転職の入社日は自分で決められる?入社日の決め方と交渉のコツ

採用面接の風景

転職する際、現職での引き継ぎなどの兼ね合いから調整が必要になるのが「入社日」です。入社日は、どのような形で決まるのでしょうか。また、想定よりも早いタイミングで入社日を提案された場合、どのような交渉をしたらいいのでしょうか。社会保険労務士・岡佳伸氏監修のもと、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏に、応募企業側の事情と、入社日を交渉する際に押さえておきたいポイントについて伺いました。

入社日はどのように決まる?

入社日は、応募した企業によって、募集を開始した時点で「決まっている場合」と「決まっていない場合」があります。入社日が決まっていない場合は、転職先に希望する入社日を伝えて調整することが可能なため「自身の意思や希望を反映して入社日を決めることができる」と言えます。下記で、それぞれの背景事情について詳しく解説していきます。

募集時点で入社日が決まっている場合

大手企業や外資系企業などでは、募集時点ですでに入社日が設定されているケースが少なくありません。これは、社内人事に合わせて4月や10月などの期の変わり目にしか中途採用者を受け入れない慣習があったり、採用の予算が明確に決められていたりするためです。こうした企業では、退職や異動に伴う欠員募集を行う場合であっても、入社日があらかじめ設定されていることが多いでしょう。

入社日が事前に決まっている場合は、求人に「〇月〇日入社」と記載されていることがほとんどです。記載されていない場合は、選考の段階で入社日について詳しい説明がなされることもあります。

募集時点で入社日が決まっていない場合

「日ごろから積極的に中途採用を行っている」「人材の流動性が高い」などの理由から、特に入社日を設けていない企業も多くあります。こうした企業では、選考を進めながら双方の希望をすり合わせるなど、比較的柔軟に入社日を決めることができるでしょう。

内定から入社までの期間の目安は?

内定を得てから入社するまでの目安となる期間と、早期入社を求められるケースについて解説します。

一般的な内定から入社までの期間

内定から入社までの期間は、1~3カ月程度が一般的です。入社日や退職日を調整する際には、これを目安にスケジュールを考えると良いでしょう。

特殊なケースとして「専門性の高いスキル・知見を持つ人材を求めている」などの求人において、半年、1年など、長期にわたって入社を待つ企業もありますが、ほとんどの場合は当てはまりません。特にベンチャー企業の場合などは、数カ月間で事業環境や戦略がガラリと変わるケースもあり、状況に応じて採用計画が変更になる可能性もあります。「半年後に入社」など、入社日を大きく先送りすることは難しいと考えたほうが良いでしょう。

1カ月以内の入社を求められるケースもある

求人情報に「急募」の旨を明記している場合は、欠員補充や新規事業の展開に合わせた採用などの目的から「できるだけ早く入社できる人材」を求めていると考えたほうが良いでしょう。企業や採用の状況によっては、1カ月以内や最短日程での入社を求められるケースもあります。離職中の場合や退職日がすでに決まっている場合、また、在職中でも実際には1カ月後に入社できる状況がある場合に「3カ月後に入社希望」などと先延ばしにした入社希望日を伝えた場合は、ほかの求職者が優先されることもあるので注意しましょう。

また、離職中や退職日がすでに確定している場合には、最短で「内定を得てから1週間後」などの入社を求めるケースもあります。しかし、在職中に転職活動を進めている場合には、現職の会社を退職するまでに一定の期間を要するため、焦って指定された入社日を承諾することはお勧めできません。自身の状況をきちんと伝え、落ち着いて入社日を交渉しましょう。

面接で入社日を聞かれたら?入社日の決め方

転職活動を始める前に確認しておきたいのが、現職の就業規則です。いつまでに退職の告知が必要なのか記載されているため、事前に確認しておくことが大切です。

また、引き継ぎには最低でも2週間程度の期間がかかることを想定し、現在の仕事の状況も含めた上で、無理のない範囲で「最短入社可能日」と「希望入社日」を面接で伝えるようにしましょう。

応募企業の指定日では入社が難しい場合は?

応募企業から提示された入社日では調整が難しい場合には、面接などの選考過程の中で、できるだけ早めに伝えるようにしましょう。例えば、引き継ぎが理由の場合は「採用していただけました場合、入社日は〇月〇日になると伺いましたが、現職の業務を後任に引き継ぐスケジュールを考えると難しい状況です。可能であれば〇月〇日からに変更をお願いしたいのですが、いかがでしょうか」と、しっかり理由を添えて相談することが大切です。

ただし、企業側も入社予定日に合わせて準備を進めています。タイミングによっては受け入れられない可能性もあるので、一方的に主張するのではなく、謙虚な姿勢で対応しましょう。

企業が提示した入社日より早く入社したい場合は?

