求職申し込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと
(※2) ハローワークへ離職票の提出と仕事探しの申し込みをした日(受給資格決定日)から失業の状態にあった日が通算7日経過するまでの期間のこと。この期間は基本手当の支給を受けることができず、待期の最終日の翌日からが支給対象となる。
再就職手当をもらえないケース
再就職手当の受給要件をふまえると、次のようなケースは、再就職手当の支給を受けることができません。
- 基本手当の待期(受給資格決定を受けた日から7日間)を満了していない
- 基本手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の1未満である
- 再就職先での雇用期間が1年未満の見込みである
- 離職前と同じ、あるいは関連会社への再就職である
- 3年以内に再就職手当を受給した
- 基本手当の給付制限の対象で、待期満了後1カ月以内の就職であり、かつ、ハローワークや職業紹介事業者の紹介によるものではない就職である など
上述の「職業紹介事業者」とは、許可届出のある民間職業紹介事業者などのことです。再就職手当の受給条件の4つめ「離職理由による給付制限を受けた場合は、待期満了後1カ月間は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介により就職したものであること」は、民間職業紹介事業者から紹介を受けての就職であれば、要件に当てはまりますが、民間職業紹介事業者の求人情報サイトを見て自ら応募して就職した場合は、要件には当てはまりません。
再就職手当がもらえなくても、「就業手当」がもらえる場合も
再就職手当は、再就職先で1年を超えて勤務することが確実であることが受給条件の1つです。この条件に当てはまらない1年を超える見込みのない雇用で就業する場合は、再就職手当は受給できませんが、所定の要件を満たしていれば「就業手当」の支給を受けることができます。受給要件には、「所定給付日数の3分の1以上かつ45日以上を残していること」などがあります。
再就職手当の金額・計算方法
再就職手当の金額は、前述の通り、基本手当の支給残日数によって異なります。金額の計算式は、次のように、基本手当の支給残日数が、所定給付日数の「3分の2以上の場合」と「3分の1以上の場合」とで分かれます。
再就職手当の計算式
(※3)出典:ハローワーク (R50801)「再就職手当のご案内」
図版内の(※1上限有)とは、基本手当日額の上限(令和6年7月31日までの額)のことを指す。
令和6年7月31日時点の上限金額は以下の通り↓
離職時の年齢が60歳未満の方:6,290円
離職時の年齢が60歳以上65歳未満の方:5,085円
●基本手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の2以上の場合
基本手当日額×所定給付日数の残日数×70%
●基本手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上の場合
基本手当日額×所定給付日数の残日数×60%
再就職手当の申請方法
ここでは、再就職手当の給付手続きについて詳しく解説します。
【1】ハローワークに就職の届け出を行う
基本手当を受給している場合、再就職が決まった際は、ハローワークに必要書類を持参し、就職の届け出を行います。その際、再就職手当の支給要件に該当すると判断された場合、「再就職手当支給申請書」の用紙が交付されます。
なお、就職の届け出を行う日は、一般的には以下とされていますが、次回認定日(※4)や就職する日によって異なるため、まずはハローワークに電話などで就職が決まったことを連絡し、指示を受けるとよいでしょう。
- 就職日が次回認定日より後の場合…次回認定日
- 就職日が次回認定日より前の場合…原則として、就職日の前日(土日祝日の場合、その前の開庁日)
(※4) ハローワークが失業の状態を確認するために、求職者に来所を求める日。「失業の認定日」。求職者は、4週間に1回、指定された認定日にハローワークに行き、失業認定申告書を提出することで、基本手当の支給を受けることができる
また、就職の届け出に必要な書類は、次の3つです。
- 雇用保険受給資格者証(基本手当の受給資格があることを証明する書類。ハローワークで求職の申し込みをした後に受ける雇用保険説明会などで渡される)
- 失業認定申告書(失業中、基本手当を受給するために4週間に1回の指定された日にハローワークに提出する書類)
- 採用証明書(基本手当の受給資格決定時に交付される「受給資格者のしおり」に同封されている書式、または、居住地ハローワークや労働局のホームページからダウンロードしたものを雇用主に記入してもらう)
