転職の「軸」とは?軸の具体例や決め方、活用方法を解説

オフィスにて談笑をする人たち

転職活動において耳にする「転職の“軸”」。転職の軸があることで、応募企業や入社企業を選びやすくなります。軸とはいったい何なのか、どのように決めるとよいものなのか、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に解説いただきました。

転職の「軸」とは?なぜ軸が必要なのか

転職の「軸」について、明確な定義はありません。あえて説明するならば、転職する際にその人が「大事にしたいこと」。さらに言えば、「転職する目的を実現するために譲れないこと」と考えると整理しやすいでしょう。

例えば、転職する理由や目的が、「○億円を超える規模の新規事業を生み出す力をつけたい」であれば、それを実現するために大事にしたいこととして、「新規事業の立ち上げ経験ができる企業で働く」「成長している領域のスタートアップ企業で働く」などが考えられます。この2つが転職の「軸」となるでしょう。

転職の軸を決めるメリットは?どう活用する?

転職の軸を定めるとどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、軸を決めるメリットと活用法を転職のフェーズごとに説明します。

応募企業を決めるとき

数多くある求人の中から自分に合う企業を見つけ、応募企業を絞っていくには、年収や勤務地といった最低限求める条件だけでは絞りきれません。そこで、「何を大事にするのか」という軸を決めておけば、より自分に合った企業を絞り込むことができます。

活用法としては、例えば「新規事業の立ち上げ経験を積める企業で働く」を軸にした場合、「新規事業」などのキーワードで企業を探すことが考えられます。また、転職エージェントを利用する場合は、担当者にそのキーワードを伝えることでよりスムーズに企業を紹介してもらうことができます。

ただし、軸を決めたらぶれずにその軸だけで企業選びをしなければいけないわけではありません。様々な企業について調べていくうちに軸そのものや、複数ある軸の優先順位が変わることはよくあることですし、問題もありません。その都度、見直し、柔軟に対応するとよいでしょう。

選考を受けるとき

応募書類をつくるときや面接を受けるときも、軸があると、何をアピールするか、また、志望動機として何を伝えるかがクリアになります。また、企業側も、応募者に転職の軸があると、応募者の理解が進み、自社での定着性や活躍可能性を判断しやすくなります。応募者に転職の軸がない場合、何を大事にして転職しようとしているのかがよくわからず、企業の応募者に対する理解が深まりません。理解できないと評価もできないため、採用にもつながりづらいでしょう。軸を決めておくことは、応募者と企業の双方にこのようなメリットがあるのです。

活用法としては、例えば「新規事業の立ち上げ経験を積める企業で働く」を軸として置いた場合、新規事業を立ち上げることができる(または、立ち上げることができる可能性のある)人材であることが、応募書類や面接で伝えらえるようにすることが大切です。具体的には、自己PRとして何かしら新しいものを作った経験や、新しいものを積極的に吸収していく姿勢、挑戦をいとわない姿勢などをアピールしたり、志望理由として軸を伝えたりすることが挙げられます。応募書類や面接の場でアピールができるように、内容を組み立てておくとよいでしょう。

なお、そのままでは企業から評価されづらい軸もあります。例えば、「今より年収が上がること」「ワーク・ライフ・バランスを向上させるため、フルフレックス勤務ができて、平均残業時間も少ないこと」など条件面が軸の場合、面接での伝え方を工夫したり、企業に対して自分がどのような貢献ができるかという観点でアピール内容や志望動機を考えたりすることも必要になるでしょう。

入社企業を決めるとき(複数の内定で迷ったとき)

入社企業を決めるとき、特に、複数の内定で迷ったときは、転職の軸があることで、自分の目指すキャリアの方向性と合致する企業かどうかを判断しやすくなるのも、軸を決めるメリットです。最終段階で転職の軸を基準に判断することで、入社後のミスマッチを予防する効果も期待できるでしょう。

活用法としては、例えば、内定が出た企業に入社すべきかどうかを迷ったときに、軸に合った企業かどうかという観点で決断することが挙げられます。また、複数の企業から内定が出て迷ったときは、軸に最も合っている企業はどれかという観点で判断するとよいでしょう。

転職の軸の具体例

具体的な転職の軸として、どのようなものがあるのでしょうか。4つの観点に分けて示します。

会社の理念や経営方針、事業の方向性などについて

企業・組織のあり方という観点では、「企業理念に共感できる」「経営陣の思いやビジョンを聞いてワクワクする」などが考えられます。より具体的な例としては、「社会課題の解決に取り組んでいる」「海外への積極的な事業展開を予定している」「今後、飛躍的な成長が見込める」などがあるでしょう。

会社の理念や経営方針、事業の方向性に関する軸

「企業理念に共感できる」
「経営陣の思いやビジョンを聞いてワクワクする」
「社会課題の解決に取り組んでいる」
「海外への積極的な事業展開を予定している」
「今後、飛躍的な成長が見込める」

