退職の準備を進める際に提出する書類には「退職願」「退職届」「辞表」などがあります。この記事では、「退職願」「退職届」「辞表」の違いや、正しい書き方・出し方、提出する際のスケジュールの目安とやるべきこと、注意したいポイントなどを社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。
目次
「退職願」「退職届」「辞表」の違い
「退職願」「退職届」「辞表」について、それぞれの特徴や違いを解説します。
退職願
退職願は、「退職したい」という自身の意思を会社に申し出るために提出する書類です。一般的には、退職する旨を伝える場合は口頭のみでも問題ありませんが、企業によっては退職願の提出を規定しているケースもあります。事前に就業規則を確認した上で、必要な場合は準備するようにしましょう。
退職届
退職届は、会社から承認を得て退職することが確定してから、労働契約の解除を届け出る書類です。こちらも法的には口頭でも問題ありませんが、多くの企業は事務手続き上の記録を残すために、就業規則などで退職届の提出や提出期限を定めています。
辞表
辞表は、会社の社長や役員などが役職を辞する時に届け出る書類です。また、公務員が辞める時にも、一般企業の退職届に相当するものとして辞表が用いられます。
退職願・退職届の提出時期と事前確認
退職願・退職届を出す時期と、事前に確認することについて解説します。
退職願・退職届を提出する時期
退職願・退職届は、就業規則に定められた相手に対して期日までに提出する必要があり、一般的に、退職希望日の1~2カ月前までが退職申し出の期限となっているケースが多いようです。就業規則によっては、上司に退職の意思を伝えた後、人事担当者や社長が退職の申し出を正式に受理するまでが規定の期間内に含まれているケースもあるため、確認しておくことが大事です。
退職願は退職を申し出るタイミングで提出しますが、就業規則に提出の定めがない場合は、口頭のみでも問題はありません。一方、退職届については、上司に退職を申し出た後、退職時期について話し合い、退職の申し出を受け入れてもらう(退職願を提出した場合は受理してもらう)ことが必要となるでしょう。
退職届は、これらの流れを経て退職日が決定してから、就業規則に定められた提出期限に従って提出します。
退職の申し出を行うタイミングについては、有給休暇の消化も念頭に置くことがポイントです。有給休暇は在職中にしか取得できませんが、最終出勤日と退職日を調整することで、残った日数を消化することが可能です。有給休暇の残日数も含めて逆算し、退職を申し出ると良いでしょう。
退職願・退職届を提出する前に確認すること
自己都合による退職の意思を伝える場合、上司や人事担当者から退職理由を確認されます。会社への不満が退職理由であっても、「転職で実現したいこと」など前向きな意思を伝えることが大切です。曖昧な退職理由では、強く引き留めをされたり、退職交渉が長引いたりする可能性もあるので、きちんと整理した上で、退職の決意を明確に伝えましょう。
また、いきなり部門長や人事担当者に申し出るのではなく、まずは直属の上司に退職の意思を伝え、退職時期などについて相談しましょう。会社によっては退職に関する申請書やフォーマットが決まっているので、上司に相談をする際は、退職願・退職届の提出についてもあわせて確認すると良いでしょう。
退職までの流れとスケジュールの目安
退職願・退職届を出すまでと、退職までのスケジュールの目安をご紹介します。
1.退職の意思を固める
2.上司に退職の意思を伝える
3.退職願・退職届の提出時期も確認する
4.退職願を提出する(退職希望日の1〜2カ月前が目安)
5.退職願(退職の申し出)が受理される(提出・申し出から2〜3日程度が目安)
6.話し合いを行った後、正式な退職日が確定する
7.退職届を提出する(就業規則に従って提出)
8.業務の引き継ぎを行う
9.退職
退職願・退職届の書き方見本【テンプレートあり】
退職願・退職届の基本的な書き方を見本とともにご紹介します。企業によっては規定のフォーマットがあるので、事前に確認しておくことをおすすめします。
(1)タイトル
「退職願」「退職届」とそれぞれ書きます。
(2)書き出し
本文の1行目の一番下に「私儀(わたくしぎ)」と書きます。
(3)退職理由
自己都合の場合は「一身上の都合により」と記載します。一方、会社都合の場合は「部門廃止に伴い」「退職勧奨を受け」など、具体的な退職理由を記載し、自己都合ではないことを明記しておくことが大事です。なお、退職勧奨や労使合意による退職は、退職合意書という書面のみを取り交わすケースがあります。
(4)退職日
上司と決定した退職日を記入します。
(5)退職の伝え方
退職届の場合は、「退職いたします」と言い切りますが、退職願の場合は退職を「お願い申し上げます」と願い出る形式で記載します。
(6)提出日
提出する日付を書きます。
(7)所属・氏名・捺印
所属部署名、氏名を書き、捺印します。
(8)宛名
直属の上司ではなく、会社の最高責任者の名前と役職を書きます。
退職願・退職届の封筒の選び方
退職願・退職届は、封筒に入れて提出するのが一般的です。封筒の色には特に決まりはありませんが、白色の無地の封筒を使うケースが多いようです。茶色の封筒や郵便番号の記載欄がある封筒でも問題はありませんが、重要な書類を扱う際は白い無地の封筒が一般的です。
