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40代の転職活動では、キャリアの転換期と捉えて未経験の業界・ポジションなどを目指すケースもあれば、今後のライフプランなどを踏まえて長く働き続けられる仕事を探すケースなどもあるでしょう。昨今の40代の転職市場の傾向や理想の転職を実現するポイント、40代転職でうまくいかないケースや事例などを、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
40代転職の現実とは?転職市場の傾向を解説
まずは、昨今の40代の転職市場の傾向について解説します。
40代で転職先を決めた人の割合とは?
リクルートエージェントが発表している転職市場データ(※1)によれば、「リクルートエージェントを利用して転職先が決まった転職者」の平均年齢は35歳となっています。年齢別の割合を見てみると、「25~29歳」が35.00%で最も多い結果に。次いで「30~34歳」が23.45%、「40~49歳」は16.12%、「35~39歳」は13.57%、「20~24歳」は6.34%となっていました。40代の転職者の割合は、20代・30代と比べると多くはありませんが、一定数を占めていることがわかります。
一方、厚生労働省による「一般職業紹介状況」(※2)では、年齢別の「有効求人数」の推移を公表しています。これによると、平成23年3月の有効求人数は、「40〜44歳」が135,489件、「45歳〜49歳」は129,222件となっていますが、現状での最新データである令和2年3月になると、それぞれ207,291件、195,316件となっていました。40代全体の有効求人数は、この10年間で大きく伸びていることがわかります。
(※1)出典:リクルートエージェント 転職市場データ「転職者の平均年齢」
https://www.r-agent.com/data/market/age/
(※2)出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計/〜令和2年3月)
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450222&tstat=000001020327&cycle=1&tclass1=000001036465&stat_infid=000031942509&tclass2val=0
40代〜50代のミドル層の採用事例も増加傾向
株式会社リクルートが発表したデータ分析(※3)によれば、40代〜50代以上の人を採用する事例が増加傾向にあることがわかります。株式会社リクルートが発表した「ミドル・シニア(45歳以上)の転職決定者数の推移」を見ると、40代~50代以上の人を採用する事例が増加傾向にあることがわかります。2017年度を1とすると、2022年度では、全職種は4.91倍、ITエンジニア職では10.22倍に増加。それぞれこの5年で約5倍、約10倍に拡大しています。
また、株式会社リクルートが発表している『リクルートエージェント』における「スタートアップへの年代別の転職者数推移」(※4)では、「40歳以上」の転職者数は、2015年度と比べ、2023年度は7.1倍となっています。一方、「20~39歳」では2.7倍となっており、ミドル・シニア層の方が若い世代よりも転職者数の伸び率が顕著であることがわかりました。
(※3)出典:株式会社リクルート 「45歳以上のITエンジニア職の転職、この5年で約10倍に拡大」
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20230831_hr_03.pdf
(※4)出典:株式会社リクルート「スタートアップへの転職、2015年度比で3.1倍に増加 40歳以上の転職者数の伸びが顕著。転職時の年収は上昇傾向」
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20240917_work_01.pdf
40代で「転職は厳しい」と感じる場合によくあるケース
40代は、家庭を持ち、住宅ローンや子どもの養育費など出費が多い世代でもあります。収入を下げられない事情を抱え、「年収維持」を希望する傾向が強く見られます。しかし、年収水準が高い大手企業などから中堅・中小企業やスタートアップに転職する場合、給与条件の折り合いがつかないケースもあります。また、「管理職として転職したい」など、役職にこだわる方も少なくありません。
若手と比べて譲れない条件が増えるため、求める状況に合致するかどうかで企業を厳選する傾向が強くなると言えます。それにより、なかなか納得できる転職先が見つからず、「40代の転職は厳しい」と感じてしまう方もいるようです。
40代の採用で求められる経験・スキルは?
