【経営ボードの転職】No.1ヘッドハンターに聞く年収・キャリア形成・最新動向

リクルートダイレクトスカウトが提携する約3,700名のヘッドハンターの中から、経営ボードのハイクラス(年収800万円以上)転職決定人数部門ランキングで2021年にNo.1を獲得したヘッドハンター、キャリアインキュベーションの赤池辰介氏にインタビュー。経営ボードの最新転職動向とともに年収やキャリアのポイントについて伺いました。最近担当されたケースで高年収や満足度の高い転職をかなえた事例もご紹介します。

【経営ボードの転職トレンド】さらなる成長を目指す企業が、事業変革を任せられる経営層を採用する動きが目立つ

CEO、COO、CFO、CIOなど経営ボードクラスを中心として、エグゼクティブ層の案件を専門に扱っています。特に、PE(プライベートエクイティ)ファンドが投資をした事業会社のボードメンバーや、マネジメント職以上のポジションの採用に強みを持っています。

一般的にいえば、一昔前までは経営者や経営ボードメンバーが外部の人材によって代わる機会はそうありませんでした。しかし近年は、事業環境の激変によって経営に窮した企業、もしくは停滞した状況からさらなる成長を目指す企業を中心に、ファンド経由で外部から経営層を獲得する動きが目立っています。経験豊富なプロフェッショナル人材を招き入れることで新しい風を吹き込み、改革を推進してほしいというニーズが増えてきているといえます。

いまは先の見えづらい時代。たとえ足元の業績は堅調でも、変革し続けないと会社が立ち行かなくなると危機感を持っている企業は多く、経営を任せることができるハイクラス人材の採用意欲も旺盛。経営ボードクラスの人材流動性も徐々に高まっていると感じます。

【転職市場の今後の見通し】再建・成長企業へのファンド投資額拡大とともに、経営ボード採用も引き続き堅調が続く

赤池辰介氏

環境の変化に合わせた事業変革は、今やすべての企業の課題であり、先頭に立って変革を推進する経営ボードの採用ニーズは今後も堅調な動きが続くと見られます。
加えて、バイアウトを目的としたファンドの投資額は年々拡大しており、組成されているファンド数自体も増加しています。ファンド経由の経営者や経営ボード採用も、今後も増えると予想されます。

ファンド投資先企業への人材に求められるのは「実績」。自らの手で事業を建て直し、成果を上げてきた実績があれば、投資先企業でも再現してくれそうだと評価できます。後述しますが、近年増えつつある「プロ経営者」に注目し、採用するケースもさらに増えると見られます。

【決定年収の傾向】市場動向に合わせ、経験・スキルを適正に評価する企業が多い

決定年収自体には、大きな変化は見られません。全体の平均的な年収額が増えていったり、それによって現年収から大幅に上乗せして採用してくれるというケースはあまりありません。転職市場の動向や自社の台所事情に合わせ、現実的な報酬を用意する企業が多いと感じます。

ただ、経営ボードとして必要な経験を十分に積み、かつ自社の課題にベストフィットしたスキルを持っている人に対しては現年収に加えて手当や賞与などプラスアルファを提示するケースもあり得ます。

【企業が求める人材像とキャリアのポイント】経営を生業とするプロフェッショナル人材「プロ経営者」への関心が高まる

どんな業態の企業にも必要とされる経営という業務。多くの企業がその担い手となる経営者に確かな「実績」を求める中で、最近特に関心が高まっているのがいわゆる「プロ経営者」です。海外では、経営スキルを武器にさまざまな企業を渡り歩くプロ経営者は多いですが、日本ではまだまだ少ないのが現状。しかし近年、日本でもプロ経営者を志す人が少しずつ増えてきています。

「プロ経営者」と「起業家」はともすれば似たような意味で解釈されるワードですが、実は全く異なります。
起業家の多くは「経営者になりたい」わけではなく、世に出したい商品やサービスがあり、それを実現するために経営者になりますが、プロ経営者は企業経営そのものにやりがいを見出し、それを生業とするために経験を積んでいます。そのような意欲ある人材に注目し、採用しようとする動きが高まりつつあります。

【求職者側の動き】事業責任者クラスの人材が、次のステップとして経営ボードを目指すケースが増加

赤池辰介氏

最近目立っているのは、事業責任者クラスの30代から40代の動き。経営に近い責任あるポジションで経験を積み、脂ののった年代が、次のステップとして経営層を目指すケースが増えています。自身の裁量で、事業ではなく会社そのものを動かしてみたい、変革を求める会社で力を発揮したいと考える人が多いようです。

一方、そういった意欲ある人材を、経営者候補として採用し、現場で「プロ経営者」として育てようと考えるファンドも現れています。プロ経営者を目指す人にとって大きな課題になるのは、「最初の経営経験をどこで積むか」ということ。経営経験を持たない人が経営ボードメンバーとして採用されるのは難易度が高いことですが、ファンドとの協力関係の下、投資先企業において「経営者候補」として参画し、現場経験を積んでもらうという事例も出てきました。例えば大企業で事業責任者を経験した人に、その事業と同規模の中堅・中小企業の経営を任せるというケースもあります。

経営ボードの高年収&満足度の高い事例TOP3を紹介

経営不振などを理由に事業変革を図りたいと考える企業が、自社の課題に合った経験を持つ人材を厚待遇で迎え入れるケースが見られます。実際の事例を紹介します。

【Case1:40代後半】CEO経験のあるプロ経営者が、ファンド投資先企業のCEOに転職、年収2000万円+業績連動ボーナス付与

経営不振に陥っていた旅行関連の会社でCEOを任されていたAさん(40代後半・男性)。一通り事業改革を行い業績も上向いたことから、次なるステージに移りたいと転職を希望されていました。