仕事内容や商品・サービスなどについて

仕事内容や商品・サービスという観点では、「扱う商品やサービスが好きである」「仕事内容が魅力的である」「スキルが活かせる」「資格が活かせる」などが考えられます。より具体的な例としては、「○億円を超える規模の事業に携われる」「新規事業の立ち上げ経験を積める」「仕事に裁量権がある」「明確なキャリアパスが提示されている」「専門知識や技術が習得できる」なども挙げられます。

仕事内容や商品・サービスに関する軸

「扱う商品やサービスが好きである」
「仕事内容が魅力的である」
「スキルが活かせる」
「資格が活かせる」
「○億円を超える規模の事業に携われる」
「新規事業の立ち上げ経験を積める」
「仕事に裁量権がある」
「明確なキャリアパスが提示されている」
「専門知識や技術が習得できる」

経営陣や社員、社風などについて

経営陣や社員などの「人」にかかわる観点では、「風通しの良い社風である」「優秀な社員が多い」などが考えられます。より具体的な例としては、「ロールモデルとなる社員がいる」「職場の雰囲気が自分に合っている」「年代の近い社員が多い」なども挙げられるでしょう。

仕事内容や商品・サービスに関する軸

「風通しの良い社風である」
「優秀な社員が多い」
「ロールモデルとなる社員がいる」
「職場の雰囲気が自分に合っている」
「年代の近い社員が多い」

給与・人事制度、働き方、ワーク・ライフ・バランスなどについて

給与や働き方といった待遇にかかわる観点では、「給与、福利厚生、勤務場所、評価、教育制度などに満足できる」などが考えられます。より具体的な例としては、「副業ができる」「褒賞(インセンティブ)制度がある」「テレワーク(リモートワーク)ができる」「時短勤務ができる」なども挙げられます。

仕事内容や商品・サービスに関する軸

「給与、福利厚生、勤務場所、評価、教育制度などに満足できる」
「副業ができる」
「褒賞(インセンティブ)制度がある」
「テレワーク(リモートワーク)ができる」
「時短勤務ができる」

転職の軸の決め方

どのようにしたら、自分の軸を決めることができるでしょうか。3つのステップで考えてみましょう。

【STEP1】転職理由を整理する

なぜ転職したいのか、その理由をじっくり考え、自分が転職に何を求めているのか、転職によって何を得たいのか、その条件を整理してみましょう。現職への不満や不安な点など、退職理由を整理して、解消する方法を考えるところからはじめてもよいでしょう。

【STEP2】自分の優先順位を決める

転職に求める複数の条件について、優先順位をつけましょう。優先順位のつけ方として、2つの方法を紹介します。

【方法1】条件をMUSTとWANTに分けてみる

転職先を選ぶ際に検討する項目全てを「MUST」と「WANT」に分類する方法です。

「MUST」――どうしても譲れない必須条件
「WANT」――必須ではないが「あれば尚良い」条件

分類した結果、「MUST」に入ったものを、軸と考えるとよいでしょう。なお、「MUST」「WANT」を区別しておかないと、全ての項目に「MUST」レベルの要求をしてしまい、企業の欠点が目に留まりやすくなります。その結果、応募したい企業が見つからず、転職活動が長引くことにもなりかねません。候補の企業が複数ある場合にも「MUST」を指標とすることで、比較検討がしやすくなるでしょう。

【方法2】モチベーショングラフを作成してみる

「モチベーショングラフ」を作成して、「自分はどのようなことに対してモチベーションが上がるのか」「どのような場面でやりがいや楽しさを感じるのか」を明確にし、それを優先順位の高い軸とする方法です。

「モチベーショングラフ」は、社会人になってから現在に至るまで、「仕事でモチベーションが上がったとき・下がったとき」を曲線で描くものです。曲線を描いたら「なぜモチベーションが上がったのか/下がったのか」、その理由も考えてみましょう。そうすることで、自身の志向や価値観が整理できるうえ、おのずと軸も見えてきます。

モチベーショングラフの作成例

【STEP3】自分の軸を転職市場の実情に照らして検討する

【STEP2】で決めた自分の軸が、実現可能かどうかを、転職市場の相場に照らしてチェックしましょう。転職サイトの求人を閲覧したり、スカウトサービスからのオファーを確認したりすれば、自分の軸が現実的なものかどうかを確認することができます。

転職エージェントやスカウトサービスに登録するのも一案

「自分一人で考えても軸が決められない」「自分の軸が相場に合っていない」「軸に沿って転職活動を続けているが、軸がずれている気がしてきた」など、困ったことや相談したいことがあれば、転職エージェントやスカウトサービスに登録して、キャリアアドバイザーなど専門家の意見を仰ぐのも一案です。客観的な視点を持った第三者と対話し、一緒に経験の振り返りを行うことで気付きを得られるかもしれません。

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

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