職場の人間関係が原因で退職した場合、転職活動では退職理由をどのように伝えたらいいのでしょうか。上司や同僚とうまくコミュニケーションが取れないなど、ネガティブな印象を与えづらい伝え方について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
【調査からみる】人間関係が原因で転職する人は約1割
厚生労働省が2022年(令和4年)に発表した「令和4年雇用動向調査結果の概況」(※1)によると、「職場の人間関係が好ましくなかった」ことを理由に退職した人は、男性は8.3%、女性は10.4%でした。
人間関係が原因で退職した人が全体的に約1割となっており、前年度の2021年(令和3年)と比較しても、男性8.1%(0.2%増)、女性9.6%(0.8%増)と増加していることがわかります。
(※1)出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-2/dl/gaikyou.pdf)
人間関係が原因で転職する人が悩む理由
では、人間関係が原因で転職する場合、具体的にはどのようなことに悩みがあるのでしょうか。人それぞれではありますが、よく聞かれる理由には、以下が挙げられます。
職場内のコミュニケーションが少ない
社員同士でコミュニケーションを取る会が少なく、仕事の質問や相談がしづらい環境に馴染めず転職に至るケースもあります。信頼関係も築けず、会話から新たなアイデアが生まれるといったことも起こりにくく、居心地もよくないといったこともあるでしょう。
職場でハラスメントを受けている
上司、先輩、同僚などからのハラスメント行為も人間関係で悩む理由の一つです。
例えば、一人ではこなし切れないような仕事量を丸投げされたり、失敗したら全て責任を押し付けてきたり、過度な要求をされるなど、さまざまなハラスメント行為を受けることに耐え切れず、退職を決意するケースなどが該当します。
上司・先輩・同僚などと意見が合わない
上司、先輩、同僚など、職場のメンバーと業務に対するやり方や考え方が合わず、ストレスがたまってしまうこともあるようです。自分の意見がなかなか通らなかったり、協力が得られなかったりすることで、つらく感じてしまう原因となります。
転職活動を始める前に、人間関係で悩んだらまず考えたいこと
職場の人間関係の改善や、自身のストレスを軽減するための対処法をご紹介します。まずは現状の課題を整理し、解決策を考えてみましょう。
客観的に状況を書き出し、問題点を整理する
現在の状況について客観的に書き出すことで、自分の悩みの要因を整理しましょう。職場の誰に対し、どのようなことについて悩んでいるのかを明確にし、人間関係における悩みのレベル感を把握することから始めてみるといいでしょう。
身近な第三者に相談する
友人や家族など、第三者に悩みを相談することで、客観的な意見を聞くのも一つの方法です。また、問題点が整理でき、解決できそうな対策を思いついたら、職場の上司や同僚に相談してみましょう。
ただし、パワハラ、セクハラなどのハラスメントを受けている場合は、迷うことなく人事担当者に相談し、迅速に対処してもらいましょう。社内にハラスメント相談窓口が設置されている場合は、そちらで対応してもらう方法もあります。
自身の考え方・接し方を変えてみる
人間関係を構築するためには、相手の価値観に歩み寄ることも必要です。自身の考え方や接し方を変えてみることで関係性が変化する可能性もあるので、試してみるのもいいでしょう。とはいえ、良好な人間関係を築くためには相性も大切です。自身が歩み寄っても難しい場合には「仕事で必要なこと以外では、かかわらない」など、割り切って接する方法もあります。
例えば「仕事は仕事」と考えて割り切り、目の前の仕事を遂行することだけに集中する方法もあります。また、プライベートの活動に注力することで、気分を変えるのもいいでしょう。休日にはしっかり休むことを意識し、リフレッシュすることでパフォーマンスが上がる可能性もあります。
社内異動の希望を出す
部署や所属チーム、担当プロジェクトを変えてもらう方法があります。悩みの要因となる人物と物理的に距離を置くことで、自身のストレスを軽減できたり、相手との関係性が改善したりする可能性もあります。
人間関係が改善しない場合は転職も一案
いろいろ対策をしてみたものの、どうしても改善できなかった場合は、転職するのも一つの手段です。転職をすることで、人間関係をリセットすることができるでしょう。極限まで無理を重ねると心身に支障が出てしまうこともあるので、そうなる前に転職を決断することも有効な選択肢の一つと言えます。
人間関係を理由に転職活動を行う場合の注意点
人間関係を理由に退職し、転職活動を行う場合は、下記のような注意点を把握しておくようにしましょう。
人間関係の悩み以外で実現したい「転職の目的」を考える
転職によって何を実現したいのか、「転職する目的」を明確にすることが重要です。転職の目的を明確にすることで、業界・業種・企業選びがスムーズになり、入社後のミスマッチを減らすことにもつながるでしょう。
人間関係のみではなく、仕事内容、働き方、年収、ワーク・ライフ・バランス、今後のキャリア形成など、転職先で実現したいことを考えてみることが重要です。
社風が合うかどうかをしっかり確認する
応募企業の社風が自身に合うかどうかを、しっかり確認することも大切です。企業のホームページや求人情報、SNS、代表インタビューなどでミッション、バリュー、ビジョン、クレドの確認、さらには、採用ページの社員インタビューなども参考にするようにしましょう。
