管理職の転職は難しい?転職を実現するための事前準備と進め方のポイント

管理職 転職

管理職の転職は、キャリアアップの手段のひとつ。キャリアが長くなるほどマネジメントスキルを求められるケースが増えるため、転職活動において管理職の経験は重要なポイントの一つとなるでしょう。ただし管理職の求人は数が限られることも多く、管理職の転職ならではのハードルの高さや、後悔しないための事前準備について知っておくことが大切です。管理職が転職を実現するためのポイントを、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタント粟野友樹氏が解説します。

管理職として転職を実現した事例

最初に管理職として転職を実現できた事例を識者の経験をもとにご紹介しましょう。

大手IT企業からAIスタートアップへ

大手IT企業でデザイン部門のマネジャーを務めていたAさん(30代)は、大手企業での細分化された仕事に成長実感を持てなくなり、転職を考えていました。あるときAIスタートアップ企業の求人が目に留まり、組織の立ち上げにおける「デザイナー部門1人目のマネジャー」という役割とミッションに興味を持って応募。現職での経験値や、BtoB・BtoC向けサービスの両方のデザイナー経験を評価されて、UI/UXデザイナーのマネジャーとして転職を実現しました。

都市銀行からコンサルティングファームへ

都市銀行でM&A担当部署のマネジャーを務めていたBさん(30代)。仕事にやり甲斐を感じていましたが、現職ではいずれ部署異動があり、M&A業務から離れる可能性が高いことを懸念していました。また「今よりさらにさらに実力で評価される環境で年収を上げたい」という思いも強く、転職を決意。M&A領域の豊富な経験値と、資格の専門性を評価され、大手コンサルティングファームにシニアマネジャーとして迎えられました。

管理職の転職が難しいと言われる3つの理由

一般的に、転職市場において「管理職の転職は難しい」と言われるのはなぜでしょうか。その理由を識者の経験からご紹介します。

理由1:ポストが少なく、求人自体が少ない

管理職を募集する求人自体が少ないことが大きな理由の一つです。近年は事業変革を目的とする管理職の中途採用が増え、求人は増加傾向にありますが(2022 年度は2016 年度の3.67 倍 ※1)、転職市場全体から見るとまだ少ないと言えるでしょう。

一般的な会社組織では、メンバー・リーダークラスと比べて管理職の人数が少なく、通常は在籍している社員を管理職に登用することが多いため、必然的に管理職の中途採用を行うケースは限られてきます。また同じ管理職といえども、業界や企業規模、組織のフェーズによってポストや年収の水準も違うため、「自分の条件と合う求人」となると、さらに限られてしまうことが考えられます。

(※1)出典:株式会社リクルート「管理職求人・転職が増加 管理職採用で事業変革・専門スキルの獲得を狙う企業の動き(2023年)」https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20230719_hr_01.pdf

理由2:多くの求人が非公開になっている

管理職の求人は、転職エージェントやスカウトサービス経由で募集され、表には出ない「非公開求人」とされているケースもあります。求人を公開しない背景として、「重要ポストの採用を知られて社内で不安や動揺が広がるのを避けたい」「社内の動向を競合他社に知られたくない」といった企業の事情が考えられます。

一般的に非公開求人は、要件に合致する人材にのみ紹介される場合があるので、転職支援サービスに登録していたとしても、必ず閲覧・応募できるとは限りません。したがって、そもそも出会える確率が低いと言えるでしょう。

理由3:求められる要件が多く、採用基準が高い

管理職の多くは「即戦力採用」であり、経験・スキル、実績、人柄を持って、入社後すぐに活躍することが求められるケースも少なくありません。したがって、企業は採用ポジションに相応しい人材の条件を細かく設定しています。さらに、管理職は組織に与える影響が大きいため、カルチャーフィットを慎重に検討される傾向もあります。その結果、転職希望者に求めるものが多く、それだけ選考の評価基準も高くなると言えるでしょう。

