仕事を辞めたいと思っても、「今辞めていいのか」「転職先が決まらないまま辞めてもいいのか」など、なかなか踏み切れないケースは少なくありません。今回は、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が、仕事を辞めたいと思う理由や対処法、辞め時を判断する方法などを解説します。
目次
「仕事を辞めたい」と思う理由
厚生労働省の調査(※)によれば、「令和4年1年間の転職入職者が前職を辞めた理由(個人的理由)」は、男女別で以下の順となっています。
<男性>
1位:労働時間、休日等の労働条件が悪かった(9.1%)2位:職場の人間関係が好ましくなかった(8.3%)3位:給料等、収入が少なかった(7.6%)4位:会社の将来性が不安だった(7.1%)5位:仕事の内容に興味を持てなかった(4.5%)※「その他の個人的理由」を除く
<女性>
1位:労働時間、休日等の労働条件が悪かった(10.8%)2位:職場の人間関係が好ましくなかった(10.4%)3位:給料等、収入が少なかった(6.8%)4位:仕事の内容に興味を持てなかった(5.9%)5位:会社の将来性が不安だった(4.4%)※「その他の個人的理由」を除く
以降で「仕事を辞めたい」と思うときによくある理由をご紹介していきます。
(※)出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/dl/gaikyou.pdf)
労働環境・条件が悪い
「残業が多い」「労働時間が長い」「休日出勤が多い」など、労働環境が悪いことが理由のケースです。「ノルマが厳しい」「人手不足のために、担当する業務量が多い」などもこれに当てはまるでしょう。
また、給料が業務量や成果に見合っていないなど、労働条件そのものが悪いこともよくある理由の一つです。「給与水準が低い」「社内の評価制度が整備されていない」「評価基準が明確でない」などのケースがあるでしょう。
さらに、職場の上司や同僚などからハラスメントを受けている場合なども、労働環境が悪いことに該当します。このようなケースはなかなか周りに相談もできず、「仕事を辞めるしかない」と感じてしてしまうこともあるようです。
人間関係・社風が合わない
上司や同僚など、職場の人間関係が合わないことも、仕事を辞めたくなるときによくある理由と言えます。同じ職場で一緒に働くために、日々、苦手な相手と長時間接することにストレスを感じてしまうケースは少なくないでしょう。
また、「チームワーク重視」「個人の成果主義」「年功序列重視で、若手の発言権が小さい」「個々の裁量が大きすぎる」など、社風や企業文化が合わないこともこれに当てはまります。日々の仕事の進め方にも影響するため、自身の考えに合わない場合は、ストレスを感じるケースもあります。
仕事の内容が合わない・向いていない
仕事の内容にやりがいを感じられないことや、能力を発揮できず活躍できないことも理由になるでしょう。そもそも仕事内容に興味を持てない場合だけでなく、向いていない業務のために自身の能力不足を感じて辞めたくなるケースもあります。
会社の将来性に不安を感じている
「会社の業績が低下している」「新規事業の展開がうまくいっていない」「業界そのものに成長性が感じられない」などで、会社そのものの将来性に不安を感じていることが理由となるケースです。
また、「賞与をカットされた」「給与の一部が支払われない」「早期退職希望者を募っている」など、経営状況に直接的な不安を感じている場合は、より焦りを感じてしまうでしょう。
仕事に疲れた・モチベーションが上がらない
関係各所の調整業務に苦労したり、部下の指導や人材育成などに悩んでいたりすることで疲弊してしまうケースもあれば、疲労が溜まっていたり、ルーティン業務のみをこなしていたりすることで、仕事のモチベーションが低下してしまうケースもあるようです。
一方、仕事に対するモチベーションが上がらない場合には、「昇進・昇格が望めない」「責任範囲や裁量権を広げることができない」「希望に沿うキャリアパスがない」などが理由となりやすいでしょう。
ライフプランの変化に合わせて働き方を変えたい
結婚・育児・介護など、ライフプランに変化があったことが理由となる方もいます。家族やパートナーと過ごすために「残業や休日出勤を減らしたい」「柔軟な働き方ができる環境が必要」というケースもあれば、「今後のライフイベントを想定し、給与を上げたい」というケースもあるでしょう。
「仕事を辞めたい」と思ったとき、最初にやるべき対処法は?