封筒のサイズは、退職願・退職届の用紙サイズに合わせて選ぶようにしましょう。三つ折りして封筒に入れるため、用紙がA4サイズであれば長形3号、A5、B5サイズであれば長形4号を使用すると良いでしょう。
退職願・退職届の封筒の書き方・入れ方
退職願・退職届を入れる封筒の表面・裏面の書き方と、封筒への入れ方をご紹介します。
封筒の書き方見本
封筒の書き方
封筒の表面は、中央よりやや上に、大きめの文字で「退職願」「退職届」と記載します。宛名は必要ありません。裏面には、左下に所属部署と氏名を書きます。
退職願・退職届の折り方
1.書類を正面にまっすぐ置きます。
2.書類の長辺の下1/3を、下から上に折ります。
3.長辺の上1/3を被せるように下に折ります。
封筒への入れ方
次のように、退職願・退職届の右上(○の部分)が、封筒の裏側の上部にくるようにして入れます。
封筒の途中で引っかかって用紙がヨレたりしないよう、用紙を入れる前に封筒の中を見て確認しましょう。途中で引っかかってしまった場合は、一度取り出して入れ直すと良いでしょう。
退職願・退職届の封筒の出し方
退職願・退職届の提出の仕方についてご紹介します。
対面で提出する場合
退職願・退職届は基本的に上司に手渡しするものであるため、封筒の封はしてもしなくても、どちらでもかまいません。ただ、あらかじめ糊やシールがついた封筒の場合は、見た目の印象的にも、封をしておいた方が無難です。封をした場合は、フタの中央に「〆」と記載しておきましょう。
郵送の場合は、郵送用の封筒を用意
病気やケガなどで直接手渡しするのが難しい場合は、上司に電話などで退職の意思を伝えた上で、退職願・退職届を郵送することもできます。信頼関係を損ねないように、何の断りもなく書類を送付するのは控えた方が良いでしょう。
退職願・退職届を郵送する場合は、郵送用の一回り大きな封筒を別に用意する必要があります。退職願・退職届を入れた封筒はフタを折り曲げるか、封をする場合はフタの中央に「〆」と記載し、郵送用の封筒に入れます。この際、送付状(添え状)も一緒に同封すると、より丁寧になるでしょう。
送付用の封筒には表面に宛名を記載し、左下には赤ペンで「親展」と書いておきます。裏面の左下に自分の住所と名前を書き、中身を確認して封を閉じ、フタの中央に「〆」と記します。
病気やケガの場合以外にも、企業によっては退職願・退職届の郵送を指示されるケースがあるので、その場合は指示に従って郵送するようにしましょう。
企業によってはペーパーレスで提出する場合も
企業によっては、退職願・退職届のペーパーレス化が進んでおり、ワークフローシステムを導入し、退職届の申請・承認をシステム上で行うこともあります。
ただし、直筆の署名や押印を必要とするケースもあり、こうした場合はプリントアウトした書類を郵送したり、PDF化した書類をメールで送付したりすることが必要です。あらかじめ、就業規則などで確認しておきましょう。
退職願、退職届に関するQ&A
退職願、退職届についてよくあるQ&Aをご紹介します。
A.退職届が受理されなくても退職は可能です。法律上(民法第627条第1項)は、定めのない雇用契約の場合、退職を申し出て2週間が経過すれば、会社側の承諾がなくても退職できるとされています。従って、「受理されないから退職できない」ということはありません。どうしても受理されない場合は、労働局の総合労働相談コーナーに相談する方法があります。総合労働相談員に状況を説明することで、会社との間に入ってもらうことができます。
また、退職の申し出が受理されない背景としては、上司が保留にしたまま人事担当者や社長に伝えていない可能性もあります。どうしても受理されない場合は、社長宛てに退職意思を申し出る手紙を書き、特定記録や簡易書留などの配達記録が残る方法で郵送する方法があります。しかし、こうした方法を選択することで会社との関係性が悪くなる可能性もあるので、慎重に検討することが大事です。まずは円満退職ができるよう、上司としっかり話し合うことが先決だと考えましょう。
A.労働局への相談や社長に手紙を送付するなどの方法を取っても退職届が受理されない場合には、最終手段として「退職届を内容証明郵便で送る」という方法もあります。内容証明郵便で送付すれば、いつ誰が書類を受け取ったのかが公的な記録として残ります。受理された後は、会社の指示に従って手続きを進めましょう。
以前は、退職願・退職届を手書きで作成するのが一般的でしたが、パソコンが普及した現在では、パソコンで作成する方も増えています。また、書式は縦書きが一般的ですが、会社によっては指定の書式がある可能性もあるので、不安であれば事前に確認しておきましょう。
A.退職願、退職届に使用する用紙は、コピー用紙か白い便せんが一般的です。会社に提出する公式な書類のため、色付きや柄・イラストが入った用紙の使用は避けましょう。文具店などで退職届専用用紙一式を販売しているので、不安な場合はそちらを使用する方法もあります。
会社によっては専用フォーマットの使用を定めているケースもあるので、こちらも事前に確認しておきましょう。
A.解雇による退職や定年退職の場合は、一般的に提出を求められることはありません。また、契約社員として働き、契約期間を満了して退職する場合も、提出は不要です。提出が必要な場合は、会社の指示に従いましょう。
岡 佳伸(おか よしのぶ)氏
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
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