管理職に求められるスキル

一般的に、管理職に求められるスキルはどのようなものか、2つの例をご紹介しましょう。

高い成果を出せる組織作り

管理職には、部下の管理や育成を通じて、高い成果を出す組織を作ることが求められる傾向にあります。

まず、組織の方針を伝えて部下を動かすには、物事を概念的に捉えて本質を見極める「コンセプチュアルスキル」が必要となります。さらに、組織の目標を達成するためには「問題解決スキル」が必要です。部下だけでなく、関係部署や協力企業などと良好な関係を築き、時に根回しや交渉を行う「対人対応スキル」も重要でしょう。

また、株式会社リクルートが企業の人事担当者を対象に行った調査のレポート(※2)によると、これからのマネジメントに求められるのはエンパワーメント(部下に責任を与えて経験を積ませること)であり、生産性の高い組織を作るには「目標設定と業務デザイン」「成長支援とフィードバック」「コミュニケーションとチームの協働」が重要であると示唆されています。

(※2)出典:株式会社リクルート「企業の人材マネジメントに関する調査 管理職・マネジメント編(2023年)」 https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20231017_hr_01.pdf

プレイングマネジャーとしての経験・スキル

一方で、管理職に求められる役割は増加しています。組織や部下の管理だけが管理職の仕事ではなく、多くの企業で管理職にプレイヤーとしての役割を求める傾向があります。そのため、管理職にはマネジメントスキル以外に、営業部門であれば営業スキル、バックオフィスであれば経理や法務などに関する業務スキルなど、目標達成のための専門スキルを必要とされることが多くなっていると言えるでしょう。

管理職が転職するための事前準備

管理職が「後悔しない転職」「納得度の高い転職」をするためにはどうしたらいいのでしょうか。転職活動を始める際に確認したいことや、整理したいポイントをご紹介します。

「転職理由」を明確にしておく

管理職に限らず、転職で自分が何を実現したいのかという「転職理由」を明確にすることは非常に重要です。「さらに自分の経験・スキルが求められる現場に行きたい」「管理職としてスキルアップしたい」などの転職理由をもとに、職務内容、組織における裁量権、年収、勤務地などの希望条件を導き出しましょう。さらにそれらの優先順位や妥協ポイントを決めていくことで、企業やポストを選ぶ際の基準が明確になっていきます。

肩書きや年収にこだわりすぎない

前述したように管理職の求人は数が少ないことから、今の年収や肩書きを基準にしすぎると、転職活動に苦戦する可能性があります。年収の水準は、業界や企業規模、組織のフェーズによっても変動します。また、評価や報酬、等級・役職などの人事制度も企業によって千差万別であり、現職と横並びに比較しても、有効とは言えない可能性もあるでしょう。

仮に転職したときは年収やポストが下がったとしても、その後に活躍して評価されれば、比較的早く昇進や昇格、昇給を実現できることもあります。転職活動の際は、応募先企業の報酬や評価の仕組みも確認しておくと良いでしょう。ある程度「妥協してもいい」と思える範囲を決めておき、長期的な目線で検討することも一案です。

キャリアの棚卸しで経験・スキルを整理する

転職活動をする際はキャリアの棚卸しを行い、過去に自分がどのようなマネジメントをしてきたかを洗い出してみましょう。そのうえで、企業が求める能力に紐づく経験・スキルを取り出し、深掘りすることがポイントです。当時の状況を詳しく振り返り、そのときの課題や、解決に向けて何を考え、実行し、どのような成果に繋がったかを整理し、客観的な数字やエピソードを交えて伝えられるように準備しておきましょう。

管理職の転職で企業・求人を選ぶ際のポイント

管理職として転職する場合の、企業・求人探しのポイントをご紹介します。

企業が求める経験・スキルのレベルを確認する

企業が管理職人材を募集する場合、一般的には「組織の業績改善」「人材開発」「プロジェクトの立ち上げ・実行」など、案件ごとに目的が明確に示されています。まずは求人情報や転職サイトの情報を利用して、企業がどのような領域を得意とする管理職を求めているのか、どのようなレベルの経験・スキルが必要かを確認しましょう。

その上で、自分の経験・スキルとのギャップがないかを見極めるのがポイントです。例えばその企業に転職したと仮定して、「最初の100日間で、土台を固めることができるだろうか?」とイメージしてみると、判断しやすいかもしれません。

