
近年、転職活動や転職市場の領域で「ハイキャリア」「ハイキャリア人材」という言葉を耳にすることがあります。ハイキャリアとはどのような意味で、ハイキャリア人材と呼ばれるためにはどのような基準があるのでしょうか。そして、ハイキャリア人材を目指し、ハイキャリア転職を実現するにはどうしたら良いのでしょうか。組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
「ハイキャリア」とは
「ハイキャリア」という言葉の意味と、似たニュアンスで使われる他の用語について解説します。
「ハイキャリア」の定義・基準
「ハイキャリア」とは、「high(高い)」と「career(経歴)」を組み合わせた造語です。ただし、そう呼ばれるための明確な定義や基準は特に存在しません。
一般的に転職市場では、何らかの領域や分野で高いスキルや専門性を発揮し、市場価値の高い人材を、「ハイキャリア人材」と呼ぶ傾向があります。
「ハイクラス」「エグゼクティブ」との違い
ハイキャリアと似ている用語に「ハイクラス(high-class)」や「エグゼクティブ(executive)」がありますが、それらとはどのように違うのでしょうか。
「ハイクラス」には、「高級」や「一流」といった意味合いがあり、転職市場では「ハイクラス求人」という表現で用いられるケースが多いようです。ハイクラス求人とは、明確な定義はありませんが、多くの場合、年収帯が高い業界や管理職、高度なスペシャリストなどの求人を指すことが一般的です。また、そうした求人に当てはまる年収が高い人材のことを、ハイクラスと称することもあるようです。
一方「エグゼクティブ」とは、会社組織の中の役職を指す言葉です。一般的に役員などの経営陣、部門責任者、上級管理職など、企業経営の中核を担う役職に就いている人を指します。ただし、こちらもハイキャリアと同様に、「○○以上の役職でなければいけない」といった明確な定義はありません。
「ハイキャリア人材」に関する一般的な誤解
一般的にハイキャリアと聞くと、役職や収入が高いことだと考える人もいるようです。しかし、転職市場でのニーズが高い経験・スキルや能力、実績を備えている市場価値の高い人材は、肩書きや収入に関わらず、ハイキャリア人材として評価される可能性があります。
【誤解1】大企業への勤務が必要?
「大企業に勤務している」「大企業に転職する」ことは、必ずしもハイキャリアの条件ではありません。中小企業やスタートアップに在籍している人や、それらを転職先として選んだ人も、高い専門性や実績があれば、企業規模に関わらずハイキャリア人材と見なされることがあるでしょう。
【誤解2】役職が必要?
ハイキャリア人材と言われることと、役職には直接的な関係はありません。例えば、特定の分野のスペシャリストであれば、管理職でなくてもハイキャリア人材として評価されることがあります。ただ、一般的にハイキャリア人材は、組織内で高いパフォーマンスを発揮できるため、結果として役職も高くなるケースが見られるようです。
【誤解3】一定以上の年収が必要?
「一定以上の年収がなければハイキャリアではない」というのも誤解です。独自の強みや専門性を持つ人材は、それを適所で発揮することで、今は年収が低くても将来的に高収入を得られる可能性があります。もちろん、組織内で高い実績を収めた結果として年収が高くなるケースは見られますが、年収だけでハイキャリア人材かどうかを判断することはできないでしょう。
企業がハイキャリア人材を求める背景とは
近年、「ハイキャリア人材」と言われる人を積極的に採用する企業が多く見られるようです。その背景について解説します。
変化の時代に対応できる人材が広く求められている
DXの急速な発展やグローバル化など、変化の激しい「VUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べたアクロニム)」と呼ばれる現代において、企業は前例を踏襲した事業を展開していくだけでは経営が立ち行かなくなってきています。
こうした時代背景がある中で、即戦力として高いパフォーマンスを発揮し、会社の成長をけん引できる、あるいは組織の変革を担えるハイキャリア人材を求める企業が増えてきているようです。
ハイキャリア人材のニーズ
企業がハイキャリア人材の採用を検討する理由はさまざまですが、一例として次のようなケースがあります。
経営課題への対応
「収益率の向上・改善」のために、市場分析から競合に先駆けたサービス開発した実績を持つ人材や、既存事業の収益性を大幅に向上させた経験を持つ人材を、外部から採用するケースが見られます。
新規事業や海外進出などへの対応
