転職の軸はなぜ必要?軸の決め方や具体例、面接での回答例を解説

オフィスにて談笑をする人たち

転職活動において耳にする「転職の軸」。面接で企業が応募者の価値観などを知るために転職の軸を問うケースがありますが、転職の軸があることで、応募企業や入社企業を選びやすくなる点もメリットです。この記事では、そもそも軸とはいったい何なのか、どのように決めると良いのか、さらに面接での回答例について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

転職の軸とは?転職軸を決めることが大切な理由

「転職の軸」についての明確な定義はありませんが、あえて説明するなら、転職する際に「大事にしたいこと」や「重視したいこと」、「転職する目的を実現するために譲れない条件」などと言えます。

転職活動において転職の軸が必要な理由の一つは、転職活動の方向性を明確にして、自身が目指すキャリア形成や働き方の実現につなげるためです。転職の軸が明確であれば、応募書類や面接でも「事業内容」「仕事内容」「キャリアパス」などと転職の軸との合致度を根拠に、「自分がマッチしている」と応募企業にアピールすることができるでしょう。

また、面接で応募企業から転職の軸を質問されるケースもあります。採用担当者はそうした質問を通じて、応募者が転職で重視することや、仕事への価値観を確認している可能性があります。それにより、入社後の活躍の可能性や、定着性を確認する目的もあるようです。

転職の軸のメリットと活用方法【転職フェーズ別】

転職の軸を定めると具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、軸を決めるメリットと活用法を転職のフェーズごとに解説します。

【応募】企業を決めるとき

メリット

数多くある求人の中から自分に合う企業を見つけるには、年収や勤務地といった希望条件に加えて、「何を大事にするのか」という軸を決めておけば、より自分に合った応募企業へ絞り込むことができるでしょう。

活用法

例えば「新規事業の立ち上げ経験を積める企業で働く」ことを軸にした場合、「新規事業」などのキーワードで企業を探すことが考えられます。また、転職エージェントを利用する場合は、担当者にそのキーワードを伝えることで、よりスムーズに企業を紹介してもらうことができるでしょう。

【選考】書類作成や面接のとき

メリット

応募書類作成や面接においても、転職の軸があると、志望動機をどのように伝えるか、何をアピールするかがクリアになります。企業側も、転職の軸が明確であることによって応募者への理解が進み、自社での定着性や活躍可能性を判断しやすくなります。軸を決めておくことは、応募者と企業の双方にメリットがあると考えられるでしょう。

活用法

例えば「新規事業の立ち上げ経験を積める企業で働く」を軸とした場合、新規事業を立ち上げることができる(可能性のある)人材であることを、応募書類や面接で伝えることが大切です。具体的には、新しいものを作った経験や、積極的に吸収していく姿勢、挑戦をいとわない姿勢などをアピールしたり、志望動機として伝えたりすることなどです。

なお、「今より年収が上がること」「フルフレックス勤務ができて、残業時間も少ないこと」といった条件面を軸とした場合、そのままでは企業から評価されづらい可能性もあります。「企業に対して自分がどのような貢献ができるか」という観点で、アピール内容や志望動機を考えることも必要になるでしょう。

【内定】入社企業を決めるとき(複数の内定で迷ったとき)

メリット

入社企業を決めるとき、特に複数の内定で迷ったときは、転職の軸があることで、自分の目指すキャリアの方向性と合致する企業かどうかを判断しやすくなります。最終段階で転職の軸を基準に判断することで、入社後のミスマッチを予防する効果も期待できるでしょう。

活用法

例えば、内定が出た企業に入社すべきかどうかを迷ったときに「軸に合った企業かどうか」という観点で決断することが挙げられます。また、複数の企業から内定が出て迷ったときは、軸に最も合っている企業はどれかという観点で判断すると良いでしょう。

