
転職を決意したとき、現職を続けながら転職活動をするか、退職して転職活動に集中するか、迷う方もいるようです。まずは、在職中・退職後の転職活動、それぞれのメリット・デメリットを理解し、自身に合う方法を選ぶことが大切です。そこで、双方のメリット・デメリットをはじめ、在職中に転職活動をする場合のスムーズな進め方や注意点などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
在職中に転職活動する人は約4割
株式会社リクルートが、実際に転職を果たした人を対象に、在職中と退職後のどちらに転職活動を行ったかを尋ねた最新調査(2022年実施)によると、転職前と転職後ともに正社員・正職員である20~50代の転職経験者のうち、「現在の勤務先が決まってから、前の勤務先を退職した」人は38.5%、「前の勤務先を退職した後に、現在の勤務先が決まった」人は44.1%、「前の勤務先の退職と、現在の勤務先が決まるのがほぼ同時だった」人は16.7%となりました。在職中に転職活動をする人も、転職先が決まる前に離職する人もおよそ4割と、近い割合でいることが見てとれます。
出典:株式会社リクルート「就業者の転職や価値観等に関する実態調査2022」
在職中と退職後の転職活動のメリット・デメリット
在職中の転職活動、退職後の転職活動、それぞれメリットもあればデメリットもあります。以下に挙げるそれぞれのメリット・デメリットをふまえて、自身の状況に適した進め方を検討しましょう。
在職中に転職活動を行うメリット
在職中に転職活動を行う主なメリットには、次の3つが挙げられます。
・収⼊面の不安がない
・ブランクなく次の仕事に就ける
・現職にとどまる選択肢がある
転職活動の期間の目安は、一般的に3カ月程度とされていますが、長引くケースもあります。その間、在職中であれば現職の給与を得ることができるため、収入面に不安を覚えずに納得がいくまでじっくりと転職活動に取り組める可能性が高くなります。
また、在職中に転職活動を行えば、ブランクなしで次の仕事に就くことができます。退職後に転職活動を行う場合、ブランクが長くなると企業からブランクの理由について懸念されたり、自分自身がブランクに対して「仕事の勘やスキルが鈍るのではないか」という不安を抱えたりするかもしれませんが、在職中であればその心配はないでしょう。
さらに、「転職活動を進めた結果、現職にとどまる」という選択ができる点もメリットと言えます。希望に合う転職先が見つからないケースや、さまざまな企業を見る中で「現職の職場のほうが待遇や環境が良い」などと気づくケースもあるでしょう。
在職中に転職活動を行うデメリット
一方、在職中の転職活動には、以下のようなデメリットもあります。
・現職の業務と並行して行うため、活動時間が限られる
・退職時期と入社時期の折り合いがつかない場合がある
転職活動には、情報収集や応募書類の作成、1社につき複数回にわたる面接など、時間と手間がかかります。在職中の場合、それらと現職の業務を並行して行わなければならないため、転職活動に割くことのできる時間が限られ、集中しにくいと言えます。現職の業務時間内に面接を設定することが難しい点もデメリットと言えるでしょう。
また、希望する企業から内定を得ても「現職を退職する時期」と「内定先が求めている入社時期」の折り合いがつかないケースもあります。入社予定日に間に合わせるために、強引に退職予定日を決めようとした場合、現職の職場とトラブルになる可能性も考えられます。
退職後に転職活動を行うメリット
退職後に転職活動を行う主なメリットには、次の3つが挙げられます。
・転職活動に集中して取り組める
・面接の日程を調整しやすい
・内定後、入社日を調整しやすい
退職後の転職活動は、現職の業務と並行して行う必要がないため、時間の面でも体力の面でも余裕があり、集中して取り組みやすいと言えるでしょう。
また、平日の昼間などに面接を受けやすいという点もメリットです。中途採用の選考では、早ければ応募から数日で面接を設定するケースもあるため、急なスケジュールにも対応しやすいでしょう。中途採用は選考を進めた順に採用枠が埋まっていく可能性があるため、できる限り早く選考を進めておくと良いと言えます。
企業によっては、事業計画や採用計画に沿って働き始めることができる人材を採用したいケースもあります。内定後、現職との退職交渉や退職日の調整をする必要がないため、入社日に関する内定先の要望に応えやすいでしょう。
退職後に転職活動を行うデメリット
退職後の転職活動には、以下のようなデメリットもあります。
・安定した収入を得られないことが多い
・企業から業務にあたっての影響がないか確認される場合がある
離職中は安定した収入を得られない可能性が高いため、生活への不安や焦りからミスマッチの企業を選んでしまうケースがあります。また、希望に合う企業から内定を得られず、転職活動が長引いてしまう可能性もあるでしょう。
