転職活動を始めるにあたり「いつ転職するとベストなのか?」は気になることの一つでしょう。そこで、年間を通じた転職市場の動向や、転職活動のタイミングを計るうえでの判断要素などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
有利になる時期はある?年間を通じた転職市場の動き
求人数や求職者数は時期によって波があり、厚生労働省が発表している「有効求人数」(※1)を見ると、1~3月と、9~10月にかけて求人数が増える傾向にあります(下図)。その背景など、時期別の求人動向についてまずは紹介します。
(※1)出典:厚生労働省ホームページ(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450222&tstat=000001020327&cycle=1&tclass1=000001214864&stat_infid=000040150013&tclass2val=0)
1〜3月:新年度の体制づくりに向けて採用が活発化
筆者が支援した企業様の事例だと、1月頃から、多くの企業の期初である4月からの事業計画とそれに基づく体制構築に向けて中途採用が活発になる傾向があります。また、年度末で退職する社員の欠員補充のための求人も増えていきます。
したがって、この時期は多くの求人から自分に合った企業を選ぶことができるのがメリットと言えるでしょう。ただし、厚生労働省が発表している「有効求職者数」(※2)によると、同じように転職を考える候補者も多く、求職者数が増加する時期でもあるため(下図)、必ずしも内定を獲得しやすいわけではありません。
(※2)出典:厚生労働省ホームページ(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450222&tstat=000001020327&cycle=1&tclass1=000001214864&stat_infid=000040150014&tclass2val=0)
4〜5月:新卒採用がメインで、中途採用は沈静化
新年度が始まる4月は、年度始めの業務や社内異動の対応、新入社員の受け入れ、翌年の新卒採用の動き出しなどで企業の採用担当者は多忙となり、中途採用の活動は沈静化する傾向にあります。一方で、大手企業の採用活動が鈍るこの時期を狙って、採用活動を行う中小企業やベンチャー企業も見られます。
また、4月は、求職者数が年間で最も多い時期でもあります。新年度の組織体制の変更や人事異動などに伴い、今後のキャリアを検討する求職者が増える傾向にあることが背景にあります。
5〜8月:上位役職など希少ポジションの求人が出る可能性も
筆者が支援した企業様の事例だと、5〜8月は、1~3月と比べると求人を控える企業様が多い傾向がございます。ただし、5〜6月は、新年度が始まり、事業・組織の方針が決定し採用予算も組めたところで、緊急度の高いポジションや新たに顕在化した上位役職など希少なポジションの求人が出ることもあります。また、6〜7月には、夏のボーナス支給後に退職する社員の欠員補充のための求人も出てきます。8月は、10月から始まる下半期の事業計画に基づく採用を始める企業が出てきますが、夏季休暇をはさむことから、選考のスピードは遅くなります。
求職者数は、新年度開始による業務多忙や、夏のボーナス受給を狙って増加する時期です。転職活動をする候補者が比較的少ないこと、また、ゴールデンウイークを転職活動の準備などに充てることができることなどが、この時期に転職活動を行うメリットと言えるでしょう。
9〜10月:下半期の事業計画に基づき中途採用が活性化
10月からの下半期に向けた中途採用が活性化し、求人数が増加する時期です。また、9月末退職者の欠員補充のための求人も増える時期です。
この時期は、夏のボーナスを受け取ってから退職できる、夏の長期休暇を転職活動の準備などに使うことができるといったメリットがあります。
11〜12月:求人数は横ばい
次年度に向けて、4月入社の人員を募集する企業が少しずつ出てきたり、冬のボーナス支給後の退職者の欠員補充のための求人が出てきたりする時期ですが、求人数自体は、1〜3月に比べると少なく、10月と同程度またはやや少なめです。また、12月は冬季休暇や忘年会などのイベントが多いため、採用活動が停滞し選考スピードが遅くなる傾向があります。
他方で、上半期で採用しきれなかった分を継続して募集している企業もあるなど、多様な背景で募集がなされる時期でもあるため、特定のスキルを求めるもの、幅広い職種を募集するものなど、求人のバリエーションは増える傾向にあります。
求職者数は、減少する時期であるため、転職活動を行う候補者は比較的少ないと考えていいでしょう。
転職活動にかかる期間の目安
転職活動をする時期を検討するうえで押さえておきたいのが、転職活動に要する期間です。転職活動に要する期間は、経験・スキルや希望する条件によってさまざまですが、一般的に「3カ月程度」とされています。
具体的には、「情報収集、応募書類の作成」に約2週間、「応募・面接」に約1カ月、内定後の退職交渉と入社するまでの期間として約1カ月が目安です。ただし、「現職の業務が忙しくて直近の日程で面接を設定できなかった」「退職交渉が難航して退職・入社が1カ月後ろ倒しになった」「面接になかなか通らず、途中で方向性を変えないといけなくなった」など、目安となる期間よりも長引く場合があることも考慮しておきましょう。
