異業種への転職のメリット・デメリットと転職を成功に導く4つのポイント

昨今は「成長業界に身を置いて自分も成長したい」「キャリアの幅をもっと広げたい」といった理由で、異業種・異業界への転職を希望する人が増えています。異業種・異業界からの転職者を積極的に受け入れている業界や、異業種・異業界転職のメリット・デメリット、さらに転職を成功させるために考えておきたいポイントを、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏に伺いました。

【アドバイザー】

組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

異業種転職は難しい?データで見る転職事情

異業種転職は多くの人が実現している

一般的に業種・業界を変える転職は、同業へ転職するよりも難易度が高いといわれてきました。現在、業種・業界の垣根を超えて転職をする人は実際にどのくらいいるのでしょうか?

株式会社リクルートが発表している『リクルートエージェント』のデータ(※)によると、2020年度の転職決定者のうち「異業種×異職種」へ転職をした人と「異業種×同職種」へ転職をした人の合計が、全体の約7割にも及びました。特に「異業種×異職種」のいわゆるキャリアチェンジをした人は、2009年の24.2%から2020年は36.1%と約10年間で11.9ポイントも増加し、過去最多となっています。

異業種転職が主流になってきた背景にあるのは、多くの産業や企業がビジネスの変革を目指す時代において、異業種・異職種の人材を積極的に中途採用するようになったこと。また、人生100年時代において、働き手が「終身成長」を望み「業種・職種経験にとらわれず成長機会を提供してくれる産業や企業に移り始めた」と分析しています。

※出典:2021年8月5日『リクルートエージェント』転職決定者データ分析

異業種・異業界からの転職が多い業界と転職例

現在、異業種・異業界からの転職者を多く受け入れる傾向のある業界・企業の例と、最近の異業種・異業界転職の事例をご紹介しましょう。

【異業種・異業界からの転職が多い業界の例】

  • 多様な業界を顧客に持つ、コンサルティング業界や人材業界。事業会社でコンサルタント業務の経験がある人や、顧客に当たる業界で実務経験を積んだ人が採用されることがある。
  • 成長産業であるIT業界(AI、クラウド、フィンテック、IoT)やWeb業界(EC、VR・AR、メディア)。事業拡大に対応するため多くの人材を必要とし、技術職やクリエイティブ職だけでなく、営業職や管理部門のニーズも多い。
  • 転職市場に実務経験者が少ない新サービスや新規産業。宇宙関係企業やスタートアップベンチャーなど。

【異業種・異業界への転職事例】

  • 大手機械メーカーの海外営業→素材ベンチャーの海外事業企画(30代)
  • 大手総合商社の経営企画→IT企業の新規事業企画(40代)
  • コンサルタント会社のデジタルコンサル→小売りのネット事業開発(30代)
  • 金融(生保)経理・管理職→メーカーの経理・IPO準備担当(40代)

異業種・異業界転職に求められる年代別スキル

転職で年代別に求められるスキルは、異業種でも同業種でも基本的には同じです。なぜなら、転職者は企業から「経験・スキルを活かして活躍すること」「定着して働くこと」を期待されており、どのような業種から採用されてもそのことに変わりはないからです。

ただし異業種・異業界への転職では、経験・スキルや実績の伝え方がより重要となります。
仮に同じ職種で転職をするとしても、業種・業界が異なると、商品やサービス、仕事の内容や目的、方法も変わってきます。したがって、経験・スキルについては、これまでの仕事を「いつ」「どこで」「だれと」「何を」「なぜ」「どのように」の5W1Hの観点で整理し、応募企業との接点や共通点を見出して伝えること。実績に関しても、再現性や貢献可能性を、異業界の人にわかるようにかみ砕いて伝えることが大切になります。

20代に求められるスキル

20代は異業種・異業界への転職でも「まだ若く伸び代がある」という観点から、ポテンシャル(基礎学力や素養)やスタンス(仕事に対する価値観や考え方)に注目されます。したがって、まだ十分な実績や専門性がなくても、将来性が評価されて採用されることもあるでしょう。またスキルに関しては、業界や企業を問わず通用する「ポータブルスキル」が求められる傾向があります。

