【社労士監修】転職する前に知っておきたい退職金制度(退職一時金・退職年金)

退職する際に、企業から給付されるのが「退職金」です。有給休暇などと異なり、退職金は法で定められているわけではないので、企業によって給付の有無や算定基準が異なります。退職後のライフプランに大きく影響する制度のため、退職前にしっかりと理解しておくことが大切です。そこで今回は、転職する前に知っておきたい退職金制度の仕組みと注意点について詳しく解説します。

退職金制度とは?

そもそも退職金制度とは、どのような仕組みの制度なのでしょうか。退職金制度の仕組みや種類について詳しく解説します。

退職金がない企業が全体の約2割

退職金制度(退職給付制度)とは、会社を退職する際、雇用主から従業員に支給される金銭のことです。定められた期間働くことによって給付を受けられるものですが、民間企業の場合、必ずしも退職金制度を設けなければならないという法的な義務はありません。

厚生労働省による調査「平成30年就労条件総合調査(※)」によれば、退職給付制度を設けている企業は全体の80.5%、設けていない企業は19.5%で、およそ2割の会社は制度がありませんでした。

退職給付(一時金・年金)制度の有無、退職給付制度の形態

退職給付(一時金・年金)制度の有無、退職給付制度の形態に関するグラフ

※「平成30年就労条件総合調査」17表
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/dl/gaiyou03.pdf 

退職給付制度には、一時金としてまとめて金銭が支払われる「退職一時金制度」と、年金として分割で支給される「退職年金制度」の2種類があります。調査では、「退職一時金制度」のみある企業が73.3%、「退職年金制度」のみある企業は8.6%、両方の制度を併用する企業は18.1%でした。

退職一時金制度

退職一時金制度とは、勤続年数や役職などによって定められた退職金を一括で受け取る制度のことです。退職金の原資を積み立てて支給する仕組みになっており、勤続年数が短い場合には支給されない可能性もあります。勤続年数に応じて退職所得控除の対象となります。

退職年金制度

退職年金制度とは、勤続年数や役職などによって定められた退職金を、一括で受け取るのではなく、年金方式によって分割で受け取る制度のことです。支給額は公的年金などと合算し、公的年金等控除の対象となります。

退職金の金額の目安は?

退職金制度を考えるうえで、最も気になるのはその支給額です。退職後のライフプランにも大きく影響してくるだけに、おおよその目安を事前に把握しておくことはとても重要です。

厚生労働省の調査「平成30年就労条件総合調査(※)」によれば、平成29年1年間における勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者に対して支給された平均退職給付額は、大学・大学院卒の場合、「退職一時金制度のみ」が1,678万円、「退職年金制度のみ」が1,828万円、「両制度併用」が2,357万円となっています。

退職給付(一時金・年金)制度の形態別定年退職者1人平均退職給付額
(勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者)

退職給付(一時金・年金)制度の形態別定年退職者1人平均退職給付額に関する表

退職一時金はいつ支払われる?

退職金の支払い時期は、社内で独自に準備している場合は、企業によってさまざまですが、退職から1~2カ月程度が目安となります。ただ、なかには半年ほどかかる企業もあるので、住宅ローンの返済や起業資金に充てるなど、退職一時金を退職してすぐに使用することを想定しているのであれば、あらかじめ就業規則を確認し、どのタイミングで入金されるのかを把握しておきましょう。

なお、中小企業退職金共済制度の場合は、請求を受けてからおおむね4週間程度となります。ただし、退職月までの掛け金の入金確認を終えてからの支払いになるため、企業の掛け金の納付状況によっては、請求から2カ月以上かかるケースも考えられます。

転職は退職金の金額に影響がある?

転職すると退職金にどのような影響が出るのでしょうか。退職を決断する前に押さえておきたい注意点について詳しく解説します。

自己都合で転職を繰り返すと退職金が減る可能性がある

退職金制度は、原資となる金銭を積み立て支払う制度のため、長く働き続ければ、その分得られる退職金が増えることになります。企業によっては一定期間に達しないと支給されないケースもあるので要注意です。

厚生労働省の調査「平成30年就労条件総合調査(※)」を見てみると、自己都合に比べて、会社都合による退職や早期優遇退職の方が、支給額が高くなる傾向にあります。平成29年1年間における大卒・大学院卒のケースで、平均退職給付額は「自己都合」は1,519万円、「会社都合」は2,156万円、「早期優遇」は2,326万円となっています。

