エグゼクティブ転職を実現させる秘訣と、転職エージェント&スカウトサービスの活用法

ミーティングの風景

終身雇用が一般的だった時代は、経営幹部クラスの人材が他社に移るケースは決して多くありませんでした。しかし、事業の多角化・グローバル化が進んだ現代、経験豊富で高いスキルを有したエグゼクティブ人材を外部から迎え入れる企業は増えています。エグゼクティブ転職の特徴や、転職支援サービスの活用法、エグゼクティブ転職を実現する方法を、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏に伺いました。

エグゼクティブの転職は難しい?転職市場の最新動向

近年のエグゼクティブ転職の動向について解説します。

エグゼクティブの転職市場は活性化している

新型コロナウイルス流行の影響を受けて一時減少した転職者数も、2022年から再び増加に転じる中、ハイクラス・エグゼクティブ層の転職も増加する傾向にあります。

背景には、ビジネスのグローバル化、M&Aによる事業の多角化、社運を懸けた新規事業の立ち上げなど、経営的な視点を持って業務を遂行できる人材のニーズが高まっていることがあります。市場の構造変化が加速する中で、エグゼクティブ層の採用に踏み切る企業は増加傾向にあるようです。

エグゼクティブ転職の実態としては、外資系投資銀行の出身者が他の企業でCFOとして迎えられるなど、専門性を活かした異業種・職種への転職、国内企業から外資系企業への経営幹部としての転職やその逆のパターン、海外拠点責任者への転職、大都市圏から地方の地場企業の経営幹部への転職など、さまざまなケースがあります。

企業が求めるエグゼクティブ人材

エグゼクティブ層の転職では、企業が求める人材と、転職を希望するエグゼクティブ層の希望条件のマッチングが、他のポストに比べてより重要になるでしょう。

エグゼクティブの採用に要する費用は決して安くはなく、また選考に数か月〜1年を要することも少なくありません。万が一採用した人材が、期待していたパフォーマンスを発揮できなかった場合の金銭的・時間的ロスの大きさを考慮すると、採用に対しては非常に慎重にならざるをえません。

企業が求めるエグゼクティブは、「経営的な視点を持って業務を管理、遂行できる」とともに、「会社のビジョンをよく理解し、社風にもマッチする」人材である必要があります。
経営的な視点で大切なことは、「事業計画」や「数字」を作れることを大前提として、「高い問題解決能力」など、突出したスキルも求められます。国内企業の場合は、トップと社員の中間に立って組織をまとめてゆくスキルも求められる傾向にあります。

また、日本の中小企業は、業種を問わず深刻な後継者不足が続いており、その中で「社長後継者」としてのエグゼクティブ層への求人も増えています。このように、エグゼクティブ転職の市場は、幅広い領域に拡大しているといえるでしょう。

エグゼクティブの転職活動の特徴

エグゼクティブ転職の特徴について解説します。

求人数は一般に比べて少ない

企業のトップクラスであるエグゼクティブ層のポジションは、他の社員に対して非常に少ないため、当然、求人数も限られます。多くのライバルが応募する狭き門となるため、転職活動が長期化することもあります。

求人の多くは非公開求人

エグゼクティブ層の求人は候補者が厳選されるため、誰でも閲覧できる転職サイトなどに情報が公開されることはあまりありません。エグゼクティブ求人を主に扱う転職サービスか、ヘッドハンティングやリファラル採用などのダイレクトリクルーティングによって、非公開に採用活動が行われるのが一般的です。

風土・文化とのマッチングが重視される

経営層や責任者のポストは組織に及ぼす影響が大きいため、業務遂行に必要な経験・スキルと同等に、社風や文化に馴染めることが重視されます。求職者としても、転職後の早い段階で結果を求められることから、自身が活躍しやすい社風の企業を選ぶことは大切です。

エグゼクティブ層の転職には、転職エージェントやスカウトサービスが有効

エグゼクティブ層の場合、「すぐ転職したい」と思ったタイミングで希望に合う求人があるとは限りません。また、ほとんどが非公開求人のため、個人で情報収集するのも難しいもの。そのため、今すぐの転職を考えていないうちから転職エージェントやスカウトサービスに登録し、転職支援のプロや企業と繋がりを持って、定期的に情報交換することも有効です。

転職エージェントとスカウトサービスの選び方・使い方

エグゼクティブ転職に活用できる転職エージェントとスカウトサービスについて、選び方や使い方を解説します。

それぞれのサービスの特徴とおすすめのケース

「転職エージェント」は、担当キャリアアドバイザーが求職者の経験・スキルや希望条件を聞き、合致する求人案件を紹介するサービスです。加えて、転職市場の動向や、「経験・スキルの棚卸し」を通じた転職市場価値の確認、キャリアの方向性の提案、面接の日程調整、選考対策など、転職活動に関するさまざまなサポートを受けることができます。

キャリアの方向性から相談できることで、これまで全く視野に入れていなかった業界への転職など、自身だけではなかなか出会うことのできない企業と出会える可能性もあります。また、情報収集や、応募企業との日程調整、問い合わせなども代行してもらえるため、多忙で転職活動の負担をできるだけ軽くしたいという方には、転職エージェントの利用がおすすめです。

一方、「スカウトサービス」とは、サイト上に自身の基本情報や職歴、希望条件などを登録しておくと、興味を持った企業や転職エージェントから直接スカウトメールが来るサービスです。キャリアアドバイザーを介さず、企業から直接スカウトを受けられることや、業界・職種の専門性や実績に合致した案件に絞って検討できることから、チャンスを逃さず、自分のペースで転職活動をしたいと考えている方におすすめできるでしょう。