【2】「再就職手当支給申請書」を再就職先に記入してもらう
再就職手当の申請は、就職した日の翌日から1カ月以内に行うこととされています。必要書類は、就職の届け出を行った際に交付を受けた「再就職手当支給申請書」と、「雇用保険受給資格者証」の2つ。加えて、ハローワークが求める書類があればそれも準備して提出します。
「再就職手当支給申請書」は、「事業主の証明欄」を就職した企業に記入してもらう必要があるため、申請期限に間に合うように記入してもらいましょう。それ以外の氏名や住所などの必要事項は自分で記入します。
なお、「再就職手当支給申請書」はハローワークのホームページで入力や印刷をすることもできます。また、電子申請による届け出も可能なので、詳しくはハローワークに問い合わせてみましょう。
【3】「再就職手当支給申請書」「雇用保険受給資格者証」をハローワークに提出する
記入済みの「再就職手当支給申請書」と、「雇用保険受給資格者証」をハローワークに提出します。提出方法は、「ハローワークに持参」「郵送」「電子申請」のどれでも構いません。
その後は、ハローワークで再就職手当支給申請書が受理されたあと、個別の事情によってかかる期間はそれぞれですが、一般的には1カ月程度の調査期間を経て支給の可否が判断されます。結果は、郵送されてくる「再就職手当支給決定通知書」によって知ることができます。また、申請書の提出から入金までは1カ月半~2カ月程度かかります。
再就職手当に関するQ&A
再就職手当の申請に関してよくある質問とその答えを以下にまとめました。
再就職手当が受給できるのは、基本手当の受給手続きを行っている人に限られます。そのため、たとえ基本手当の受給要件を満たしている人であっても、受給手続きを行っていなかった場合、再就職手当を受け取ることはできません。
再就職手当の支給要件に、雇用形態は含まれていません。先述した8つの要件をすべて満たしていれば、受給可能です。
再就職手当の申請期限は、就職した日の翌日から1カ月以内が原則です。ただし、申請期限を過ぎても、就職した日の翌日から2年以内(時効の期間内)であれば、申請が可能です。
しかし、通常よりも給付が遅くなったり、雇用保険の他の給付金の返還が必要になったりする場合があるため、期限内に申請を行うことが推奨されます。
再就職手当の支給を受けた後に退職しても、返金の必要はありません。また、所定の条件を満たした場合、基本手当の支給を受けられる場合があります。詳しくはハローワークに確認しましょう。
再就職手当の支給対象者が、再就職手当を受給する前に離職した場合、再度、ハローワークに求職の申込みをすれば、再就職手当の受給をやめて、残っている所定給付日数分の基本手当を受給することができます。
本人が希望する場合には、再就職手当を受給することもできますが、再就職手当を受給した場合には、「再就職手当の額を基本手当日額で除して得た日数に相当する分の基本手当を支給したもの」とみなされます。再就職手当を受給するか、再就職手当を受給せずに基本手当の所定給付日数を多く残しておくかは、管轄のハローワークに相談したうえで決めるようにしましょう。
なお、上記の取り扱いは、再就職手当の支給申請の対象となった就職先をやめたときに、新たな基本手当の受給資格が発生していない場合に限られます。
再就職手当の支給決定前に再就職先をやめてしまった場合の再就職手当の支給については、個々の事情により、ケースバイケースです。実際にこのような状況が起きた場合には、すぐに管轄のハローワークに確認してください。
会社都合退職により、基本手当の給付制限がない場合、待期満了後の再就職であれば再就職手当を受給できます。
自己都合退職などにより、基本手当の給付制限がある場合、待期満了後1カ月を過ぎてからの再就職であれば再就職手当を受給できます。待期満了後1カ月以内の再就職の場合、再就職手当の支給対象にはなりません。
社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズ 特定社会保険労務士 原 祐美子氏(はら ゆみこ)氏
大学卒業後、外資系計測器メーカーに勤務。参議院議員の事務所に勤務時に、社会保険労務士試験に合格。2005年、なぎさ社会保険労務士事務所を開業。2016年、社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズ東京事務所長に就任。顧問先の労務相談・諸規程の作成、労働保険・社会保険関係手続き・給与計算にかかわるほか、上場準備企業の労務監査や支援も行う。「聞いてもらえてよかった。この人がいてくれてよかった」と思われる対応を心がけている。産業カウンセラー、第一種衛生管理者の資格も保有。
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