「成長業界に身を置いて自分も成長したい」「キャリアの幅をさらに広げたい」といった理由で、異業種・異業界への転職を希望する人が増えています。異業種・異業界への転職の実現可能性や、異業種・異業界転職のメリット・デメリット、さらには、転職を実現させるために考えておきたいポイントを、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
異業種転職は難しい?データで見る転職事情
まずは、現状、異業種への転職を実現している人がどのくらいいるのか、調査・統計などをもとに見てみましょう。
異業種への転職は増えている
株式会社リクルートが2023年11月に発表した『リクルートエージェント』の転職者分析の結果(※1)によると、2022年度の転職決定者のうち「異業種×異職種」へ転職した人は39.3%、「異業種×同職種」へ転職した人は32.0%、合計71.3%と、異業種への転職を実現した人は7割を超え、増加傾向にあります(図1)。
年齢別に見ると、どの年齢層においても、転職者の6割超が異業種への転職を実現しています(図2)。異業種へのチャレンジが可能な土壌はあると言えそうです。
また、年齢が上がるにつれて同職種への転職割合が高くなり、25歳以上では、「異業種×同職種」が3割を超えています。年齢の上昇とともに、職種は変えずに新たな業種にチャレンジする転職者が増えることが伺えます。
(※1)出典:株式会社リクルート「『リクルートエージェント』転職者分析」(2013年度〜2022年度)(https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2023/1129_12773.htmf)
異業種からの転職が多い職種
次に、異業種からの転職が多い業種について見てみましょう。同じく、『リクルートエージェント』の転職者分析の結果によると、「異業種×異職種」「異業種×同職種」の合計が最も高い職種は「人事」で86.1%であり、次いで、「経理・財務」(85.8%)、「経営企画・事業企画・業務企画」(80.3%)などが8割を超えていました(図3)。
また、「営業」(76.0%)、「インターネット専門職(Webエンジニア含む)」「マーケティング」(70.6%)などが7割を超えていました。人事や経理・財務など管理部門に関連する職種は、業種をまたいでも業務内容の共通性が比較的高いことから、他の職種と比べて異業種への転職を実現させやすいことが伺えます。
異業種・異業界への転職のメリット・デメリット
では、異業種に転職する場合、どのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。主なものとして、それぞれ1つずつ紹介します。
メリット:新たなやりがいや経験・スキルを手にできる
異業種・異業界へ転職するメリットの一つは、現職で実現できない仕事上の希望を叶えられる可能性があることです。例えば、自社製品を持たない商社やコンサルティングファームから事業会社へ転職した場合、「自社で製品を開発して売ることで社会に貢献したい」「一つの事業をじっくり育てたい」などの希望を叶えることができるでしょう。「早くから裁量権を持って働きたい」「スピード感を持って仕事がしたい」と希望する人が、ITなどの成長業界へと転職するケースも多く見られます。
また、昨今の転職市場においては、複数の企業や部門でさまざまな経験を積んだ人が評価される傾向が見られます。テクノロジーの進化を背景に、多くの企業が新たな価値の創出に取り組む中、複数の領域の知見を持っている人材が求められているからです。前職とはビジネスモデルが異なる業種・業界で働くことで、新たなスキルを身につけ、視野が広がり、ビジネスパーソンとしての価値を高めることができるでしょう。
デメリット:入社後にミスマッチが起こる可能性がある
どのような転職でも「社風や仕事内容が合わなかった」というミスマッチの可能性はあるものですが、特に異業種・異業界への転職の難しさは、業種・業界によって常識がまったく異なることが考えられます。たとえ同じ職種であっても、業種・業界が変わり、扱う商材が変われば、担当範囲やチームとして働く人たちの人数、仕事に対する評価軸など、多くのことが異なります。社内で使用される用語や仕事のスピード感なども一変するため、前職のやり方で仕事をしても、なかなか結果が出ないというケースも少なくありません。
したがって、異業種・異業界へ転職する際は、前職の仕事の進め方や成功体験を活かしつつも、新しく学びなおす意識で臨むといいでしょう
待遇の変化はケースバイケース
厚生労働省が発表している「令和4年雇用動向調査結果の概況」(※2)によると、令和4年(2022年)の転職者全体のうち、前職よりも収入が「増加」した人の割合は34.9%、「減少」した人は33.9%、「変わらない」人は29.1%となっています。つまり、年収が上がる人と下がる人の割合はおよそ3割強で、それ以外の人は現状維持となり、転職による年収のアップ・ダウンはまさにケースバイケースであると言えるでしょう。
一般的に「未経験領域」への転職をすると、入社当初は年収が下がることもあります。ただ、職種の専門性を活かして、前職よりも年収水準が高い業種・業界に転職した場合は、年収アップを狙うこともできるでしょう。また、前職よりも成長性のある業界に転職した場合、一時的に年収が下がったとしても結果を出し続けることで、長い目で見れば収入アップに繋がる可能性もあります。
(※2)出典:厚生労働省ホームページ (https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/dl/gaikyou.pdf)
異業種への転職を実現させるための4つのポイント
統計に見る異業種への転職の実態や、メリット・デメリットなどもふまえ、異業種への転職を実現させるには次のような点に留意して転職活動を進めることをお勧めします。
1.自分の中で転職理由を整理する
異業種・異業界転職で何よりも大切なのが「そもそもなぜ転職するのか」「今回の転職に何を求めているのか」をしっかりと整理することです。