その結果、離職期間が1年などの長期に渡った場合、企業から「その期間に何をしていたのか」「仕事への意欲が低いのではないか」「転職先が決まらなかった背景には何らかの要因があるのではないか」など、企業から業務にあたっての影響がないか確認される可能性もあります。
在職中の転職活動をスムーズに進めるポイント
在職中に転職活動を行う際は、次の点を実践すると、よりスムーズに進められるでしょう。
転職したい時期から逆算して計画する
転職活動にかかる期間は、準備から内定・入社まで一般的に3カ月程度とされています。転職したいと考えている時期や、現職を退職しやすい時期から逆算して計画を立てると、よりスムーズに転職活動を進められるでしょう。現職の会社の繁忙期や、現在担当しているプロジェクトの終了時期なども考慮すると引き継ぎがしやすくなります。
また、ゴールまでの期限を決めておくことで、転職活動を長引かせない意識が芽生え、自身のモチベーションの維持にも役立つでしょう。
転職の目的を明確にし、希望条件に優先順位をつける
転職先で実現したいことや、転職の目的を明確にした上で、仕事内容、収入、待遇、ワーク・ライフ・バランス、社風・企業文化、キャリア形成などにおける希望条件を考えておきましょう。その上で、それぞれに優先順位をつけておくと、並行して複数の企業の選考を受ける際に比較・検討がしやすくなるため、時間がない在職中の転職活動を効率良く進めることができるでしょう。また、内定を承諾するかどうかを迅速に判断する際の材料としても役立ちます。
業務終了後の時間や休日、有給休暇を活用する
自己分析やキャリアの棚卸し、情報収集、企業研究などの転職準備を進める際には、業務終了後の時間や休日などを計画的に活用することが大事です。また、ゴールデンウィークや年末年始などの長期休暇を活用して集中的に取り組む方法もあります。
面接の日程を平日の業務時間内に指定されることもありますが、応募企業に在職中の転職活動であることを伝えた上で、業務時間外や休日に設定してもらえるよう相談すると良いでしょう。対応してもらえない場合、有給休暇や時間休などを活用することも一案です。
在職中の企業での人間関係を良好に保つ
退職交渉の際にトラブルにならないよう、日頃から職場の人間関係を良好に保つことも重要です。応募企業がリファレンスチェックを実施する可能性も踏まえ、留意しておきたい点です。
Web面接(オンライン面接)を活用する
「日程調整をしやすい」「遠隔地からの応募者に対応しやすい」といった利点から、面接をWeb(オンライン)で実施している企業も見られます。対面での面接を打診された際、日程や場所の都合でWeb面接の方が融通が利くようであれば、Web面接を実施してもらえないか相談することも一案です。
在職中の転職活動の履歴書の書き方
在職中に転職活動を行う場合は、「本人希望記入」欄を利用して連絡手段や連絡可能な時間帯などを伝えるという方法があります。また、履歴書の「学歴・職歴」欄の記入方法も解説します。
「職歴欄」の最後は「現在に至る」と記載
在職中の場合、履歴書の「職歴」の最後に「現在に至る」と記入します。「現在に至る」という記載は「現在も、その直前に記載されている職場に在籍している」ということを示すものであるため、自身が在職中であることが企業に伝わります。
連絡手段と連絡可能な時間帯を記載
在職中の場合、応募企業からの電話連絡に対応できないこともあるでしょう。そこで、「本人希望記入欄」に、「連絡を取りにくい時間帯・取りやすい時間帯」「連絡を取りやすい手段」などを記入しておくと、やりとりがスムーズになります。下記に例文をご紹介します。
<例文>
現在就業中のため、大変恐縮ですが、平日10時~18時は留守番電話にメッセージを残していただくか、メールにてご連絡いただけますと幸いです。
退職予定日・入社可能日を記載
退職日が決まっている、退職予定日の目処が立っているといった場合は、「本人希望記入欄」に「退職予定日」「入社可能日」などを明記しておくと良いでしょう。企業が入社時期の見通しを立てやすくなります。
特に、新規事業の立ち上げや急な欠員補充に伴う求人などの場合は、入社可能日が採用計画に合致していることが、選考にプラスの影響を与える可能性があります。反対に、具体的な退職予定日が決まっていない場合は、記載しないほうが良いでしょう。
<例文>
退職予定日:20XX年X月X日 入社可能日:20XX年X月X日より就業可能
在職中の転職活動でよくあるトラブルと対策
在職中に転職活動を行う場合に起こりやすいトラブルの一例としては、次の3つが挙げられます。転職活動も、退職交渉もスムーズに進められるよう、あらかじめ対応策を把握し、準備しておくと良いでしょう。
例1:会社に慰留され、退職手続きが進まない