「管理職候補」の求人も選択肢に入れる

管理職、かつ自分の条件に合致した求人は思っている以上に少ないものです。そのため、条件を緩和して、「管理職候補」の求人を応募先の候補に含めることで、選択肢が大きく広がることも考えられます。求人のタイトルだけでなく、本文に記載されているケースもあるので、よくチェックしましょう。また、管理職候補の求人に応募する場合は、必要な経験・能力や具体的な業務内容を確認し、どのような成果を出せば管理職を目指せるのかを、面接で質問するという方法も有効です。

プレイングマネジャーに注目する

前述した通り、管理職にプレイヤーの役割を求める企業も見られるため、あえてプレイヤーとしての役割を求められる求人に注目して、成果を出せることをアピールするという方法もあります。特に、ベンチャーやスタートアップなどでは、部下のマネジメントを行いながら、自分で手を動かすことができる管理職を求める傾向があります。プレイング部分でこれまでの経験・スキルを活かすことができるので、マネジメントのみのポジションよりも、入社後の見通しがつきやすいかもしれません。

管理職の転職活動の進め方のポイント

管理職として転職する場合の、転職活動の進め方のポイントをご紹介します。

マネジメントの実績・成果を具体的にアピールする

転職活動を進める際に大切なのは、応募企業が管理職に求めている経験・スキルや役割は何かをよく考えて、それにマッチした自身の経験・スキルを具体的にアピールすることです。職務経歴書や面接では、「マネジメントをした人数」「取り扱った目標予算などの数字」「目標に対する達成率」といった要素を意識し、具体的な数字を持って伝えると、これまで経験してきたことの規模感や難易度が伝わりやすくなるでしょう。

また、目標に向けて取り組んだことや、達成できた要因なども整理し、自身のマネジメント方針やスタイルをしっかりと伝えることも大切です。面接に向けて、より具体的なエピソードを準備しておきましょう。

応募企業のマネジメントスタイルを確認する

部下の不安を取り除く、心理的安全性の高いサーバント型の組織や、強いリーダーシップで部下を牽引するトップダウン型の組織など、企業によって管理職に求めるタイプやマネジメントのスタイルは異なります。キャリアの棚卸しなどを通じて、自分がイキイキと働くことができるのは、どのようなマネジメントスタイルの企業なのかを明らかにしておきましょう。

さらにマネジメントスタイルは求人を見ただけでは分からないケースが多いので、入社後にギャップが生じないように、応募企業が求める管理職像を面接でよく確認することが大切です。

企業理念や経営者とのマッチ度もよく見る

管理職の転職では、企業風土のマッチングも重要です。同じ業界・業種の企業であっても、経営陣の考え方や発揮する強みによって、何を大切にするかという理念も異なります。特に、入社してすぐに重要なミッションを与えられ、リーダーとして組織を引っ張る管理職にとって、「価値観が合うか」「共に働きたい人がいるか」といったことはパフォーマンスに直結することがあります。

面接では条件面だけに気を取られず、応募企業のミッションやビジョンに共感できるか、経営者や直属の上司と自身のマッチ度はどうかも、しっかり見極めるようにしましょう。

管理職未経験者は現職でマネジメント経験を積んでから転職する方法も

もともと求人数が少ない管理職ポジションに、マネジメント未経験で転職するのは難易度が高いものです。管理職経験がない場合は、現職でマネジメント、またはマネジメントに近い経験を積んでから転職するのも一案です。もし、現職にマネジメント経験を積むチャンスがあるのであれば、現職で管理職への道を探りながら、並行して管理職、または管理職候補への転職活動を進めて、双方の実現可能性を見極めていくのも良いでしょう。

管理職の転職はスカウトサービスや転職エージェントも活用を

管理職の転職活動では、ハイクラス・エグゼクティブ層向けの転職エージェントや、企業や転職エージェントからスカウトを受け取ることができるスカウトサービスの活用も有効です。管理職の求人を多数取り扱い、サービスの担当者も、管理職の転職支援の経験が豊富であるケースがあります。管理職の転職により適したアドバイスをもらえる可能性もあるので、サービスの利用をご検討ください。

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アドバイザー

粟野友樹氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。