そんなAさんにご紹介したのは、あるファンドの投資先である人材関連会社。同社はオーナー企業で、ファンドの手ほどきのもと新たな経営者への代替わりを検討されていました。経験やスキルはもちろん「オーナーのお眼鏡にかなうかどうか」が重要なポイントでしたが、オーナーもファンドも、企業変革のタフな現場で経験を積んだAさんの手腕を高く評価。Aさん自身も、新たな分野で力を発揮できる点に魅力を感じ、CEOとしての入社が決まりました。

年収は約2000万円から、2000万円+業績連動ボーナスに。業績が良ければ、最高で4000万円まで増える可能性があり、新しい環境でモチベーション高く事業改革に取り組んでおられます。

【Case2:40代前半】経営不振にあえぐ地方企業に、執行役員として転職。年収1500万円→1800万円に

ある通販会社でCOO(最高執行責任者)を務めていたBさん(40代前半・男性)。経営企画や事業企画、マーケティングなど、あらゆる業務を任されており、会社にとっては「なくてはならない人」でしたが、Bさん自身は「経営陣が一致団結しようとしない。皆で協力し戦略を練れば事業改革も可能なのに、踏み出そうとしない」ことに不満を感じ、転職を希望されていました。

Bさんにご紹介したのは、通販をメイン販路としたプロダクト開発メーカー。業績不振に陥っており、経営スキルがあり経験値も高い人材を経営ボードとして採用したいと考えていました。同社は本州外にあり、転職が決まれば東京を離れることになりますが、経営の現場での全方位的な経験が活かせるとともに、通販に関する知識も役立てられることに魅力を感じ、転職を希望。企業側も「Bさんであれば自社を正しい方向に修正し、変革を推進してくれる」と期待し、マッチングが実現しました。

転職先では執行役員の職に就き、年収は1500万円から1800万円にアップ。Bさんを高く評価し、どうしてもBさんに来てほしいという企業側の期待感から、高年収待遇となりました。

【Case3:50代前半】さまざまな企業の業務改善を手掛けた経験をもとに、高コスト体質企業の改革に乗り出す。年収も100万円アップ

自動車メーカーで工場の立ち上げなどに関わった後、大手EC企業の物流部門でオペレーションの改善などを手掛けた経験のあるCさん(50代前半・男性)。直近では、ファンドが出資するある小売業に業務変革担当として入社したものの、1年間のミッションの予定がわずか3カ月で建て直しを完了。「このままこの会社に居続けてもやれることはもうない」と、新たな環境に移ろうと考えられていました。

そんなCさんにご紹介したのは、同じくファンド出資企業である機材レンタル会社。元々はオーナー企業でコスト管理を重要視しておらず、オペレーションも非効率で利益が出にくい体質でした。「同社でデジタル化を推進してコストの見える化を行い、利益を出せる体質に変えてほしい」との要望に、これまでの経験がフルに活かせると転職を決意。執行役員としての入社が決まりました。年収も1200万円から1300万円にアップしています。

【経営ボードのハイクラス転職のポイント】自身の経験・スキルを棚卸しし、自身の強みを必要とする企業を探すことが重要

経営ボードとしての転職を検討されている時点で、すでにハイクラスの方であると想定してお話をします。ハイクラス人材としてさらなるステップアップを目指す場合は、改めて自身の経験を振り返り、スキルの棚卸しを行うことが重要です。
自分自身にどんな強みがあり、経営ボードとして何ができるのかを洗い出したうえで、その強みを必要としてくれる企業を探すことで、将来的に年収もポジションも上げることが可能になります。

中には転職時点で、現職からの大幅な年収アップを目指す人も少なくないと思いますが、年収を上げることばかりにこだわらないほうがいいでしょう。企業は、ポジションや来てほしい人材の層に合わせて想定年収を設定し、選考によって経験やスキルを評価、現年収などを考慮して、その企業に適正な年収額をオファー時点で提示します。現職の年収が相対的に低すぎた場合、もしくはその人材が他企業に取られないようどうしても来てほしい場合などには想定を超えた提示額もあり得ますが、基本は現年収維持で相応に評価されていると考えて良いでしょう。もし転職をとおして年収アップを実現したいのであれば、入ってから実績を積んで順当にプロモーション(昇進)できる余地のある企業を選ぶか、今の環境でさらにスキルを磨き、ステップアップをある程度実現してから、転職に臨んだほうがいいでしょう。経営ボードとしてのひととおりの経験を現職でも積むことができるのであれば、転職によって高く買ってくれる企業も現れるはずです。

経営ボードの採用は大きな波があるわけではなく、あるのはタイミングだけなので、無理に転職を急ぐ必要はありません。自身の経験が最大限活かせる求人案件を待つのも一つの方法。我々転職エージェントがスキルアップのサポートを行いつつ、経験・スキルや志向に合った求人を見極めご紹介することも可能ですので、ぜひ有効に活用いただければと思います。

赤池辰介氏

キャリアインキュベーション株式会社 ディレクター

大手SIerの営業職にて金融、マーケティング、コーポレート業務(総務、人事、経理)におけるセールスを担当。その後大手事業会社にて人事領域におけるIT戦略の立案、導入を経験。組織の成功要因は人であることに着目、人材業界への転身を決意しキャリアインキュベーションへ参画。

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