転職時の必要書類と手続きの詳細ガイド【社労士監修】

転職する際には、退職時・入社時にさまざまな手続きを行う必要があります。そのため、必要な書類を把握し、事前に準備しておくことが大事です。退職から入社までに行う手続きや必要書類、注意ポイントなどについて、社会保険労務士の岡佳伸氏に解説いただきました。

退職から入社までに必要な手続きの流れ

転職先と入社予定日を調整した後、現職の上司に退職の申し出を行います。2〜3カ月前の申し出が一般的です。法律上は「2週間前」までに申し出を行えば問題ありませんが、企業によっては就業規則で「1カ月前まで」などの期限が定められていることもあるので確認しましょう。

その後、会社と退職交渉を行い、退職日が確定した後、退職届を提出します。退職日までに、保険証、社員証、パソコンなど会社からの貸与物を返却します。また、退職時や退職後には、転職先で必要になる各種書類を受け取ります。入社時に提出が必要な書類などを転職先に確認しておくと安心できるでしょう。

なお、転職先が決まっている場合は、雇用保険の失業手当(失業保険)は受給できないため、手続きは必要ありません。

【退職時】返却・提出が必要な書類

退職時に、現職の会社に返却・提出することが必要な書類について解説します。

<退職時に返却・提出する書類のチェックリスト>

・退職届・退職願
・健康保険証(被保険者証)
・身分証明書
・勤務先から支給・貸与されていた備品
・業務に関連する書類やデータ

退職届・退職願

一般的に「退職願」は、会社へ退職を願い出て、退職についての合意を得るための書類です。一方「退職届」は、退職を決めた後に届け出る書類とされており、自身の退職意志が確定したことを表明・証明するものです。退職の意思表示は口頭でも可能ですが、トラブルに発展しないよう、事務手続きの記録として書面で提出します。就業規則に期限や書式について定めがある場合は、それに従ったものを提出しましょう。

健康保険証(被保険者証)

健康保険は、加入者が企業を退職した時点で脱退し、転職先の健康保険に新たに加入します。退職後には前職で加入していた健康保険証は使用できないため、勤務先に健康保険証を返却することが必要です。有休消化などで最終出社日に直接返却できない場合は、後日、郵送で返却します。

勤務先から支給・貸与されていた備品

社員証や入館証、社章、IDカードなど、その会社の社員としての身分を証明するものを返却します。また、通勤定期券、制服、鍵、パソコン、携帯電話、名刺など、勤務先から支給・貸与されていたものも全て返却します。自身の名刺も返却しますが、仕事を通じて受け取った名刺も勤務先の所有物になるため、原則的に返却すると考えた方が良いでしょう。

業務に関連する書類やデータ

業務に関連する資料やデータは返却が必要です。退職時のデータの持ち出しは規約違反になる恐れがあります。社内のルール則って対応するようにしましょう。

【退職時・退職後】受け取る必要がある書類

退職時・退職後に受け取ることが必要な書類について解説します。

<退職時に受け取る書類のチェックリスト>

・雇用保険被保険者証
・年金手帳

<退職後に受け取る書類のチェックリスト>

・源泉徴収票
・健康保険/厚生年金保険の資格喪失証明書
・離職届
・退職証明書

【退職時】雇用保険被保険者証

雇用保険に加入していることを証明する書類です。入社後に交付されたものを自身で保管するケースと、勤務先が保管しているケースがあり、後者の場合は受け取りが必要です。転職先で新たに雇用保険に加入する際には、この書類に記載されている雇用保険被保険者番号が必要となります。

【退職時】年金手帳・基礎年金番号通知書

勤務先が年金手帳を預かっているケースもあるので、受け取りを忘れないように注意しましょう。なお、2022年4月1日に年金手帳の新規発行は廃止されたので、今後、新たに国民年金や厚生年金に加入する方は、手帳に代わって交付される基礎年金番号通知書を使用します。

【退職後】源泉徴収票

所得税の年末調整に必要な書類です。退職前の最終の給与計算終了後に発行するため、受け取りは退職後となり、確認・保管に注意が必要です。源泉徴収票は、所得税法(第226条1項)により、退職後1カ月以内に交付することが定められているため、期間を過ぎても郵送されない場合は前職の勤務先に問い合わせましょう。

源泉徴収票は転職先での年末調整の際に提出が必要となりますが、入社日が11月〜12月などの場合、転職先の年末調整に間に合わないケースもあります。その際、自身で翌年に確定申告を行うことが必要となり、源泉徴収票も合わせて提出します。