退職者1人平均退職給付額(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者)

退職者1人平均退職給付額に関する表

注:
1) 「退職給付額」は、退職一時金制度のみの場合は退職一時金額、退職年金制度のみの場合は年金現価額、退職一時金制度と退職年金制度併用の場合は、退職一時金額と年金現価額の計である。
2) 「月収換算」は、退職時の所定内賃金に対する退職給付額割合である。

※「平成30年就労条件総合調査」23表
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/dl/gaiyou04.pdf

ただ、金額にどれくらいの違いが出るのかは、その企業や制度によって異なりますので、気になる人は就業規則をチェックしてみましょう。

転職は退職金だけでなく生涯賃金で考えよう

統計をご紹介しましたが、退職金の平均額はおおむね2,000万円前後です。かなり大きな金額になるため、転職を考える際には、会社の制度を改めて確認し、勤続年数なども含めて有利な条件を検討することが重要です。

その一方で、退職金の金額だけに目を奪われ、転職に二の足を踏んでしまうのはもったいないかもしれません。早々に年収アップを考えた方が、結果的に生涯賃金で得をするケースも少なくないからです。例えば、下記の計算式のように、年収が低い企業で40年間働いた結果として2,000万円の退職金を得るよりも、30・40代で転職して年収を増やした方が、大幅に生涯賃金が増えるといったことも十分に考えられます。

<年収500万円で40年間働き続けたケース>
平均500万円×40年+退職金2,000万円=2億2,000万円

<勤続15年で転職して年収が800万円にアップしたケース>
平均500万円×15年+平均800万円×25年+退職金1,000万円=2億8,500万円

※どちらも転職による空白期間や賞与減少、税制などを考えない概算です

また、転職をすることで仕事の充実度を高めたり、新たに培うスキルや経験を活かして60~70代以降も活躍できる選択肢を得たりと、収入面だけではないメリットが得られる可能性もあります。

転職しても持ち運びができる退職金・年金制度

退職金制度のなかには、転職先へと持ち運びができるものもあります。ここでは、持ち運びができる退職金・年金制度について詳しく解説します。

中小企業退職金共済制度

中小企業退職金共済制度の加入企業から、同じく加入企業へ転職した場合、退職金を引き継ぐことは可能です。その条件は、前職の企業で退職金を請求せずに転職先の企業で加入し、前職を退職してから2年以内に通算を申し出ることです。前職の企業での掛金納付実績をそのまま転職先の企業の契約に通算し引き継ぐことができます。

しかし実際は、転職先の退職金規程で「入社5年経過後に退職金制度加入」などと決まっていて、すぐに加入できない場合も多いため、前職企業を退職するときに退職金を受け取る人がほとんどです。

特定退職金共済制度

中小企業退職金共済制度と同じように、制度に加入する会社を退職した後、同じ制度を利用している企業に転職した場合には、通算を申し出れば、退職金を引き継ぐことができます。

確定給付年金

確定給付企業年金(DB)を実施している企業を退職し、企業型確定拠出年金(企業型DC)を行う企業に転職した場合には、確定給付企業年金から支給される「脱退一時金」を、企業型確定拠出年金に移換することができます。

ただ、移換できるのは、あくまで「脱退一時金」のみです。企業から支給される「退職一時金」を、転職先の企業型確定拠出年金や、退職後に加入する個人型確定拠出年金(iDeCo)に移換することはできません。

企業型確定拠出年金

老後資産を形成するための年金制度であるため、転職先となる会社の企業年金の実施状況に応じて、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金、個人型確定拠出年金などに移換することになります。

退職金に税金はかかる? 確定申告は必要?

退職金は、勤務先に所定の手続をしておけば、源泉徴収で手続きが完了するため、原則として確定申告をする必要はありません。

通常、支払いを受けるときに所得税・復興特別所得税、住民税が徴収されますが、一時金として受け取る場合には、勤続年数に応じた「退職所得控除」を受けることができます。ただし、勤続年数が20年以下か20年超かで控除額の計算式が変わるので注意しましょう。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超800万円+70万円×(勤続年数-20年)
リクルートダイレクトスカウトは、リクルートが運営する会員制転職スカウトサービスです。リクルートの求職活動支援サービス共通の『レジュメ』を作成すると、企業や転職エージェントからあなたに合うスカウトを受け取ることができます。レジュメは経験やスキル、希望条件に関する質問に答えるだけで簡単に作成可能です。一度登録してみてはいかがでしょうか。

社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。