4つの観点で探す・転職の軸の具体例

転職の軸は、下表で示した「人が企業に期待する4つの観点」に注目して整理することもできます。それぞれの観点でどのような軸があるか、いくつかの例をご紹介しましょう。

人が企業に期待する4つの観点

会社の理念や経営方針、事業の方向性「企業理念に共感できる」「社会課題の解決に取り組んでいる」など
仕事内容や商品・サービス「扱う商品やサービスが好きである」「仕事内容が魅力的」「スキルが活かせる」など
経営陣や社員、社風「風通しが良い社風である」「ロールモデルとなる社員がいる」など
給与・人事制度、働き方、ワーク・ライフ・バランス「給与、福利厚生、評価などに満足できる」「テレワークができる」など

会社の理念や経営方針、事業の方向性

転職の目的として「もっと事業にコミットしたい」「社会を支える実感を持ちたい」といった考えを持つ場合は、会社の理念や経営方針の観点に注目する方法もあります。転職の軸の例としては「企業理念に共感できる」「経営陣の思いやビジョンを聞いてワクワクする」などが考えられます。

より具体的な例として、「社会課題の解決に取り組んでいる」「海外への積極的な事業展開を予定している」「今後、飛躍的な成長が見込める」などもあるでしょう。

仕事内容や商品・サービス

「もっと自分の経験・スキルを活かしたい」「スキルアップしたい」と考える方は、仕事内容や商品・サービスの観点で軸を探すのも一案です。例えば「扱う商品やサービスが好きである」「仕事内容が魅力的である」「スキルが活かせる」「資格が活かせる」などが考えられます。

より具体的な例としては、「○億円を超える規模の事業に携われる」「新規事業の立ち上げ経験を積める」「仕事に裁量権がある」「明確なキャリアパスが提示されている」「専門知識や技術が習得できる」なども挙げられるでしょう。

経営陣や社員、社風などについて

「より自分に合った環境で働きたい」「価値観を共有できる人と働きたい」などが転職理由にある方は、経営陣や社員などの「人」にかかわる観点で軸を整理するのも1つの方法です。例えば「風通しの良い社風である」「優秀な社員が多い」などが考えられます。

より具体的な例としては、「ロールモデルとなる社員がいる」「職場の雰囲気が自分に合っている」「年代の近い社員が多い」なども挙げられるでしょう。

給与・人事制度、働き方、ワーク・ライフ・バランスなどについて

「働き方を重視したい」「自分が納得できる制度の会社で働きたい」という希望がある場合は、給与や働き方といった待遇にかかわる観点で軸を検討するのも一案です。例えば「給与、福利厚生、勤務場所、評価、教育制度などに満足できる」などが考えられます。

より具体的な例としては、「副業ができる」「褒賞(インセンティブ)制度がある」「テレワーク(リモートワーク)ができる」「時短勤務ができる」などが挙げられるでしょう。
なお、これらの軸を定める場合は「希望の働き方を実現してパフォーマンスを上げたい」など、「企業に対して自分がどのような貢献ができるか」という観点でアピール内容を考えることが大切です。

転職の軸の探し方・決め方

どのようにしたら、自分の軸を決めることができるでしょうか。転職の軸の探し方・決め方の一例をご紹介します。

転職理由を明らかにする

なぜ転職したいのか、その理由をじっくり考え、自分が転職に何を求めているのか、転職によって何を得たいのかを整理してみましょう。現職への不満や不安な点など、会社を退職したいと思った理由を整理し、「それを解消するためにはどうしたら良いのか」を前向きに考えるところから始めても良いでしょう。

転職先に求める条件を書き出してみる

退職理由や転職理由を踏まえて、転職先に求める条件を思いつく限り洗い出し、書き出してみましょう。例えば「給与が安い」という不満がきっかけであれば「成果が公正に評価されて年収に反映される」、「年功序列のカルチャーが合わない」のであれば「意見が言えるフラットな組織」など、転職で希望を実現するために必要な条件をリスト化してみましょう。

MUSTとWANTに分けて優先順位を決める

転職で実現したいことが複数ある場合は、洗い出した条件に優先順位をつけましょう。一つの方法として、検討する項目全てを「MUST」と「WANT」に分けていくこともおすすめです。