ここでは、識者が転職支援を行なってきた経験を基に、40代の採用で求められる経験・スキルを解説します。
特定分野における高い専門性
社会人経験が10年未満など、経験年数が比較的短い場合には、未経験者の採用を行う企業も見られますが、20年以上などの経験・キャリアを重ねてきている場合は、より専門性の高い知識・経験・スキルが求められる傾向があります。そのため、特定領域・特定分野における知見が深く、実績を挙げている場合には、評価につながりやすいと言えるでしょう。
また、企業によっては、組織改編や新規事業開発、DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進、IPO準備などの状況に合わせ、必要な経験・スキルを豊富に持つ人材を求めるケースもあるようです。
マネジメント経験
リーダー、マネジャー、管理職など、組織を牽引するポジションを任せるために、一定以上のマネジメント経験がある40代を求める傾向も見られます。マネジメント能力は、部下の指導・育成を行い、チーム全体で実績を挙げていくために必要とされる力と言えるでしょう。
40代で希望に沿う転職を実現するための8つのポイント
識者の経験を基に、転職実現に役立つポイントを8つ例として挙げて解説します。
1:自身の経験・スキルを整理し、転職市場価値を掴む
40代は経験が豊富だからこそ、キャリアの整理が不十分となる傾向もあります。そのため、これまでの経験・スキルを網羅的に応募書類に盛り込んだ結果、応募企業に「強み」が伝わらず、書類選考を通過できないケースも見られます。転職市場でのニーズをつかんだ上で、どの経験・強みを武器に転職活動に臨むのかを決めることがポイントになるでしょう。
なお、株式会社リクルートの調査(※5)によれば、近年は40歳以上の異業種・異職種への転職事例も増加傾向にあります。異分野に参入して新規事業を立ち上げる企業がその分野のベテランを採用するなど、自身が想像していなかった業種の企業で経験・スキルが活かせるケースもあります。視野を広げて、自身の経験・スキルが活かせる場所を探してみましょう。
(※5)出典:株式会社リクルート 「「異業種×異職種」転職が全体のおよそ4割、過去最多に 業種や職種を越えた「越境転職」が加速」
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2023/1129_12773.html
2:「条件」にこだわりすぎない
業界・企業規模・年収などの諸条件・勤務地など、条件にこだわりすぎると、選択肢が限られてしまう可能性があります。希望条件を満たす企業がなかなか見つからず、転職活動が長引いてしまうケースもあるので、
希望条件は優先順位の高いものだけに絞り、幅広い求人に目を向けてみることで、チャンスが増えるでしょう。
3:キャリアの可能性の幅を広げる
どの年代でも共有ではありますが、理想のキャリアを実現させたケースでは、「転職の軸やキャリアの方向性を定めながらも、最初は選択肢を広げ、転職エージェントや企業と対話しながら検討する」という傾向も見られます。例えば、求人情報の上では希望年収を満たしていないケースでも、選考を受ける中で評価が上がり、年収が希望通りになることもあるため、求人情報の年収だけで判断せずに事業内容や仕事内容に魅力を感じたら応募することで選択肢を増やすことができます。
4: マネジメント経験を活かせる企業を探す
自身のマネジメント経験を振り返り、人数規模・対象層・手法などを整理した上で、それを活かせる企業を探してみてください。業界が異なっても、対象層や手法が共通していれば、マネジャーのポジションで受け入れられることもあります。また、スタートアップ企業などでは、組織を一から立ち上げたり、混沌としている組織を整えたりするマネジメントを求めるケースもあります。
5:選考では具体的に活躍貢献性をアピールする
「根拠をもって会社への貢献度をアピールする」ことが重要です。単に「貢献できます」とだけ伝えるのではなく、応募企業に対してどのような価値を発揮できて、事業や組織にどのような貢献ができるか、具体的な「エビデンス(実績、専門知識、資格、経験、エピソードなど)」を用いて伝えられれば、説得力を持ってアピールできるでしょう。
6:「できること」だけでなく「やりたいこと」を伝える
過去の経験・スキルから「できること」をアピールするだけでなく、入社後に「やりたいこと」を伝えることもポイントです。昨今のマーケットは変化が激しいため、過去の実績に加え、「変化」にチャレンジする姿勢を求める企業も少なくはないでしょう。「入社後、何がやりたいのか」「何を目指すのか」といった目標や将来ビジョンを語れるようにしておけば、より意欲的に取り組む姿勢を伝えることができます。
7:謙虚な姿勢を心がける
高度な経験や優れた実績を持っているために、謙虚さに欠けるアピールをするケースも見られます。こうした場合は、採用担当者が「この人が入ることで組織バランスが崩れるかもしれない」「自身のやり方に固執して、既存社員と衝突するかもしれない」といった懸念を抱き、採用を見送る可能性もあります。