【退職後】健康保険・厚生年金保険の資格喪失証明書

退職後、転職先に入社するまで1日でも間が空く場合や、転職先が決まっていない場合、自身で国民健康保険に加入することが必要となり、手続き申請の際にこの書類を提出することが必要です。自治体によっては、国民年金への切り替えの際にも提出を求められるケースがあります。

【退職後】離職票

雇用保険の失業手当(失業保険)を受ける際の申請に必要となるもので、離職したことを証明する公的な書類です。雇用保険法で、退職日の翌日から10日以内に前職の勤務先が発行のための手続きを行うので、詳細な受け取り時期を人事部などに確認しておきましょう。

【退職後】退職証明書

勤務先を退職していることを証明する書類です。必ずしも発行されるものではありませんので、必要な場合は勤務先に発行を依頼しましょう。
退職証明書や離職票は、自治体によって国民健康保険に切り替え手続きを行う際にも使用できます。通常は健康保険資格喪失証明書を使用しますが、退職証明書や離職票のみでも届け出を可能とするケースもあります。

【入社時】転職先への提出が必須の書類

転職先に入社する際、提出が必須となる書類について解説します。

<転職先への提出が必須の書類のチェックリスト>

・雇用保険被保険者証
・源泉徴収票
・マイナンバー(個人番号)がわかる書類
・年金手帳
・健康保険扶養者異動届
・扶養控除等(異動)申告書
・給与振込先届出書
・健康診断書

雇用保険被保険者証

転職先に一度提出し、その後は自分で保管するのが一般的です。被保険者番号でも手続きは可能なので、転職先に確認しましょう。

源泉徴収票

転職先での年末調整に使用するため、年末調整を行う時期に間に合うように提出します。源泉徴収票は退職後に給与が支払われてから発行するため、手元に届くまでは1カ月程度の期間が掛かると考えましょう。

マイナンバー(個人番号)がわかる書類

社会保険や雇用保険の手続きにマイナンバー(個人番号)が必要となります。マイナンバーカードの写し(表面・裏面)、または住民票など、個人番号が確認できるものを提出します。

年金手帳

転職先で厚生年金に加入する手続きを行ってもらいます。なお、転職先の事業主が「個人事業主で常時従業員が5人未満」などの場合は、社会保険は任意加入のため、厚生年金に加入していないこともあります。こうした場合は、自身で国民年金に加入する手続きが必要です。

転職先での厚生年金加入手続きには、基礎年金番号やマイナンバーの使用が一般的となっているため、最近は基礎年金番号の確認や年金手帳の提出が求められないケースも増えてきています。自身で国民年金に切り替える手続きを行う際には、基礎年金番号を確認するための書類として年金手帳の提出が必要となります。

※2022年4月以降に国民年金や厚生年金に初めて加入する人には、手帳は発行されず、代わりに基礎年金番号通知書が交付されます。種別変更手続きの際には、この通知書が必要となります。

健康保険扶養者異動届

扶養家族がいる場合、転職先で被扶養者の健康保険加入手続きをしてもらうために、被扶養者異動届を出す必要があります。転職先から用紙を受け取り、必要事項を記入して提出します。被扶養者全員のマイナンバーも必要なので注意しましょう。

扶養控除等(異動)申告書

給与所得の源泉徴収額を計算するために必要な書類です。転職先からの交付を受け、必要事項を記入します。扶養家族の有無にかかわらず提出を求められます。

給与振込先届出書

給与の振込先を申告する書類です。勤務先に指定された用紙に必要事項を記入して提出します。また、勤務先の指定銀行の口座が必要なケースなどもあるので、事前に確認しておきましょう。

健康診断書

入社時には、転職先から「雇入れ時健康診断」の受診を求められます。指定された提携病院などで診断を受け、勤務先に直接、診断書が郵送されるケースが多いですが、自身で病院を探して「雇入れ時健康診断」を受けるケースもあります。

【入社時】転職先の企業によって提出する必要がある書類

転職先の企業によって提出する必要がある書類について解説します。

<転職先の企業によって提出する必要がある書類のチェックリスト>

・退職証明書
・入社承諾書・入社誓約書
・免許や資格の証明書
・身元保証書
・卒業証明書

退職証明書

前職の職務内容や在職期間などのバックグラウンドチェックのために、転職先から退職証明書の提出を求められるケースもあります。転職先に確認の上、提出が必要な場合は、現職の会社を退職することが決まった時点で発行を依頼すると良いでしょう。