30代に求められるスキル

即戦力性が期待される30代は、ポータブルスキルに加えて、業務を遂行するために欠かせない能力や専門性といった「テクニカルスキル」がより重視されます。例えば営業なら提案力や交渉力、人事なら人事・労務に関する知識などです。加えて、これまでの業務経験が異業種・異業界でどう活かせるかがより問われるようになるでしょう。さらに30代は、少人数の組織に対するリーダーやマネジメント経験も評価のポイントになります。現場の課題を解決する力、考えを発信して周囲を動かす力などが求められるでしょう。

40代に求められるスキル

40代の異業種・異業界転職では、積み重ねてきたスキルや専門性を活かし、新たな価値を創造できるような知見や変革力の発揮を期待されることが多くなります。管理職では、より大きな組織に対するマネジメントの経験が求められ、グループや部門全体など、広い範囲を俯瞰してマネジメントする力が重視されるようになります。さらに経営環境の変化を踏まえて、新しい事業や仕組みを企画・推進する力や、組織風土を変革する力なども求められるようになるでしょう。

異業種・異業界への転職のメリット・デメリット

新たなやりがいや経験・スキルを手にできる

異業種・異業界へ転職するメリットの一つは、現職で実現できない仕事上の希望を叶えられることです。例えば、自社製品を持たない商社やコンサルティングファームから、事業会社へ転職した場合は「自社で製品を開発して売ることで社会に貢献したい」「一つの事業をじっくり育てたい」などの希望を叶えることができるでしょう。「早くから裁量権を持って働きたい」「スピード感を持って仕事がしたい」と希望する方が、ITなどの成長業界へと転職するケースも多く見られます。

また、現代の転職市場においては、複数の企業や部門でさまざまな経験を積んだ人が評価される傾向が見られます。テクノロジーの進化を背景に、多くの企業が新たな価値の創出に取り組む中、複数の領域の知見を持っている人材が求められているからです。前職とはビジネスモデルが異なる業種・業界で働くことで、新たなスキルを身につけ、視野が広がり、ビジネスパーソンとしての価値を高めることができるでしょう。

年収や待遇の変化はケースバイケース

厚生労働省の調査(※)によると、令和2 年(2020年)の転職者全体のうち、前職よりも収入が「増加した」人の割合が34.9%、「減少した」人が 35.9%、「変わらない」人が28.4%。つまり年収が上がる人と下がる人の割合はだいたい3割強で、それ以外の人が現状維持となり、転職による年収のアップ・ダウンはまさにケースバイケースであると言えます。

一般的に「未経験領域」への転職はキャリアのリセットとなるため、入社当初は年収が下がることもあります。ただ、職種の専門性を活かして、前職より年収水準が高い業種・業界に転職した場合は、年収アップを狙うこともできるでしょう。また、前職より成長性のある業界に転職した場合、一時的に年収が下がったとしても結果を出し続けることで、長い目で見れば収入アップに繋がる可能性もあります。

※出典:厚生労働省 令和2年雇用動向調査 「転職入職者の賃金変動状況別割合」

入社後にミスマッチが起きる可能性もある

どんな転職でも「社風や仕事内容が合わなかった」というミスマッチの可能性はあるものですが、特に異業種・異業界転職の難しさは、業界によって常識がまったく異なることです。たとえ同じ職種であっても、業界が変わり、扱う商材が変われば、担当範囲やチームとして働く人たちの人数、仕事に対する評価軸など、多くのことが異なります。社内で使用される用語や仕事のスピード感なども一変するため、前職のやり方で仕事をしても、なかなか結果が出ないというケースも少なくありません。
異業種・異業界転職をする際は、前職の仕事の進め方や成功体験に固執するのをやめ、一旦リセットして新しく学び直す「アンラーニング」を意識することが大切です。