企業から提示された入社日よりも早期の入社を希望した場合、入社意欲の強さや仕事へのモチベーションの高さが伝わるため、マイナスに受け取られる可能性は少ないと言えます。

「すでに前職の会社を退職しているため、仕事を覚えるために早く入社したい」「退職予定日が決まっているため、ブランクなく働き始めたい」「現職の担当プロジェクトに区切りがついた今のタイミングで退職し、スムーズに入社したい」など、内定企業に早期入社したい理由を伝えて相談してみると良いでしょう。

ただし、企業側にも受け入れ態勢を整えるための準備があるので「その時期では受け入れが難しい」という返答があった場合は、無理に交渉せず、指示に従うことをお勧めします。

入社日交渉のポイント

企業側から提示された入社日では、どうしても都合がつかないケースもあります。入社日の交渉のポイントを解説します。

内定が出る前に交渉する

内定が出てから入社日の交渉を行うのは、原則として避けましょう。内定は、さまざまな条件を考慮の上、社内承諾を得て提示されるものであり、そこには入社日も含まれるからです。場合によっては、内定自体が取り消されるリスクもあります。入社日交渉は内定前に、かつ選考の早い段階に希望を伝えるのが基本です。

優先順位を決めておく

入社日の交渉を行う際は、事前に優先順位を明確にしておくようにしましょう。「応募企業から提示された入社日」を優先するのか、あるいは「自身の入社希望日」を優先するのか、どちらかに決めておけば交渉時に迷うこともなくなります。

また、「自身の入社希望日」についても、「最短で入社が可能な日」と「有給消化なども考慮した本当の希望日」を考え、応募企業の志望度に応じて、バランスを取りながら入社日を決定するのがよいでしょう。

希望入社日の背景を説明できるようにしておく

企業が提示した入社日と、求職者の希望入社日が合わない場合、採用担当者が社内の関係部署と入社日の調整を行わなくてはなりません。採用担当者が社内調整しやすいように「現職の就業規則上、退職するには一定期間が必要」「かかわっているプロジェクトは途中での離脱が難しい」など、納得感のある明確な理由を具体的に説明できるようにしておきましょう。

内定承諾を経て入社日が決まった後でも変更はできる?

内定を承諾した後に現職の退職交渉がうまくいかないなど、やむを得ない事情で入社日を変更したいと考えるケースは少なくありません。入社日を変更する必要が出てくる可能性も踏まえ、企業の事情や交渉のコツなどを把握しておきましょう。

内定承諾・入社日決定後に再度の入社日変更ができるかはケースバイケース

内定承諾を経て入社日の調整・決定をした後、再度の入社日の変更ができるかどうかは企業によります。大前提として、企業側は入社日に向けて受け入れ準備を進めているという背景があるため、入社日の変更で迷惑を掛けてしまうことは理解しておきましょう。加えて言えば、入社に必要な各種手続きだけでなく、今後の事業計画に影響する可能性もあるため、基本的には予定通りの入社を望んでいると考えたほうが良いでしょう。

また、内定承諾後に入社日の再変更を申し出た場合は「退職交渉をきちんと進めているのか」「内定承諾後もほかの企業の選考を進め、入社を辞退してしまうのではないか」「最終的に入社しないのではないか」などの疑いや不信感を持たれることもあります。企業との信頼関係や入社後の働きやすさに影響することも踏まえて、入社日は原則的に守るものと考えましょう。

やむを得ない事情がある場合は、相手が納得できるような変更の理由を具体的に伝えれば、柔軟に対応してもらえるケースもあります。急募の採用でなければ「半月~1カ月程度なら後ろ倒しに変更可能」とされることもあります。しかしこうした場合でも「2~3カ月先までは待てない」となることが十分あり得るので、入社日をあまりにも先延ばしすることは避けたほうが良いでしょう。

内定承諾・入社日決定後の入社日変更に必要な手続き

入社日を再度変更したい旨を企業の採用担当者に電話・もしくはメールにて連絡します。その際には、合意の上で決定した入社日を自己都合で変更することに対し、きちんと謝罪し、変更の理由や背景・経緯と可能な入社日を伝えて交渉しましょう。

入社日変更を承諾してもらった後は「労働条件通知書の再発行」「雇用契約書の再作成」という手続きが発生するので、そのために必要なやりとりを行います。

内定承諾・入社日決定後に、入社日を再変更する場合の交渉のコツ

内定承諾・入社日決定をした後、入社日を再変更する交渉を行う場合に、押さえておきたいコツをご紹介します。

再度の変更が必要な場合は迅速に連絡する

内定承諾・入社日決定後の時点で、入社日の再変更が必要になることが判明したら、なるべく迅速に採用担当者に連絡しましょう。連絡が遅くなるほど、企業の受け入れ計画や手続きなどに大きな影響を与えてしまい、迷惑をかけることになります。連絡する際には、冒頭でしっかり謝罪した上で、変更の理由や可能な入社日を伝えましょう。

最大限に誠意を伝えたい場合は、まずは電話で連絡し、その後、メールにて詳細な事情を再度共有すると、より丁寧な印象につながります。採用担当者に電話がつながらない場合は、メールで事情説明をした後、再度電話をすると良いでしょう。