急な退職の申し出により後任が見つからず、担当業務の引き継ぎができないなどの問題が発生して会社に慰留されるケースがあります。こうした事態を避けるには、退職を申し出るタイミングが重要です。
退職の申し出は、法的には退職日の2週間前までに行うこととされていますが、企業の多くは、1~2カ月前に申し出ることを就業規則に明記しているケースが一般的です。 所属企業の規則がどのようになっているか、事前に確認しておくようにしましょう。
特に、管理職・専門職など、責任あるポストに就いている場合は「社内の重要人材」と見なされ、強い引きとめを受ける場合があります。その際、年収やポスト、異動などの待遇面で、魅力的な条件を提示されるケースもあります。好条件を示されても冷静に受け止め、転職の目的を再度確認した上で検討することが大切です。また、退職交渉の期間に余裕を持つことも重要です。長くなると、交渉そのものに半年以上かかることもあります。
法律や就業規則上は問題のないタイミングであったとしても、今後のビジネスで現職企業との接点を持つ可能性や、転職時のリファレンスチェックに影響する可能性なども踏まえ、転職先が決まれば早めに申し出る、現職の職場に配慮したタイミングでの退職を目指す、これまでお世話になったことに対して感謝の意を伝えることなどに努めましょう。
なお、内定から退職手続きまでの一般的なスケジュールは次の通りです。
- 退職の意思表示、業務の引き継ぎ:1カ月前
- 退職届の提出:1カ月~2週間前
例2:転職活動が職場に知られて、仕事も転職活動もやりにくくなった
転職活動をしていることが職場に知られてしまったために、会社に居づらくなってしまうケースは少なくありません。内密に転職活動を進めるためには、次の点に注意しましょう。
- 平日の日中は、応募企業との連絡手段はメールなどにしてもらう(電話の場合、通話内容を聞かれる可能性がある)
- 面接は業務時間外に設定してもらう(業務時間内の面接のために有給休暇の取得を繰り返すと、何かあったのか心配される可能性がある)
- 出社時の服装は、できるだけ転職活動前と変えない(私服勤務で、面接予定日のみスーツを着用すると疑われる可能性がある)
- 同僚に転職活動の話は一切しない(社内に噂が広まる可能性がある)
- SNSに転職活動に関する情報を投稿しない(直接つながっていなくても見られる可能性がある)
- 転職活動には会社支給のパソコンやスマートフォンを使わない(会社支給の備品を私用で使うことはそもそもNGである上、スケジュールの書き込みやオンライン面接などに使用して発覚するケースもある)
例3:引き継ぎがうまくいかず、入社予定日までの退職が難しい
現職の退職予定日までに必要な引き継ぎを終えられない場合、引き継ぎが不十分なまま退職日を迎えて気まずい思いをするケースもあり得ます。引き継ぎがスムーズに進まない場合を想定して、計画的に引き継ぎを行えるよう準備をしておくと良いでしょう。
在職中の転職活動の注意点
在職中に転職活動を行うに際しては、以下のポイントに注意してください。
退職予定日に余裕を持つ
先にも触れたとおり、「内定後、現職に退職意思を申し出たら強く引きとめられ、話し合いが難航した」「後任者の手配が遅れ、引き継ぎが進まなかった」などの事情により、想定していた退職日に退職することが難しくなることがあります。
退職予定日はなるべく余裕を持って設定するほか、転職活動と同時に引き継ぎを想定した準備を進めておくと良いでしょう。
「競業避止義務」に配慮する
同業他社に転職を検討している場合、特に注意が必要です。企業は労働契約等を結んだ従業員や役員に対し「競業避止義務」を課すことができ「同業他社への転職を可能とするまでの期間を定める」などの制限を設けることも可能とされています。違反した場合は、損害賠償の請求などのトラブルにつながるケースもあるので、注意しましょう。詳細は、以下の記事で解説しています。
転職エージェント・スカウトサービスの活用で、在職中の転職活動をスムーズに
転職エージェントを利用すると、自身の経験・スキルや希望条件にマッチする求人の紹介を受けられます。また、スカウトサービスに登録しておけば、自身のキャリアに興味を持った企業や転職エージェントからスカウトメールが届きます。いずれの方法も、在職中の転職活動に活用すれば、限られた時間の中でも効率的に情報収集ができ、転職先の候補の絞り込みがしやすくなるでしょう。
転職エージェントを活用すると、応募企業とのやりとりや面接日の設定などのサポートのほか、履歴書や職務経歴書の作成や面接対策のアドバイスも受けられます。転職エージェント・スカウトサービスの活用することで、転職活動をスムーズに進めることができるでしょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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