企業は、応募者に対し「成果を挙げてくれる人材であるか」と同時に、「一緒に働きたい人材であるか」も確認する傾向があります。応募企業のやり方を受け入れた上で、自身の経験を活かそうとする謙虚な姿勢を示すことで、採用担当者も安心感を抱きやすいでしょう。
40代の転職活動でうまくいかないケース
識者の経験を基に、40代の転職活動でうまくいかないケースについて解説します。
転職準備をしっかり行なっていない
キャリアの棚卸しや面接対策などの転職準備をしっかりと行なっていない場合は、選考の際にうまくアピールできない可能性があります。高い専門性や実績がある場合でも、応募企業の求める経験・スキルや人材像にマッチしていることをアピールできなければ、選考通過は難しくなるでしょう。
また、転職活動のスケジュールを立てていない場合は、計画的に進めることができず、転職活動が長引いてしまうケースも見られます。多忙のために転職準備を自身で行うことが難しい場合は、転職支援を行なっている転職エージェントを活用することも一案です。また、スカウトサービスを利用した場合、スカウトを受けた転職エージェントで転職支援を受けられることもあります。
転職の目的を明確にせず、希望条件を整理していない
「転職の目的=転職先で実現したい」ことを明確にしていない場合は、そもそも希望に合わない企業に応募してしまう可能性があります。さまざまな角度から希望条件を考え、優先順位をつけるなどの整理をしていない場合も同様のことが言えるでしょう。
希望を叶える転職を実現するには、転職の目的に沿って応募企業を探すことが重要です。また、全ての希望を叶えられる転職先は簡単に見つからないものと言えるため、譲れない希望条件と、譲歩できる希望条件を踏まえて応募企業を検討することも必要になるかもしれません。
前職(現職)の役職や企業規模ばかりアピールする
40代の転職では、前職(現職)の役職や企業規模をアピールするケースが多く見られます。しかし、「大企業に勤めていた」「部長職を経験した」など、企業規模やポジションのみを伝えた場合は評価につながりにくいでしょう。その企業やポジションでどのような貢献をし、それを応募企業でどう活かせるかまで伝えることが大切です。
安定志向を前面に出しすぎる
「長く働きたい」というアピールは、応募企業にとって「腰を据えて貢献してくれる」というプラスの印象につながると言えますが、「なぜ応募企業で長く働きたいのか?」を具体的に伝えることも重要です。転職理由を問われ、「前職では自身のキャリアに将来性が見えない」「定年まで雇用が確保される会社で働きたい」などと伝えてしまうと、「雇用の不安を解消したいだけなのでは?」などの懸念を抱かれる可能性もあります。「応募企業だからこそ長く働きたい」という考えが伝わるように、具体的なエピソードを交えて回答しましょう。
40代の転職・理想の転職先に入社できた事例
40代の転職で理想のキャリアを実現できた人の事例を識者の経験を基にご紹介します。
一時的な年収ダウンを受け入れ、大手からベンチャー企業へ
大手企業系列のSIerで課長職・プロジェクトマネジャーを務めていたAさん(40代前半)。「伸びている技術分野で、自社サービスを手がけたい」と考えて転職活動を行い、AI(人工知能)ベンチャー企業に開発部長のポジションで迎え入れられました。
採用の背景としては、応募企業の顧客が大手企業群であったため、大手企業で大規模プロジェクトのマネジメント経験を豊富に積んでいることが大きく評価されました。
転職先はベンチャー企業であり、前職の大手企業と比較すると給与水準がまだ高くなかったため、年収は100万円ほどダウンすることに。しかし、「会社の成長に貢献することで、将来的に年収を上げられる」と考え、入社を決意しました。
役職定年を目前に、新しいチャレンジに踏み出す
金融機関のグループ会社で情報システム部門の課長職を務めていたBさん(40代半ば)は、数年後の役職定年を控え、キャリアの先行きへの限界を感じていました。会社に残って裁量権もやりがいも持てない仕事を続けるよりも、経験を活かしてチャレンジがしたいと考え、早期退職を決意。ITベンチャーの情報システム部門に、執行役員候補の部長職として採用されました。
採用の背景としては、応募企業が情報システムの体制強化を進めていたため、金融機関で高い水準の情報セキュリティに携わった経験や豊富な知見が評価されました。
前職の年収も維持することができたため、この先も安定した収入を得ながら長く活躍し続けられると考え、入社を決意しました。
40代の転職・理想のキャリアを実現できなかった事例
40代の転職で理想のキャリアを実現できなかった人の事例を識者の経験を基にご紹介します。
カルチャーギャップを受け入れられず、転職先企業を早期退職