入社承諾書・入社誓約書

履歴書の記載に虚偽がないことや就業条件などについて確認・承諾する書類です。転職先から内定を得たタイミングで書類を渡されることもあります。

免許や資格の証明書

転職先の業務に特殊な免許や資格が必要な場合、資格取得を証明する書類の提出を求められることがあります。

身元保証書

転職先に入社する際、身元保証人を立てる必要がある場合に提出します。親や兄弟などの署名、捺印が必要となるケース、親族などの緊急連絡先を提出するだけで良いケースもあります。信用が重視される金融機関などでは提出を求められることが一般的です。

退職から入社までの手続きをスムーズにするための注意点

退職から入社までの手続きをよりスムーズに行うために注意しておきたい点をご紹介します。

業務に使っていたデータを整理する

会社貸与のパソコンやスマートフォンを利用している場合は、返却前にその中身をきちんと整理しましょう。

会社で共有しているクラウドシステム上などにデータを保存している場合は問題ありませんが、貸与されたパソコンなど、ローカルな環境に保存している場合は、どのように取り扱えばいいのか確認しておきましょう。

返却する書類に抜け漏れがないかチェックする

業務に必要な書類・資料、受け取った名刺など、業務に必要なものはすべて後任者に受け渡します。もし取り扱いに迷った場合は、自身で判断せずに上司に相談するようにしましょう。

返却書類に抜け漏れがある場合は、再度、出社して受け渡しを行うことが必要になるので、きちんと確認することをお勧めします。また、持ち出し不可の書類などが自身の荷物に紛れ込まないように注意することも必要です。

退職の際に受け取る書類と入社後に必要な書類を確認する

退職時に会社から受け取る書類には、転職先での入社手続きだけでなく、役所への届出、年末調整、確定申告など、後日に必要となるものもあります。

転職エージェントを活用している場合は事前確認も可能

転職エージェントでは、内定から入社までの手続きなどもサポートしています。転職先で必要になる書類について確認することも可能なので、抜け漏れの心配がある場合は事前に確認してみると良いでしょう。

転職・退職時に必要な公的手続きと注意点

転職・退職時に必要な公的なものとして、健康保険・年金の切り替えや雇用保険の手続きが挙げられます。「すぐに次の企業に入社する場合」と「転職先が決まっていない場合(もしくは、入社までにブランクがある場合)」に分けて、それぞれの手続きにおける注意点をご紹介します。

すぐに次の企業に入社する場合

退職後、転職先にすぐ入社することが決まっている場合でも「退職日の翌日に転職先に入社するケース」と「入社までに日にちが空くケース」では手続き内容が違う部分もあるので、しっかりと把握しておきましょう。

健康保険

入社後、転職先が健康保険に加入するための手続きを行います。扶養家族がいる方は、同時に被扶養者の分の必要書類も提出します。新しい健康保険証は、転職先が手続き・申請を行った後、1週間から3週間前後の期間を経て転職先宛てに届けられることが一般的です。

また、先にも述べた通り、退職から転職先に入社するまで1日でも間が空く場合には、自身で国民健康保険に加入する手続きが必要となります。転職先に入社し、企業の健康保険への加入手続きが完了した後に、自身で国民健康保険から脱退する手続きを行います。

なお、転職先の事業主が社会保険に加入していない場合は、自身で国民健康保険に加入する手続きを行います。

雇用保険(失業保険)

転職先が決まっている場合は受給資格がなく、手続きも不要です。転職先に雇用保険被保険者証を提出すれば、必要な手続きを行ってくれます。

公的年金

転職先に基礎年金番号やマイナンバーを提出すれば、手続きをしてくれます。その月の保険料を納付しなければならないかどうかは月末に被保険者であるかどうかで決まります。退職日を月末とし、翌月の1日付で転職先に入社した場合は、1日も空けず厚生年金に加入に加入し続けることとなるため、国民年金に切り替える手続きは必要ありません。

しかし、月末より前に退職し、その月末時点で就職していない場合は、国民年金への切り替え手続きを行い、退職月の国民年金保険料を納めることが必要となります。例えば、3月30日に退職し、4月1日に転職先に入社するなど、転職の合間が1日のみの場合でも同様です。