転職エージェントの選び方と活用のポイント

転職エージェントは大きく「総合型」と「特化型」に分類できます。
「総合型」とは、幅広い業界・職種や年代・ポストの案件を総合的に扱う転職エージェント。「特化型」とは、業界(IT、金融など)、職種(エンジニア、コンサルタントなど)、勤務地域、求職者の属性(第二新卒、ハイクラス層など)といった特定分野の求人を扱う転職エージェントを指します。

エグゼクティブ転職は全体の求人数自体が少なく、転職エージェント1社あたりが保有する該当案件も多くはないため、ハイクラス・エグゼクティブ層に強い特化型転職エージェントと、総保有案件の多い大手の総合型転職エージェントを数社ずつ併用し、選択肢を増やすことも一案です。

転職エージェントを選ぶ時は、エグゼクティブ層の転職支援実績に注目しましょう。会社ベースよりも、担当アドバイザーのプロフィールなどを参考に、自分との相性や実績、業界・職種の知見や企業理解、企業の経営層とのパイプを持っているかなどを基準に選択すると良いでしょう。

メインで利用する転職エージェントが決まったら、中長期スパンで担当アドバイザーと定期的にコンタクトを取り、自分の経験・スキルや希望、熱意をしっかり伝えることが大切です。それによって、よりマッチ度の高い求人を紹介してもらえるようになるでしょう。

スカウトサービスの選び方と活用のポイント

スカウトサービスも「総合型」や「特化型」がありますが、エグゼクティブに特化していないサービスの場合は、なかなか希望通りのスカウトを受けるのが難しい可能性があります。自身の希望に合うように、ハイクラス・エグゼクティブ層に特化したサービスを利用するようにしましょう。

スカウトサービスは、登録内容をもとにスカウトが来るため、職歴、職務内容、経験・スキル・資格、実績、希望条件といった登録情報を充実させることがポイントです。
実際にスカウトがあった場合、転職の軸や希望条件から大きく外れていないものや、興味関心があるものに関しては、まずは積極的にコンタクトをとってみることをおすすめします。直接会って話を聞くことで、スカウトサービスや求人情報などでは開示されていない事業戦略などの情報が得られ、転職先の候補となるかもしれません。

転職エージェントとスカウトサービスの併用もおすすめ

エグゼクティブ層の採用方法は、企業によってさまざまです。転職エージェントのみを利用する場合や、スカウトサービスのみを利用する場合、また、両方を併用して採用活動を行う場合もあるでしょう。従って、自身と合致する求人との出会いを増やし、選択肢を広げるためには、複数の転職エージェントとスカウトサービスに登録して、それぞれの良さを活かしながら転職活動を進めることも有効です。

エグゼクティブ転職を実現するための心構え

エグゼクティブ転職をするための心構えや、注意点について解説します。

転職の目的と優先順位を明確化しておく

エグゼクティブ転職は、自身の経験・スキル・実績に合致する求人そのものが多くはないため、「あれもこれも叶えたい」と考えると、応募できる案件がなくなる可能性があります。また、好条件の求人には、当然ながら強力なライバルも多いものです。

従って、「キャリア構築」「給与」「役職」「仕事の内容」「就労時間」「福利厚生」「会社の将来性」といった転職目的と求める条件を整理し、「譲れないこと」と「ある程度妥協できること」の優先順位を明確にすることが非常に重要です。「短期的に年収は下がるが、今後のキャリアを考えると、ゼロから事業を作る経験は魅力」といった判断ができれば、選択肢はより広がるでしょう。

キャリアの棚卸しを行い、自身の強みを明確化する

企業がエグゼクティブ層を中途採用する場合、新規事業の開発、DX推進、IPO準備など、目的が明確で、かつ、求める成果の水準が高くなります。エントリーするライバルも、ハイレベルな人材揃いになるでしょう。

その中で高評価を得て、転職を実現させるには、「キャリアの棚卸し」をしっかり行い、経験した職種・職務・実績を明確にし、自身の価値や強みを整理しておくことが必要です。
それにより転職先探しの段階では、自身の強みを発揮して活躍できる求人案件に狙いを定めることができます。また選考においても、応募企業の課題や事業方針に対して「○○の経験を活かし、具体的にこういう貢献ができる」という、効果的なアピールにつなげることができるでしょう。

理念や価値観の共有ができるか考える

年収や役職の高いエグゼクティブ層は、転職後の早い段階で、目に見える成果を求められるのが一般的です。その際に、経験・スキルのマッチングだけで転職を決めていると、入社後にギャップを感じ、本来の力を発揮することが難しくなるかもしれません。

転職先を決める際は、過去の経験スキル・実績を活かせるだけではなく、その企業が掲げる「理念」「ミッション・ビジョン・バリュー」などに自分がコミットできるか、したいと思えるか、既存の経営陣との相性はどうか、上司や部下と同じ目線で協業できるかどうかなどを良く考えてみましょう。

求められている成果やレベルを確認する

エグゼクティブ人材として中途入社する場合、早期で成果が出なければポジションを退かなければならなくなる可能性もあります。従って、面接の段階で、求められる成果の内容、レベル、いつまでに成果を出す必要があるかという期限などを確認し、そのミッションが自分に挑戦可能かを判断すること。その上で企業との目線合わせをしておくことが大事です。
その判断が曖昧だと、目標に未達のまま終わって評価が下がり、再度転職を検討することになるかもしれません。

また、「成長フェーズでの営業組織作りを実現した」「財務として大型の資金調達を実施した」「IPO前後の内部管理体制を盤石にした」といったミッション達成がしっかりできていれば、仮に今後再び転職をしたとしても、自身の市場価値は上がり、次のステップにも進みやすくなるでしょう。

粟野友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

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