例えば「クライアントワークは先方のスケジュールに合わせることが多く自分のペースで仕事を進めることが難しいので事業会社に行きたい」「斜陽産業なので成長業界に行きたい」など、今の環境から逃げ出したいという理由であったり、漠然としたイメージで憧れを抱いている理由だったりするケースも見られます。しかし、それだけで異業種・異業界の企業に採用されるのは難しいでしょう。
まず、自身が転職で叶えたいことを明確にし、経験・スキルの棚卸しを通じて「異業種・異業界で何がしたいのか/できるのか」を整理しておくこと、そのうえで、履歴書・職務経歴書を仮に一旦作成し、年収や勤務地などの希望条件の優先順位付けをしておきましょう。
2.求人情報を収集し、活かせる「強み」を整理する
転職理由を整理したら転職サイトなどを活用して、希望する業種・業界で「未経験可」とされている求人情報を収集してみましょう。そして、希望する業種・業界、応募企業から「何が求められているか」を掴み、どのような経験・スキルを活かすことができるかについて、一段解像度を上げて整理します。そのうえで、改めて転職の方向性の検討や、応募書類の見直しを行うとスムーズです。
他方で、異業種・異業界への転職を目指す場合、業種・業界に関する知見が少ないことから相場観が掴みにくく、採用要件を満たしているのかどうかを自分で判断することが難しいかもしれません。そのような場合は、転職エージェントに相談したり、スカウトサービスに登録したりして、どのような企業のどのようなポジションからスカウトが届くか確認するのもお勧めです。
3.複数の企業に応募し、面接対策を丁寧に行う
異業種・異業界転職の場合、希望する職種や採用要件によっては同業界・同業種と比べて書類選考が通りにくい可能性もあります。いくつかの企業の選考を同時に進め、比較・検討して納得度の高い転職先を選ぶためにも、最初から応募企業を絞り込みすぎず、自身が対応できる範囲で複数の企業に応募しておくといいでしょう。
面接での志望動機や自己PRは「なぜ異業種・異業界に移りたいのか」や「業種・業界が変わっても活躍できる能力はあるのか」という点において、企業を納得させるものでなければいけません。業界・企業・仕事について研究し、前職で挙げた成果や、その成果を挙げるためにどのような取り組みを行い、スキルを発揮してきたかについて、具体的なエピソードを交えて語れるように準備しましょう。
また、異業種・異業界に転職する場合、応募企業の担当者が応募者の前職の業界や仕事について十分に知らないことが考えられます。前職の経歴をアピールする際は「仕事の進め方」「どのような課題が発生しどのように対処するのか」「どのような工夫が必要か」といったことも整理して話せるようにしておきましょう。
4.入社前にミッションや労働条件を確認する
選考が進んだ時点で、改めて希望職種の具体的な業務内容とミッション、また、社員が何を大切にして仕事をしているのか、社員の評価基準などについて面接の中で確認することをお勧めします。それにより、入社後に求められる役割や振る舞いをイメージしやすくなるでしょう。
また、内定後は、承諾前に労働条件などをしっかりと確認しておきましょう。業種・業界が異なれば、その業界ならではの慣習があったり、報酬制度や福利厚生なども異なったりするので、「賞与はこのくらいだろう」「入社までの期間はこのくらいあるだろう」と前職の基準で判断しないよう注意が必要です。
異業種・異業界への転職事例
実際に異業種への転職を実現させた人は、どのようなスキル・経験を持ち、何が評価されたのでしょうか。識者が支援した事例を2つ紹介します。
「異業種×異職種」の転職を実現した事例
ゲーム会社で営業職やマーケティング職に従事したのち、コンサルティング会社に転職。IT・Web業界などデジタル領域のコンサルタントとして経験を重ね、マネジャーを務めていた30代。30代のどこかのタイミングでコンサルタントの経験を活かして事業会社の企画職にキャリアチェンジすることを志向していたところ、IT企業のサービス企画部門のマネジャーへの転職が決定した。
【解説】
事業会社とコンサルティング会社の両方の経験があったことと、現職でデジタル領域を担当していてIT業界についての知見があることが評価され、転職が実現した事例です。
「異業種×同職種」の転職を実現した事例
SIerでSEとして勤務したのち、管理部門の業務を志向し教育研修を主事業とする上場準備中の企業に転職。教育・研修、制度設計、労務など採用を除いた人事領域の幅広い経験を重ねて、30代後半から人事課長を務めていた。中長期的なキャリアのステップを考え経営幹部として組織全体をマネジメントすることを志向し転職活動を進めた結果、Webサービスを展開し、数年後の上場を目指すスタートアップの人事部長への転職が決まった。
【解説】
採用の経験はないものの、その他の人事領域の経験が豊富であること、また、現職において上場準備を通じた組織体制の整備(人事制度、労務管理体制、就業規則などの整備)の実務をリードした経験が評価され、転職が実現した事例です。採用したWeb企業は数年内の上場を検討していることから、即戦力として評価されました。
また、初職がSIerでのSEで技術面の理解があったことも、エンジニアの気持ちを理解した上で制度を整備してくれるのではないかというプラスの判断材料になりました。
異業種・異業界転職はスカウトサービスや転職エージェントの活用を
異業種・異業界への転職を希望する方には、転職エージェントやスカウトサービスの利用がお勧めです。自力で求人情報を探していると、どうしても自分の知っている業種や興味のある業界ばかりに目が奪われがちになるもの。しかし、こうした転職サポートを受けることによって新たな適性に気づくことや、それまで思いもしなかった業界の求人情報を提案されて、選択肢が大きく広がる可能性があります。情報収集のためにも登録してみてはいかがでしょうか。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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