社運を賭けた「海外進出」や「新規プロジェクト」の成功を目指して、事業を展開する業界や国についての知見を持つ人材や、新規事業の立ち上げで大きな業績を上げた人材を採用するケースはよく見られます。
組織改革への対応
「組織改革」や「部門の立て直し」のために、組織マネジメントの豊富な経験を持ち、部門全体を引っ張る力のある人材を求めることがあります。
DX化の推進や新規事業開発など、前例のない課題を解決するには、より専門的で高いスキルが必要とされることも多いものです。そのため、社内に人材がいない場合には、キャリア採用で解決するケースが今後も増えていくことでしょう。
ハイキャリア人材に求められる要素とは
企業のニーズが高まるハイキャリア人材には、どのような要素が求められるのでしょうか。以下にその一例をご紹介します。
即戦力となる経験・スキル
企業はハイキャリア人材に対して、即戦力となることを求めていると考えられます。そのため選考を通じて、募集するポジションにマッチした経験・スキルを持っているか、過去の成果や実績について再現性が期待できるかを、慎重に判断しようとするでしょう。
高度なポータブルスキル
「ポータブルスキル」とは、業界・職種に関わらず発揮される「持ち運びできるスキル」を意味します。早期に成果を出すことが期待されるハイキャリア人材には、「ロジカルシンキング」「交渉力」「コミュニケーション力」「マネジメント」などの領域で、高度なポータブルスキルが求められることが多いでしょう。
高い専門性
ハイキャリア人材には、高い専門性が求められることもあります。例えば、DXの推進や新規事業の立ち上げなどに関して、社内に知見を持つ人材が少ない場合や、これまでとは異なる視点を得たい場合などに、高い専門性を持つハイキャリア人材を採用することがあるようです。
実力の証明となる実績
ハイキャリア人材は過去の実績も重視されます。その経験やバリエーションが豊富であるほど、実力が判断しやすく、入社後の再現性も期待できます。売り上げなど定量的に判断できるもののほか、事業の立ち上げや再建、海外進出など、ビジネス手腕が想定できる実績も、評価の対象になるでしょう。
ハイキャリア転職のための求人を探す方法
ハイキャリア人材の求人や、ハイキャリア人材を目指す人にマッチする求人は、誰でも閲覧できる一般的な求人サイトなどで公開されることはあまりありません。ここでは「ハイキャリア転職」のための求人を探す方法を解説します。
転職エージェントに登録する
企業の経営戦略を中心的に担う重要ポジションであるほど、求人は一般に公開されないケースが多くなります。公開されていない求人を入手するためには、転職エージェントの活用を検討すると良いでしょう。
一般的に、ハイキャリアの人材を対象にした採用枠は少なく、加えて即戦力となる経験・スキルをピンポイントで求める傾向が見られます。ハイクラス求人やエグゼクティブ求人などを多く扱っている転職エージェントに依頼することで、自分にマッチした求人と出会える可能性が高まるでしょう。
スカウトサービスに登録する
スカウト型の転職支援サービスに、自身の経歴や実績、希望条件などの情報を登録し、企業や転職エージェントからのスカウトを待つ方法もあります。どのような企業から、どのようなポジションのスカウトが来るかをチェックすることで、自身の市場価値をある程度把握することもできるでしょう。
スカウトサービスを活用することで、自身では想定していなかった業界や企業で、これまでのキャリアを活かすチャンスに巡り会える可能性もあります。
リファラル採用、ビジネスSNSも積極的に利用する
ハイキャリア人材は、リファラル採用(社員が友人・知人を自社に紹介する採用手法)という形で転職に至るケースも多いようです。自身のことを良く知っている友人・知人からの推薦を受けることで、マッチングの精度も高められる可能性があります。自社からキャリアアップする転職を実現した知人など、一緒に仕事をしたことがある人とのつながりを大切にしておくと良いでしょう。
また、ビジネスSNSに登録し、積極的に自身の経験・スキルの情報を発信して企業の目に留まるのを待つ、あるいは応募したい企業のビジネスSNSのアカウントにメッセージを送り、採用担当者と直接コンタクトをとるという方法もあります。さまざまな方向から情報が入るように、幅広くアンテナを張りましょう。
ハイキャリア転職を目指す際の転職エージェントの選び方
ハイキャリア転職を目指す場合は、次のような特徴に注目して転職エージェントを選ぶことも一つの方法です。ぜひ参考にしてみてください。
希望業界・職種に詳しい