また、採用選考の前に人事担当者とのカジュアル面談を実施している企業や、オフィス見学や同年代の社員との面談などの希望に対応する企業もあります。働く社員のカラーや職場の雰囲気などを知るためにも活用してみることをお勧めします。
転職理由を伝えるときはネガティブな表現を避ける
人間関係が転職理由であっても、面接では上司や同僚などに対する個人的な不満を話すことは避けた方がいいでしょう。個人的な感情が理由である場合「同じようなことが起きると、また転職してしまうのではないか?」と判断される可能性があります。
より大きな視点で捉え、仕事のやりがいや働き方、キャリアの方向性などにつなげて語るといいでしょう。以下の回答例を参考にしてみましょう。
転職理由の回答例
「過度な行動管理を行う社風にやりづらさを感じ、裁量権を与えてくれる自由な風土で活躍したいと考えた」
「年功序列を基本とした評価制度に疑問を感じ、頑張った成果を正当に評価してもらえる企業で働きたいと考えた」
「組織の方針と自身の考え方にずれが生じ、価値観の合う企業に転職することで仕事にやりがいを感じることができると考えた」
転職先の人間関係を採用面接で見極める方法
転職先で良好な人間関係を築き、人間関係を理由とした転職を繰り返さないために、応募先企業の面接では下記のようなポイントで質問してみましょう。
社内のコミュニケーションについて聞いてみる
転職先の新たな職場に馴染めるように、社内で行われているコミュニケーションや社内交流について確認してみましょう。
例えば「上司との面談頻度」「チーム内のミーティングや会話は多いのか」「新規企画や改善案などの提案はどのようにしているのか」「チーム内の情報共有ツールの活性度」「社内交流は活発か」など、社内でどのようなコミュニケーションの取り方や交流をしているのか聞いてみるといいでしょう。
社風を把握するために、社内制度などを確認する
社風を把握するために、経営陣の意思決定や評価などの制度基準を聞くのも参考になります。「社員の評価はどのような制度になっているのか」「業務やプロジェクト提案の決裁にかかる時間」「経営層からの発信」など、具体的な内容について聞いてみましょう。また、上記でも述べましたが、実際に現場で働く社員から直接話を聞くのも参考になるでしょう。
人間関係が転職理由の場合の面接での伝え方例とポイント
人間関係が原因で転職を考える場合、面接などで聞かれたときに表現によってはネガティブな印象を与えてしまう可能性があります。どのように伝えるとより採用担当者に伝わりやすくなるのか、回答例をご紹介しますので、参考にしてみてください。
<ネガティブな印象を与える可能性がある例 >
前職では、仕事の進め方や顧客とのやり取りなど、上司の指示通りに動かないと指摘をされたり、激しく叱責を受けたりしていました。また、新たな企画の提案もなかなか聞き入れてもらうことができない環境でした。上司の考えたやり方通りではなく、自分で企画を考え、成果を出すために行動できる環境で挑戦したく、転職を決意しました。
<ネガティブな印象を与える可能性が少ない例 >
前職では、仕事の進め方や顧客とのやり取りなどに違和感を覚えていました。また、新たな企画の提案もなかなか受け入れてもらうことが難しい環境でした。自身で考えた企画で、成果を出すために行動できる環境で挑戦したく、転職を決意しました。
【ポイント】
上司との人間関係がうまくいっていなかったことを転職理由として挙げるのは避けましょう。人間関係に不満を抱きやすい人物だと判断されるかもしれません。仕事に対する熱意など、前向きな意思を持って新たな環境で働きたいことを伝えるようにしましょう。
<ネガティブな印象を与える可能性が少ない例 >
営業成績に対する評価が厳しい職場でした。一定の競争や切磋琢磨することが目標達成に必要だと認識しているものの、チーム内の競争意識が強く、働きづらいと感じていました。チームメンバー間で情報共有することや協力し合うことで 、チームとしても個人としてもより高い成果を出し、成長できる組織風土の会社で働きたく、転職を考えるようになりました。
【ポイント】
「現職のやり方が悪いから、チーム内の人間関係が悪いから、他メンバーが嫌だから」といった不満や違和感をメインの転職理由にするのではなく、あくまで「よりチームワークを大事にした組織で働き、高い成果や成長を目指したい」から転職するということを伝えましょう。
転職エージェントやスカウトサービスの利用も有効
転職先の社風や職場の雰囲気などを把握したくても、企業サイトや求人情報などだけではわからないと感じる方もいるでしょう。
転職エージェントやスカウトサービスを活用することで、今感じている不安を和らげることができるかもしれません。転職エージェントの場合、企業の社風や働き方などを把握していることも多く、第三者目線での情報を入手できることも考えられます。
スカウトサービスの場合は、自身の経験やスキルにマッチした企業からスカウトが届きます。企業によっては、選考を受ける前に面談を依頼することもできます。事前の面談で、不安に思うことや疑問点を相談することで、安心して選考に臨むことができるでしょう。ぜひ、活用してみてはいかがでしょうか。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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