Cさん(40代前半)は、大手コンサルティングファームから100人規模のITベンチャーへ転職しました。前職のままでは昇進が難しく、キャリアの天井が見えた焦りから転職を決意し、「成長性が高く、キャリアアップが期待できること」「企業理念に共感できること」を条件に転職先を探したため、年収が数百万円ダウンすることも受け入れました。
しかし、早期に転職したいと思う焦りから「自身に合う企業文化があるかどうか」まで確認していなかったため、入社後に大きなカルチャーギャップを感じて悩むことに。前職では、論理的思考で課題を分析し、緻密な戦略を練った上で実践に移していましたが、転職先のベンチャー企業では、勢いがある若手社員たちが「考えるより先に行動を起こす」というスタンスで活動していたのです。
仕事の進め方にも職場の風土にもなじめないと感じたCさんは、1年も経たずに退職しました。
業界・職種は同じでも、「フェーズ」が異なり、経験が活かせなかった
Dさん(40代前半)は、IT企業でカスタマーサクセスを担当していました。しかし業績不振に陥り、事業縮小方向へ向かっていたため、転職を決意。前職と近いサービスを手がけるIT企業へ、前職と同じカスタマーサクセスとして入社しました。
同業界・同職種への転職であるために、具体的な業務内容を確認せず、「これまでの経験をそのまま活かせる」と考えていたDさんは、入社直後からギャップに気付きます。前職では、仕組みが出来上がっている中でルーティン業務に従事しておりましたが、転職先は、これからカスタマーサクセス部門を整備していくフェーズにあり、一から仕組みを作る業務を担うことになったのです。
自身の経験を活かせない業務を任され、成果を出せずに居づらさを感じたDさん。また、日常的に業務方針や内容、組織体制・人員が目まぐるしく変わることに大きなストレスを感じたこともあり、短期間で退職しました。
40代の転職活動の疑問を解消するQ&A
40代の転職活動における疑問を解消するために役立ててみてください。
採用されるかどうかは「企業と求職者のマッチング」によるため、ケースバイケースと言えます。先にも述べた通り、40代の求職者に対し、高い専門性やマネジメント経験を期待しているケースは少なくないので、自身の専門性を活かせる業界・職種や、マネジメント経験を求めている求人などを中心に検討するのも一案です。
株式会社リクルートが発表したリクルートエージェントの転職者分析(※6)によれば、2022年度の転職者決定者の業種・職種の同異パターンを分析したところ、40代の場合は「異業種×同職種」が38.3%で最多となっていました。また、「異業種×異職種」は25.8%、「同業種×異職種」も11.9%のため、未経験の業種・職種への転職を実現しているケースは増加している状況です。自身の経験・スキルを活かせる領域であれば未経験転職も可能と言えるでしょう。
(※6)出典:株式会社リクルート 「「異業種×異職種」転職が全体のおよそ4割、過去最多に 業種や職種を越えた「越境転職」が加速」
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20231129_hr_01.pdf
企業のキャリアパスや社員の平均年齢、各種制度などを調べ、長く活躍し続けられる環境があるか判断することもできます。また、ワーク・ライフ・バランスや社風が自身にマッチするかどうかもポイントになるでしょう。企業のホームページや求人情報のみでは判断しにくいこともあるため、面談や面接などの際に、気になる点について確認することが重要です。
40代の転職で年収アップするためのポイントは、「自分の経験・スキルが活かせる業界・企業・職種を選ぶこと」が前提となるでしょう。加えて言えば、収益性の高い業界・企業は年収水準も高い傾向にあるので、そうした業界・企業への転職を目指すこともポイントになります。また、年収がアップするだけの責任を任される職種やポジションに就く方法もありますが、成果を上げることがプレッシャーになるケースもあるので注意が必要と言えます。
40代で希望の転職を実現するために、転職エージェントやスカウトサービスを利用するのも有効
一般的に、転職エージェントでは、求職者の希望や市場価値に合う求人を紹介します。求職者が目指すキャリアなども踏まえた上で、幅広い業界・企業・職種などを紹介するケースもあるため、今後のキャリアの可能性を広げることに役立てられるでしょう。また、キャリアの棚卸しや面接対策などの転職準備をサポートするケースもあり、選考でよりアピールできるようになるかもしれません。企業とのやりとりや面接日程の調整におけるサポートも基本的には転職エージェントが行うため、在職中の転職活動も進めやすくなる点もメリットと言えます。
一方、スカウトサービスでは、自身の経験・スキルに興味を持った企業や転職エージェントからスカウトメールを受け取ることができます。自身の市場価値の把握や、情報収集の効率化に役立てることができるでしょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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