自分にとってベストな転職時期を見極める5つの要素
自分にとってベストなタイミングで転職に動くには、どのような点に着目すればいいのでしょうか。タイミングを見極める要素として、次の5つが挙げられます。
経験・実績を積み、スキルがついている
企業は、自社で活躍できる人材かどうかを判断するうえで求職者の経験やスキルに着目するため、次のキャリアに挑戦するうえで土台となる経験やスキルがついているかどうかは、転職時期を見極めるうえで重要な要素です。
なお、企業によっては、経験やスキルを判断する目安の1つとして勤続年数に着目する場合があります。あまりにも短期間で転職を繰り返している、現職の在籍期間があまりにも短いといった場合は、「スキルや経験が身についていないのではないだろうか」「自社に入社してもすぐに辞めてしまうのではないだろうか」という疑念を抱かれることがあるため、注意しましょう。
マネジメント経験
社会人経験を積んだ経験豊富な人材の場合、個人の経験・スキルに加えて、組織でのマネジメント経験が問われるケースが増えていきます。これまでの実績が認められて管理職へと昇進し、部下のマネジメントを行った経験があれば、転職活動で大きなアピール材料になる可能性が高いです。
担当プロジェクトの区切り
担当プロジェクトの区切りも、転職のタイミングを見極める要素のひとつになります。数年にわたる大規模プロジェクトを担当している場合、途中で抜けてしまうと成果や実績をアピールすることが難しくなり、「責任感に欠ける」といったマイナスな印象を与えることも懸念されます。プロジェクトを完遂させたうえで転職活動に臨んだ方が、成果をアピールしやすい可能性もあります。
ライフイベント
転職を考えるうえで欠かせない要素がライフイベントです。結婚や出産のほか、親の介護なども転職時期を見極めるポイントになる可能性があります。また、住宅購入を考えている人は、「勤続年数」が住宅ローンを組めるかどうかの判断のひとつになるケースが多いため、ローンを活用しての住宅購入を予定している場合は、転職前に金融機関に相談しておきましょう。
転職市場の動向
企業の採用ニーズは常に一定ではありません。景況によって求人数は大きく変動します。現在の転職市場はどのような状況なのか、今後はどうなっていくのかを考えながら、需給のバランスを見極めて転職のタイミングを計ることも重要です。
ケース別・目的別 おすすめの転職時期
転職にベストな時期は個々のケースによっても異なります。ケース別におすすめのタイミングをご紹介します。
選択肢が多い時期に活動したい
厚生労働省が発表している有効求人数からわかるように、1〜3月と9〜10月が、年間で求人数が多い時期です。したがって、選択肢が多い時期に転職活動を進めたい場合、これらの時期に応募できるよう準備を進めるとよいでしょう。
転職活動を行う候補者が少ない時期に活動したい
求職者数が少ないのは、6〜8月と11〜12月頃であるため、これらの時期に活動を進めるとよいでしょう。ただし、求人数が増えるのは1〜3月と9〜10月であるため、求人数が増える時期を見据えて情報収集や応募書類の記載する内容の整理など、事前にできる準備をしておき、求人が増えてくるタイミングですぐに応募していくという方法をとるのも一案です。
ボーナス受給後に次の会社の移りたい
ボーナス受給後に転職をしたい場合、まずは現職の就業規則・賞与支払い規定を確認してから、退職意思を伝えるタイミングを決めましょう。転職活動はボーナス支給時期の2〜3カ月前から始めることをおすすめします。例えば、夏のボーナス支給時期が6月末~7月上旬を想定すると3月・4月頃から、冬のボーナス支給時期が12月中旬を想定すると9月・10月頃からが目安です。
4月入社を狙いたい
退職交渉に1カ月半程度かかることを考えると、1月〜2月初旬には内定を得て退職交渉を始め、3月末までに引き継ぎや有給消化ができるよう、11月前後から情報収集などを始めることをおすすめします。
10月入社を狙いたい
10月入社を狙う場合も、退職交渉に1カ月半程度かかることから逆算して、7月〜8月初旬には内定を得て退職交渉を始められるよう、5月前後から情報収集などを始めることをおすすめします。
業務が多忙な中でも転職活動をしたい
転職市場の動向よりも、転職活動に充てる時間を確保できる時期がベストタイミングとなります。例えば、5月(ゴールデンウィーク)、8月(夏季休暇)、12月(冬季休暇)など、長期休暇を活用できるタイミングで転職活動をスタートさせるのが良いでしょう。
自分のベストタイミングを見定めて、念入りな準備を行おう
求人が多い・少ない時期は年間を通してあるものの、転職のベストな時期は人によって異なります。自身で納得がいくように、スケジュールを立てていきましょう。
より良い転職先を一刻も早く見つけたいところですが、だからといって焦るのは失敗のもとです。短期間で結果を出そうと動くのではなく、まずは時間をかけて情報収集し、じっくりとタイミングを計りながら転職活動を進めるのが良いでしょう。
【アドバイザー】
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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