心身に支障をきたしている場合を除き、「仕事を辞めたい」と思ったときに最初に取り組んでおきたい5つの対処法をご紹介します。
有給休暇などを取得して心身を休ませる
肉体的・精神的に疲弊している場合は、有給休暇などを取得してしっかりと休養をとることも大事です。リフレッシュすることで仕事へのモチベーションが高まる可能性もありますし、フラットな状態になることで「辞めるべきかどうか」をより冷静に考えられるでしょう。
仕事として割り切り、頑張りすぎない
人間関係に問題を感じている場合は、仕事は仕事として割り切り、適度に距離を置くのも一案です。一方、担当する業務量が多い場合などは、仕事への責任感から一人で抱え込んでしまう方もいます。こうした場合は、「そもそも一人でこなせる業務量ではないため、他の誰かに分担してもらう」と割り切って考えることも大事です。上司に相談したり、チームで分担する方法を考えたりするなど、頑張りすぎないで解決できる方法を探してみると良いでしょう。
部署異動やチーム替えなどを申し出る
人間関係に問題があったり、「仕事に向いていない」「やりがいを感じない」と感じたりしている場合、すぐに仕事を辞めなくても部署移動やチーム替えなどで解決できる可能性があります。上司に申し出て、異動やチーム替えの可能性について相談してみましょう。
活用できる社内制度を探してみる
柔軟な働き方がしたい場合は、テレワークやフレックスタイム制など活用できそうな社内制度を探してみましょう。あまり活用されてない制度の場合でも、上司に相談してみることで利用できる可能性があります。仕事内容や職場環境に不満がある場合は、社内公募で部署異動やプロジェクト参画などをする方法がないか探してみることもできるでしょう。
また、介護・育児などと仕事を両立することに悩んでいる場合は、介護休暇、看護休暇、リフレッシュ休暇などを活用できないか上司に相談してみましょう。
仕事の辞め時がわかるサインは?判断方法を紹介
「仕事を辞めたいと思うものの、辞めるタイミングがわからない」という方もいるでしょう。ここでは、仕事の辞め時を判断する方法をご紹介します。
会社を辞めないと解決できない問題か見極める
仕事を辞めたい理由に向き合い、「会社を辞めないと解決できない問題なのか」を見極めましょう。
例えば、以下のような問題や状況が継続している場合は、今の仕事を続けていても解決できない可能性があるので、転職を検討するタイミングかもしれません。
- 慢性的な人手不足で恒常的に労働時間が長い
- 希望するキャリアを実現できる道筋がない
- 成果を出しても評価されない
- 業界内でも給与水準が低い
- 柔軟な働き方を実現できる環境がない
- キャリアアップを実現できる制度がない
- 部署異動やチーム替えを申し出ても対応してくれない
- 会社の業績向上が見込めない
辞めたい理由だけでなく、満足している点も検討してみる
給与や職場環境、人間関係など、今の会社を辞めたい理由だけでなく、満足している点についても検討してみましょう。例えば、給与に不満があってもワーク・ライフ・バランスに満足していたり、福利厚生面が充実していたりするケースもあります。こうした場合、今の会社を辞めて転職した後に「実は前の会社の方が働きやすかった」と感じて後悔する可能性もあります。
自身が望むすべての条件が揃っている転職先はそう簡単に見つからないものなので、さまざまな面から今の会社について検討してみることが大事です。その結果、「今の会社を辞めなくてもいい」と感じるかもしれません。
「転職によって実現したいこと」を明確にしてみる
今の仕事や職場に対する不満のみが理由になっている場合は、会社を辞めて転職活動を始めても、今抱えている不満だけを解消することが目的になってしまい、ミスマッチな転職先を選んだり、選考通過に苦戦したりする可能性があります。
「転職によって実現したいこと」を明確にした上で、今の会社で実現できる方法がないか、しっかり検討することが大事です。検討を重ねた結果、実現する方法がない場合は、「辞め時」とも考えられるでしょう。
将来のキャリアビジョンを描いてみる
3年後、5年後などのキャリアビジョンを描き、さらに「10年後にこうありたい」と思う理想の姿も考えてみましょう。今の会社のままでは希望するキャリアやポジションが望めない場合や、必要な経験・スキルなどが身につかない場合は、それができる環境に転職することを検討してみても良いでしょう。
転職市場の情報収集をしてみる
転職サイトを活用したり、転職エージェントやスカウトサービスなどに登録したりするなどで、転職市場の情報収集をしてみましょう。「自身の希望に合う求人があるのか」「採用の可能性がある求人にどのようなものがあるのか」を確認することができます。自身の市場価値を理解した上で、希望を実現できる会社に採用される可能性があると感じた場合は、「辞め時」と考えることもできるでしょう。
反対に、現状の経験・スキルではまだ足りないと感じたら、今の会社で必要な経験・スキルを積めないか検討してみることが大事です。
転職活動を始める場合、「仕事を続けながら」「辞めてから」のどちらを選択するべき?