切り替え手続きを行わない場合でも日本年金機構から手続きをするよう書類が届きますが、なお手続きを行わない場合には職権で加入手続きが取られることもあります。手続きをしない場合や、加入しても保険料を納付しなかった場合には、退職月分の国民年金保険料が未納となり、将来の年金が未納となった月分、少なくなってしまうので注意しましょう。

転職先に入社後は、再度、厚生年金保険に加入する手続きを行ってもらえます。年金制度は基礎年金番号で一元管理されているため、転職の合間に加入した国民年金をやめる手続きは、自身で行う必要はありません。

転職先が決まっていない場合

次の転職先が決まっていない場合には、自身で各種公的手続きを行うことが必要です。それぞれの詳細と注意点をしっかりと把握しましょう。

健康保険

退職日の翌日から無保険となるため、自身で公的健康保険への加入手続きをする必要があります。健康保険に加入する方法としては、以下の3つの方法が挙げられます。

(1)「任意継続被保険者制度」を利用する

退職後も前職の企業の健康保険に最長2年まで継続して加入できる制度です。加入する条件は、「資格喪失日までに健康保険の被保険者期間が継続して2カ月以上あること」「資格喪失日(退職日の翌日など)から20日以内に『任意継続被保険者資格取得申出書』を提出すること」です。前職の健康保険組合などに問い合わせてみましょう。

(2)「国民健康保険」に加入する

離職日の翌日から14日以内に住民票のある市区町村役場で手続きしましょう。

(3)「家族の健康保険」に被扶養者として加入する

前職を退職した後、求職期間が生じる場合、雇用保険の基本手当(失業保険)の受給開始前の期間については、家族が加入している健康保険の被扶養者となることも可能です。

雇用保険(失業保険)

原則、自身の住所地を管轄するハローワークに離職票などを持参し、受給申請の手続きをします。会社都合による退職の場合は7日の待期期間(離職票の提出し、求職の申込みを行った日から通算した7日間のこと)の後、約1カ月の失業実績確認期間を経て手当てが支給されます。自己都合の退職の場合は、2カ月または3カ月の給付制限期間と約1カ月の失業実績確認期間を経て支給されるため、さらに間が空くことに注意しましょう。

また、就職をする意思がない方、ケガや病気、妊娠・出産などですぐに就職するのが困難な方などは、失業保険の対象外となりますが、「就職可能な時期になれば働く意思がある」という場合は、基本手当の受給期間延長手続きをしておきましょう。基本手当(失業保険)の受給期間は、原則として離職した日の翌日から1年間に限られ、通常は、離職してから1年を超えると雇用保険の給付が受けることができなくなります。

しかし、受給期間中に病気、けが、出産などの理由によって引き続き30日以上、働くことができなくなった場合は、働ける状態になるまで雇用保険の受給を保留し、受給期間を働くことのできなくなった日数分、延長できます。延長できる期間は、最長3年まで認められ、本来の受給期間の1年を含めると合計4年です。まずはハローワークで相談すると良いでしょう。

公的年金

「転職先にすぐ入社しない」「転職先が決まっていない」などで無職の期間がある場合は、国民年金に切り替えが必要です。退職の翌日から14日以内に、住民票のある市区町村役場で手続きしましょう。必要な書類は、年金手帳(基礎年金番号通知)、マイナンバーがわかる書類、離職票、厚生年金保険の資格喪失証明書など、自治体によって異なるので、あらかじめ調べておくことが大切です。

転職に必要な手続き・書類のよくあるQ&A

転職の手続きや書類について、よくあるQ&Aをご紹介します。

転職後、必要な書類を紛失していることに気づいたら?

公的書類の場合は再発行できるものも多いので、迅速に再発行の手続きをしましょう。前職の会社から受け取る書類の場合は紛失した旨を伝えて、新しい書類を用意してもらう必要があります。再発行に時間がかかるケースもあるので気づいた時点でなるべく早く対応することが大事です。

源泉徴収票を発行してもらえない場合は?

企業には源泉徴収票の発行が義務付けられています。不発行の場合は所轄の税務署にて「源泉徴収票不交付の届出書」を提出すれば、企業への指導が入り、交付してもらうことができるでしょう。倒産などで企業の実体がない場合は、税務署に相談してみることをお勧めします。

転職先への提出書類が期限に間に合わない場合は?

提出が間に合わないと分かった時点で、すみやかに転職先の担当者に事情を説明し、指示を仰ぎましょう。提出できそうな大体のスケジュールまで伝えることが大事です。

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社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 岡 佳伸氏

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。