会社を辞めて離職したとき、ハローワークで雇用保険の基本手当(失業保険)の申請をするのに必要となるのが離職票。退職後に自宅宛てに郵送されるか、メールで送られてくるのが一般的ですが、なかなか届かずに気を揉んでしまうケースもあるようです。その場合、どのような原因が考えられるのか、どのように対処したらいいのかを、社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。
離職票とは
最初に、離職票とはどのような書類で、どのような手続きで必要になるかを解説します。
雇用保険の受給に必要な書類
離職票とは、会社を辞めて離職したことを証明する書類で、正式には「雇用保険被保険者離職票」といいます。ハローワークで雇用保険の基本手当(失業保険)を申請したり、国民年金の保険料免除申請や、雇用保険の教育訓練給付制度を利用したりするときに必要なものです。
離職票には下記の2種類の書類があります。「雇用保険被保険者離職票-1」は、ハローワークに来所したときに、退職者本人が雇用保険の基本手当(失業保険)の振込先情報などを記入するものです。「雇用保険被保険者離職票-2」には、前の会社がハローワークに提出した過去2年間の出勤情報、退職前6カ月の賃金支払い情報、退職理由が記載され、それらを元に雇用保険の基本手当(失業保険)の日額や、給付日数が決定されます。
見本:雇用保険被保険者離職票-1
見本:雇用保険被保険者離職票-2
※出典:ハローワークインターネットサービス「雇用保険の具体的な続き」
離職票発行までの流れ
雇用保険法では、社員が退職した日の翌々日から10日以内に、会社はハローワークへ「被保険者資格喪失届」と「被保険者離職証明書」を提出することになっています。その後、ハローワークが離職票を発行して会社に返送。さらに会社から本人へと郵送、もしくはメールで送られるため、通常は退職して2週間ほどで手元に届くことが多いでしょう。
ただし、時短勤務や短期雇用などで、そもそも雇用保険に加入していなければ、離職票も発行されることはありません。雇用保険に加入していることは、「雇用保険被保険者証」をもらっているかどうか、もしくは給与明細で雇用保険料が天引きされているかどうかで確認できます。
手続きが遅れると受給も後ろ倒しに
雇用保険の基本手当(失業保険)を受給するには、住所を管轄するハローワークに離職票を持参して求職の申し込みをする必要があり、その日をもって受給資格が決定します。
自己都合退職の場合、受給資格が決定してから、最初に雇用保険の基本手当(失業保険)が受け取れるまでに、約3カ月かかります(2023年11月現在)。離職票が届くのが遅れれば、それだけ受給開始時期も後ろ倒しになり、無収入の期間が長引いてしまうことになります。
また、雇用保険の基本手当(失業保険)が受け取れるのは、原則として退職日の翌日から1年間であるため、離職票の入手や求職の申し込みが大きく遅れると、満額を受け取れない可能性があります。
離職票なしで「仮決定」の手続きをしてくれることもありますが(後述)、ハローワークによって、対応してくれる場合と、してくれない場合があります。従って、自身の管轄のハローワークが必ず仮手続きをしてくれるとは限らないので注意しましょう。
離職票が手元に届かない理由
前の会社から離職票が届かない理由は、いくつか考えられます。
「離職票が必要」と会社に申し出ていない
離職票は退職者全員に発行されるものではなく、次の転職先が決まっている場合は、そもそも雇用保険の基本手当(失業保険)を受給できないため、離職票は必要ありません。そのため、あなたが離職票を必要としていることを会社が認識していないのかもしれません(ただし、雇用保険法上は本人が発行を希望しない場合を除いて、会社は離職票の発行手続きをしなければならないとされています)。
多くの会社では、退職前に離職票が必要かどうかを確認してくれますが、中には社員の方から「離職票が必要です」と申し出ないと、手続きをしてくれないケースもあります。退職前に離職票について何も聞かれなかった場合、会社が手続きをしていない可能性があります。
会社が手続きをしていない、対応が遅れている
上記以外の理由で、会社がハローワークに発行の手続きをしていないこともあります。例えば、繁忙期で担当者が他の業務に追われて、手続きを失念しているかもしれません。また、ハローワークへの提出書類には退職者の給与額を記載する必要があるため、他の社員の給与計算が終わるまで保留にされるなど、会社側の事務処理の都合で手続きが遅れているケースもあります。
ハローワークで手続きが遅れている
退職者が多くなる3月〜4月やボーナス支給直後の時期は、ハローワークも繁忙期となります。会社からの届出は行われているものの、ハローワーク内での手続きが滞っているために、離職票の発行が遅れるケースもあるでしょう。
会社が意図的に手続きをしていない
例えば退職交渉の際にトラブルがあったり、退職者が正式な手続きを踏んでいなかったりなどで、円満退職とは言えない場合、会社が意図的に離職票の発行手続きをしていない可能性もあります。しかし、このような行為は、会社が理由なく証明書の交付を拒んでいるケースに該当し、雇用保険法第83条4項に違反するものとして、罰則の対象になる可能性があります。
離職票が手元に届かないときの対処法
離職票が手元に届かない場合は、退職後2週間を目処に何らかのアクションを起こすべきでしょう。具体的にどう対処したら良いかを解説します。
会社に離職票が必要だと連絡する
退職時に会社から離職票について確認されておらず、自分から「離職票が欲しい」と伝えていなかった場合、会社が手続きをしていない可能性があります。その場合は2週間待つことなくすぐに会社に連絡を取り、離職票が必要なことを伝えるようにしましょう。
2週間経ったら会社に確認・催促する
会社に離職票の発行を依頼しているのもかかわらず、退職して2週間経っても離職票が届かない場合は、会社の人事担当者か経営者に問い合わせをしましょう。もし手続きが忘れられていたり、後回しにされていたりしたら、早急な対応をお願いするようにしましょう。会社の方で滞りなく手続きをしていた場合は、会社から管轄のハローワークに問い合わせてもらい、進捗状況を確認してもらうといいでしょう。
ハローワークに相談する
会社に催促しても離職票が届かない場合や、何らかの事情で会社に連絡したくない場合は、会社の住所を管轄するハローワークに問い合わせて、離職票の手続きや、発行の処理が進んでいるかどうかを確認してもいいでしょう。場合によっては、ハローワークから会社に離職票の発行手続きを行うよう、催促してもらうこともできます。
ハローワークで仮手続きをする
離職票が手元になくても、退職したことを証明できる退職証明書などを持参すれば、ハローワークが仮手続きをしてくれるケースもあります。雇用保険の基本手当(失業保険)を少しでも早く受け取りたい場合は、住所を管轄するハローワークに問い合わせて、離職票が発行されない事情を説明し、仮手続きができるかどうかを相談してみましょう。
仮手続きをすることができれば、受給までのプロセスが進み、支給開始日が遅れることもなくなります。ただし、最終的には離職票が必要になるため、最初の失業認定日(自己都合退職の場合、最初にハローワークで手続きをしてから7日間+2カ月後)までには原則離職票を用意する必要があります。
離職票が届かないときは早めに対処を
離職票は、雇用保険の基本手当(失業保険)を受け取るための重要な書類です。退職者に請求されれば、会社は手続きをしなければならないと雇用保険法で定められているので、辞めた会社でもきちんと連絡を取り、発行を請求したり、進捗を確認したりすることが大切です。ハローワークへの申請が遅れると受給期間が短くなってしまうこともあるので、早めに離職票を入手して手続きを済ませることをお勧めします。
岡 佳伸(おか よしのぶ)氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。