転職活動を始めようと思ったとき、「在職中に進めるべきか」「退職してからの方が良いのか」と悩む方もいるでしょう。どちらを選ぶのかは人それぞれと言えるので、判断に役立つ材料をご紹介します。
仕事を続けながら転職活動を進める場合
在職中の転職活動を選択する主な理由としては、以下の3点が挙げられます。
- 一定の収入を確保した状態で活動できる
- 現職にとどまる選択肢がある
- 離職期間を作らず、次の仕事に就ける
在職中の場合は、現職の給与で定期収入を得ることができるため、納得がいく転職先が見つかるまで活動を続けることも可能です。希望に合う転職先が見つからなくても現職にとどまることができますし、離職期間を作らずに次の仕事に就くことができる点にメリットを感じる方もいます。
一方、以下のような理由から在職中の転職活動を選択しないケースもあります。
- 現職の業務と並行して行うため、活動時間が限られる
- 退職時期と入社時期の折り合いがつかない場合がある
在職中の場合は、多忙なために転職活動に集中しにくいケースもあれば、平日などの面接日程に対応しにくいことにデメリットを感じる方もいます。また、希望する企業から内定を得た場合、「現職を退職する時期」と「内定先が求めている入社時期」の折り合いがつかない可能性もあります。
仕事を辞めてから転職活動を進める場合
退職してからの転職活動を選択する主な理由としては、以下の3点が挙げられます。前述の「在職中の転職活動を選択しないケース」の詳細がそのまま当てはまるでしょう。
- 転職活動に集中して取り組める
- 面接の日程を調整しやすい
- 内定後、入社日を調整しやすい
一方、以下のような理由から退職後の転職活動を選択しないケースもあります。
- 安定した収入を得られない
- 離職期間が長いことによって、企業から業務にあたっての影響がないか確認される場合がある
退職すれば安定収入を得られないため、そこに不安や焦りを感じてミスマッチの企業を選んでしまう可能性があります。また、希望に合う企業の内定を得られずに転職活動が長引き、長期に渡るブランクができた場合、応募企業から「スキルの陳腐化」「仕事への意欲の低さ」などが入社後の業務に影響するかどうかを確認される可能性もあります。
迷っている場合は、情報収集から始めてみるのもおすすめ
転職活動を在職中に進めるか、退職後に始めるか迷っている場合は、まずは情報収集から始めてみることをおすすめします。スカウトサービスに登録すれば、「今の自身の経験・スキルに対し、どのような企業からスカウトメールが届くのか」を確認できるため、転職市場の相場観や自身の市場価値の把握に役立てることができるでしょう。
また、転職エージェントを活用すれば、キャリアアドバイザーとの面談を通じて、キャリアの棚卸しや自己分析などをすることも可能です。応募書類の作成などにも着手しながら、「どのように転職活動を進めていくべきか」を判断してみると良いでしょう。
「仕事を辞めたいけれど言えない」どうすればいい?
仕事を辞めたいと思っても、「会社に言いにくい」「家族やパートナーに相談しにくい」などのケースもあるでしょう。会社や家族・パートナーに納得して受け入れてもらうために、注意したいポイントをご紹介します。
会社に退職を申し出る場合
責任のあるポジションに就いていたり、人手不足だったりする場合には、退職について切り出しにくいものでしょう。以下のポイントに注意することが大事です。
- 退職する時期は、できるだけ繁忙期を避ける
- 就業規則を確認し、退職の申し出や退職届の提出など、退職受理までに掛かる期間を把握しておく
- 業務の引き継ぎを行う期間も踏まえて、無理のない退職希望日を伝える
- 退職理由を聞かれた場合、会社への不満ではなく、転職で実現したいことなど前向きな理由を伝える
- お世話になったことに対する感謝も伝える
家族に相談する場合
転職によって収入や勤務形態、勤務地などが変化することで、家族やパートナーの生活に影響する可能性もあるでしょう。転職をする前に、あらかじめ家族やパートナーに相談しておくことも一案です。その場合は、切り出す際には以下のポイントに注意すると良いでしょう。
- 転職によってどのようなことを実現したいのか伝える
- 転職によって収入が減る場合は、数年後にアップできる可能性がないか調べておく
- 勤務形態や福利厚生なども含め、条件についてきちんと伝える
- 自身の考えを伝えるだけではなく、家族・パートナーの意向も尊重する姿勢を持ち、きちんと話を聞く
粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。