異業種への転職を成功させるための4つのポイント

1.自分の中で転職理由を整理する

異業種・異業界転職で何よりも大切なのが「そもそもなぜ転職するのか」「今回の転職に何を求めているのか」をしっかり整理することです。

例えば「クライアントワークは対応が大変なので事業会社に行きたい」「斜陽産業なので成長業界に行きたい」など、単に今の環境から逃げ出したいだけだったり、漠然とイメージで憧れていたりすることもありがちです。しかし、それだけで異業種・異業界の企業に採用されるのは難しいでしょう。まず、自分が転職で叶えたいことは何かを明確にし、経験・スキルの棚卸しを通じて「異業種・異業界で何がしたいのか/できるのか」を整理しておくこと。そのうえで、履歴書・職務経歴書を仮に一旦作成し、年収や勤務地などの希望条件の優先順位付けをしておきましょう。

2.求人情報を収集し、活かせる「強み」を整理する

転職理由の整理を行い、切り口や方向性を仮決めしたら、転職サイトなどを利用して、希望する業種・業界で「未経験可」とされている求人情報を収集してみましょう。希望する業種・業界、応募企業から「何が求められているか」を掴み、どのような経験・スキルが活かせるかについて、一段解像度を上げて整理。そのうえで改めて転職の方向性の検討や、書類の見直しを行うとスムーズです。

しかしながら異業種・異業界への転職を目指す場合、業種・業界に関する知見が少ないことから相場観が掴みにくく、採用要件を満たしているのかどうか自分では判断が難しいかもしれません。そのような場合は、転職エージェントに相談したり、スカウトサービスに登録して、どのような企業のどのようなポジションからスカウトが届くか確認したりするのもお勧めです。

3.複数の企業に応募し、面接対策を丁寧に行う

異業種・異業界転職の場合、希望する職種や採用要件によっては書類選考が通りにくい可能性もあります。いくつかの企業の選考を同時に進め、比較検討して納得度の高い転職先を選ぶためにも、最初から応募企業を絞り込みすぎず、複数社に応募しておくといいでしょう。

面接での志望動機や自己PRは「なぜ異業種・異業界に移りたいのか」や「業種・業界が変わっても活躍できる能力がある」という点において、企業を納得させるものでなければいけません。業界・企業・仕事について研究し、前職で挙げた成果、その成果を挙げるためにどんな取り組みを行い、スキルを発揮してきたか、具体的なエピソードを交えて語れるように準備しましょう。

また、異業種・異業界に転職する場合、応募企業の担当者も応募者の前職の業界や仕事についてよく知らないことが考えられます。前職の経歴をアピールする際は「仕事の進め方」「どんな課題が発生しどう対処するか」「どんな工夫が必要か」といったことも整理して話せるようにしておきましょう。

4.入社前にミッションや労働条件を確認する

選考が進んだ時点で、改めて希望職種の具体的な業務内容とミッション、加えて社員が何を大切にして仕事をしているのか、何が評価されるのかを面接の中で確認することをお勧めします。それにより、入社後に求められる役割や振る舞いをイメージしやすくなるでしょう。
また、内定したら、入社前に労働条件や入社日等をしっかり確認しておくことが大切です。業種・業界が異なれば、その業界ならではの慣習があったり、報酬制度や福利厚生なども異なったりするので、「賞与はこのくらいだろう」「入社までの期間はこのくらいあるだろう」と前職の基準で判断しないよう注意が必要です。

異業種・異業界転職はスカウトサービスや転職エージェントの活用を

異業種・異業界への転職を希望する方には、転職エージェントやスカウトサービスの利用がお勧めです。自力で求人情報を探していると、どうしても自分の知っている業種や興味のある業界ばかりに目が奪われがちになるもの。しかし、こうした転職サポートを受けることによって新たな適性に気づくことや、それまで思いもしなかった業界の求人情報を提案されて、選択肢が大きく広がる可能性があります。情報収集のためにも登録してみてはいかがでしょうか。