「MUST」――どうしても譲れない必須条件
「WANT」――必須ではないが「あれば尚良い」条件

分類した結果、「MUST」に入ったもの=「最も譲れない条件」が、自身の転職の軸となります。

なお、「MUST」と「WANT」は意識して区別しておかないと、全ての項目に「MUST」レベルの要求をしてしまい、企業の欠点が目に留まりやすくなる傾向があります。その結果、応募したい企業が見つからず、転職活動が長引くことにもなりかねません。また候補の企業が複数ある場合にも「MUST」を指標とすることで、比較検討がしやすくなるでしょう。

転職市場の実情に照らしてチェックする

決めた自分の軸が、実現可能かどうかを、転職市場の相場に照らしてチェックしてみます。転職サイトの求人を閲覧したり、スカウトサービスからのオファーを確認したりすれば、自分の軸が現実的なものかどうかを確かめる一助になるでしょう。

面接で転職の軸を聞かれた場合の答え方

面接で転職の軸を問われる場合の質問例と、回答を準備する場合の構成例、テーマ別の軸の回答例をご紹介します。

転職の軸を問う場合の質問例

転職の面接で企業が転職の軸について聞く場合は、例えば以下のような質問例があります。

「転職で最も重視されていることを教えていただけますか」
「転職をする際に譲れない条件があれば教えてください」
「転職先に一番求めることは何になりますか」
「転職で実現されたいことは様々あると思いますが、もし1つだけ叶えるとしたら何になりますか」

転職の軸を問う場合の構成

面接で転職の軸について質問されたら、以下の構成で答えると採用担当者に伝わりやすくなります。回答を準備する際は、転職理由や志望動機など、他の回答との一貫性も意識しておきましょう。

1.転職で何を実現したいか(結論)
2.その理由
3.入社したら実現したいこと

転職の軸の回答例文

仕事内容

【結論】私が転職する上で最も重視しているのは仕事の内容で、特に新規事業に携わることを希望しています。
【理由】これまで既存事業のテコ入れや、新規事業の創出などを経験してきて、既存事業に関わることも面白いのですが、世の中にないサービスや自社が経験したことがない新しい事業に挑戦することで、自分がより大きなやりがいを感じることに気づきました。
【実現したいこと】現職で新規事業の立ち上げから担当し、○億円規模のサービスまで成長させた経験を活かして、御社でもぜひ、次の事業の柱をゼロから作っていきたいと考えています。

労働環境

【結論】私の転職の軸は、多様な働き方を実現できることです。
【理由】これまで○社で働いてきた中で、働く場所や時間などの自由度が高い環境の方が、組織全体としても成果が出せて、生産性が高く、従業員の満足度も高くなると実感してきました。
【実現したいこと】御社で求められる役割や業績に120%応えながら、自身もメンバーも多様な働き方を通じて、満足度高く、長く働ける組織づくりをしていきたいと考えております。

事業方針

【結論】私が転職先企業に求めるのは、事業理念や方針にブレない芯があることです。
【理由】これまで在籍した企業でのマネジメント経験から、「市場規模が大きい」「参入しやすい」「成長性がある」といった理由だけでメンバーを鼓舞し、事業を成長させることに限界を感じているからです。
【実現したいこと】〇〇という御社の事業理念をより具現化したサービスを展開し、組織全体が一丸となって事業成長に向かえるよう、マネジメント力を発揮したいと思います。

転職エージェントやスカウトサービスに登録するのも一案

「自分一人で考えても軸が決められない」「自分の軸が転職市場の相場にマッチしない」「軸に沿って転職活動を続けているが、軸がずれている気がしてきた」など、困ったことや相談したいことがあれば、転職エージェントに登録して、キャリアアドバイザーなど専門家の意見を仰ぐのも一案です。客観的な視点を持った第三者と対話し、一緒に経験の振り返りを行うことで気付きを得られるかもしれません。スカウトサービス経由で転職エージェントを利用する場合も、同様の支援を受けられる可能性があります。ぜひ活用を検討してみてください。

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アドバイザー

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。