ハイキャリア人材の求人では、業界・職種の専門知識や経験が求められることが多いため、希望業界・職種の転職支援実績が豊富で、その領域の理解が深い転職エージェントを選ぶことも大切です。特定業界・職種出身のキャリアアドバイザーが所属していたり、特定業界・職種に特化していたりする転職エージェントもあるので、ホームページなどで得意分野や在籍キャリアアドバイザーの経歴などを確認すると良いでしょう。
紹介する企業の内情に詳しい
ハイキャリア人材には、入社後に高いパフォーマンスを発揮することが期待されます。しかし、応募企業の社風や組織体制が自身にフィットしていないと、活躍して成果を出すことも難しくなってしまいます。そのため、紹介する企業の内情に詳しいかどうかも、転職エージェント選びに欠かせない視点の一つでしょう。
ハイキャリアの転職支援実績が豊富である
ハイキャリア人材の転職支援実績が豊富なことも目安となります。ハイキャリア転職を多く扱う転職エージェントは、転職市場における経験・スキルの相場観を理解している可能性が高いでしょう。転職支援実績も、転職エージェントのホームページなどに記載されているケースがあるので確認してみましょう。また、上述したように、ハイキャリア人材の募集は非公開求人となることが少なくないため、そうした非公開求人を多く扱っているサービスを選ぶのも一つの考え方です。
ハイキャリア転職を実現させるための注意点・ポイント
希望するハイキャリア転職を実現させるために、心がけたいポイントについてお伝えします。
現職で実績を上げる
まずは現職で積極的にチャレンジして、実績を残すことが大切です。さまざまな経験を積みながら、周囲から高く評価される成果を上げたり、組織を成長させるマネジメントスキルを磨いたりすることで、企業に対するアピールポイントを増やし、ハイキャリア人材としての市場価値を上げていきましょう。
キャリアの棚卸しをしっかり行う
転職エージェントに対して自身の経験・スキルや希望するキャリアプランを伝えたり、スカウトサービスに経歴やアピールポイントを登録したりするためには、「キャリアの棚卸し」が欠かせません。
キャリアの棚卸しとは、これまで自分が積み重ねてきたキャリアを振り返り、どのような経験や実績があるか、それによって成長してきたポイントは何かなどを確認していく作業のこと。積んできた経験・スキルを整理して言語化することで、自身の強みやアピールポイントが分かり、今後のキャリアビジョンについても明確に描くことができるでしょう。
上述したように、ハイキャリアを対象とする求人では、即戦力となる経験・スキルをピンポイントで求める傾向があります。従って、希望通りの求人やスカウトと出会うためには、しっかりと自身のキャリアを振り返り、それらを明確にしておくことが大切なのです。
転職エージェントやスカウトサービスを広く活用する
ハイキャリア求人は一般的な求人と比べて少ないため、転職エージェントやスカウトサービスを利用する場合は、対応可能な範囲で複数の会社に登録し、選択肢を増やすことをおすすめします。転職エージェントとスカウトサービスを併用するのも一つの方法です。
転職エージェントに相談する際は、希望条件に優先順位をつけておくことと、転職回数などは正確に伝えることが大切です。また、転職活動を進める過程で、希望する条件が変わった場合は、迅速に条件の変更を伝えるようにしましょう。
スカウトサービスを利用する場合は、転職活動を継続していることを示すため、登録したら定期的にログインするようにしましょう。職務経歴などの登録情報をこまめに見直し、希望条件や現職のポストが変わった場合、新たな実績が加わった場合などは、内容を更新しておくようにしましょう。
また、転職エージェントやスカウトサービスの利用と平行して、希望業界に勤務する友人・知人などの人脈を利用し、リファラル採用への道も探っていくと良いでしょう。
転職活動の期間は余裕を持って取り組む
ハイキャリア求人は、採用ポジションで求められる経験・スキル・専門性が具体的、かつ高度であるケースが多いため、自身にマッチする求人に出会えるまで時間がかかることがあります。転職エージェントに登録しても、すぐに条件に合った求人を紹介してもらえるとは限りません。
従って、十分に納得の上で転職をしたい場合は、転職活動が長期に渡る可能性があると想定し、情報収集を継続しながらチャンスを待つのも一案です。「こういったキャリアを歩みたい」「こういう機会があれば挑戦したい」という希望を転職エージェントに伝えた上で、いつでも動けるように準備しておくと良いでしょう。
粟野友樹
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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