入社日を再変更する理由・背景はメールで詳細に伝える

電話で入社日の再変更を承諾してもらった場合でも、メールなどの文書で履歴を残すことが大事です。「言った・言わない」などで揉めるトラブルを避けるためにも、日付と交渉内容の履歴は残したほうが良いと考えましょう。また、内定企業の社内でも事情を共有してもらいやすくなるというメリットもあります。

スムーズに交渉を進めるコツとして「なぜ延期が必要なのか」「どのような理由・背景・事情があるのか」など、これまでの経緯も含めてできる限り詳細に伝えましょう。例えば、退職交渉が難航した場合は、退職交渉の経緯をなるべく具体的に伝えることで、誠意を示すことができます。現職の会社とのやりとりにおいて「いつ、誰に、何を伝え、どのような反応があったのか」「自身として、どのような意思表示や交渉をして入社日を守ろうとしたのか」まで伝えると良いでしょう。

転職エージェントを活用して相談しやすい体制を作る

転職エージェントを活用している場合は、入社日を再変更したい事情がある場合にも、企業との間に入って交渉します。交渉可能な期日などについても相談しやすいため、入社日や退職日への不安がある場合は、最初から転職エージェントを活用し、任せられる体制を構築しておくことも一つのコツと言えるでしょう。

また「入社日の再変更が必要になるかはわからないが、面接日程の調整など、企業と直接やりとりすること自体、気が重い」と感じている方にとっても、企業とのやりとりを全て任せられるのでお勧めです。

入社日の再変更を申し出る際の電話・メールの例文

入社日の再変更を申し出る際に、参考になる電話とメールの例文をご紹介します。

電話の例文

<導入>
お忙しいところ恐れ入ります。〇月〇日に御社への入社を予定している〇〇と申します。
大変申し訳ございませんが、入社日の件でご相談したいことがあり、ご連絡させていただきました。 お時間いただいてもよろしいでしょうか。

<事情説明>
先日、御社への入社予定日を〇月〇日にてご調整いただきましたが、現在、退職交渉が難航しております。〇月〇日に直属の上司に退職の意思と退職予定日を伝え、入社予定日に向けて調整を進めておりましたが、後任候補であった人材が健康上の理由によって退職することとなってしまいました。

引き継ぎ期間も踏まえた上で退職交渉を行い、すでに退職することについて了承を得ておりますが、後任人材の確保に1カ月程度、引き継ぎ期間に2週間程度はかかるとのことで、強く引き止めされている状況がございます。
大変申し訳ございませんが、現職の職場に長年お世話になってきた背景があるため、退職を強行することは避けたいと考えております。また、きちんと責務を果たした上で、御社の業務にしっかりと打ち込みたいと考えております。

こちらの事情でご迷惑をお掛けしてしまうことになり、大変申し訳ございませんが、入社予定日を1カ月程度延ばさせていただけますよう、ご検討いただくことはできますでしょうか。

<締めの挨拶>
ご検討いただけるとのこと、誠にありがとうございます。
それではご連絡お待ちしておりますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。

メールの例文

<件名>
入社日についてのご相談 〇〇(自身の氏名)

<本文>
人事総務部 〇〇(担当者氏名)さま

お世話になっております。
〇月〇日に貴社への入社を予定している〇〇と申します。
本来であれば、お伺いしてお話しすべきところですが、本日、○○さまにお電話したところご不在とのことでしたので、まずはメールにてご連絡させていただきました。
迅速に状況をお伝えしたほうがよろしいと考えましたため、電話ではなくメールにてお伝えすることをお許しください。

先日、入社日の日程を〇月〇日でご調整いただき、順調に退職に向けた手続きを進めておりましたが、私の業務を引き継ぐ後任者の体調不良により、予定していた業務の引き継ぎが大幅に遅れている状況がございます。

〇月〇日に直属の上司に退職交渉を行い、引き継ぎ期間も踏まえた上、退職時期についても了承を得ていたため、上司と相談を重ね、引き継ぎできる者の検討を依頼しましたが、すぐに対応できる人材が確保できていない状況となっております。

そのため、後任人材の確保に1カ月、引き継ぎに2週間程度の期間を要するとのことで、退職日を1カ月ほど後ろ倒しにしてほしいとの要請がありました。

ご迷惑をお掛けしてしまうことは重々承知しておりますが、〇月〇日の入社日を、〇月〇日に変更していただくことはご可能でしょうか。

現職の業務をきちんと引き継ぎ、責務を果たした上で、貴社の業務にしっかりと取り組ませていただければと考えております。

こちらの事情でご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございません。
何卒、前向きにご検討くださいますようよろしくお願い申し上げます。

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氏名:(自身の氏名を記載)
メールアドレス:(自身のEメールアドレスを記載)
電話番号:(自身の携帯電話番号を記載)
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監修

岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。