未経験転職を目指す場合、「志望動機に何を書けばいいのかわからない」「履歴書にどのような内容を記載すればアピールできるのだろうか」などと悩む方もいるでしょう。未経験で異業界・異業種・異職種への転職を目指す場合の志望動機の書き方や企業が確認していることについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。未経験転職の志望動機のNGポイントや例文などもご紹介するので、参考にしてみてください。
目次
未経験で異業種・異職種への転職は可能?
まずは、未経験者の転職市場の状況や可能性のある業界・職種・企業などについて解説します。
未経験で異業種・異職種に転職する人は増加している
株式会社リクルートが実施した転職支援サービス『リクルートエージェント』の転職決定者分析のレポート(※1)によれば、2022年度の転職決定者の業種・職種における転職パターンを分析したところ、「異業種×異職種」が約4割(39.3%)となっていました。2021年度の37.1%より2.2pt増加し、過去10年間で最も高い割合を占めています。
また、「異業種×同職種」は32.0%、「同業種×異職種」は11.0%で、全体の約8割が異業種や異職種への転職を実現している様子が窺えます。未経験で異業種や異職種に転職するのは、珍しいことではないと言えるでしょう。
(※1)出典:株式会社リクルート「転職者分析(2013年度~2022年度)」 (https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2023/1129_12773.html)
業界・企業・職種による違いもある
未経験者を募集・歓迎する求人が多いかどうかは、業界・職種・企業などによっても違いがあるでしょう。特に、慢性的に人手不足の業界・企業の場合は、未経験人材の採用・育成に積極的な傾向があります。
厚生労働省が発表した「労働経済動向調査(令和5年5月)の概況」(※2)によれば、令和5年5月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.(※3)では、特に「運輸業・郵便業」「建設業」「医療、福祉」などの産業領域では、人手不足感が高いとしています。
また、IT業界やIT関連の職種なども人材不足が続いており、経済産業省のIT人材需給の試算(※4)によれば「2030年には約79万人が不足する」と予測されています。
一方、人手不足ではない業界・企業でも、新規事業の立ち上げや事業拡大に伴い、営業職などを大量採用するケースも見られます。こうした場合は、未経験の人材も可とすることが少なくないでしょう。ただし、高度な専門性や資格などを要する業界・職種の場合は、経験・スキルがある人材を求める傾向があり、募集する人員の枠が少ないケースもあるため、未経験者の転職実現は難しいと言えるかもしれません。
(※2)出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/2305/)
(※3)「D.I.」(ディー・アイ)とは、Diffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略で、景気動向の方向性を示す指数のこと。具体的には、企業の業況感や設備、雇用人員の過不足などの各種判断を指数化したものを指す。
(※4)出典:経済産業省ホームページ(https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/daiyoji_sangyo_skill/pdf/001_06_00.pdf)
企業は未経験者の志望動機で何を確認しているのか
識者の経験を基に、企業が志望動機を通じて確認している点を解説します。
企業が求める人物像や自社の文化にマッチしているか
一般的に、企業は「長く定着し、活躍・貢献してくれる人材」を求める傾向があるため、志望動機においても、自社が求める人物像や企業文化にマッチしている人材かどうかを確認しています。
中途採用は即戦力採用を基本とするケースが多く見られますが、未経験者を採用する場合は、自社で活躍している人物像にマッチしていることや、カルチャーマッチしていることを重視し、将来的に組織の中核を担う存在となることにも期待しているでしょう。
応募する業界・企業・職種の研究をしっかりと行い、「どのような人物が求められているのか」「どういった企業文化があるのか」を調べて理解を深めた上で、自身との接点を見つけることが重要です。
これまでの経験・スキルを未経験の業界・職種でどう活かせるのか
先にも述べた通り、中途採用は即戦力採用を基本とすることが多いため、応募する業界・業種・職種における経験がない場合でも「これまでの経験・スキルをいかに活かせるか」が重視されるでしょう。 そのため、異業界・異業種・異職種でも活かせるこれまでの経験・スキルや、発揮できる強みをアピールすることがポイントです。
「未経験歓迎の求人だから、経験・スキルはなくて当然。熱意や人柄のアピールのみに注力すればいい」と考えることなく、自身の経験・スキルの中から応募企業に合致するものを探し、志望動機を通じてアピールすることも大事でしょう。
また、同職種で異業界や異業種に応募する場合は、自社とは異なる業界・業種で身につけた知見や着眼点などに期待するケースもあります。
入社意欲や仕事への熱意が高いか
経験・スキルが不足している未経験者の場合は、入社意欲や仕事への熱意の高さなども評価のポイントになります。企業は、志望動機を通じて、意欲的に仕事に取り組み、長く定着して活躍してくれる人材かどうかを確認しているでしょう。
ただし、単に「意欲や熱意がある」という思いのみを伝えても説得力がないと判断される可能性があるため、その裏付けとなる背景や根拠などを具体的に示すことが必要です。
自ら学ぶ姿勢を持っているか
中途採用の場合は、新卒採用と違って基礎研修などを用意していない企業も少なくはありません。そのため、自ら学ぶ姿勢があるか、自律的に業務に必要な知識を吸収していけるかなども、重要な指標となります。
志望動機を作成する際には、業務に活かせる知識を学んだり、資格取得のために励んでいたりすることなどもアピールするとプラスの判断につながりやすいでしょう。
入社後のキャリアビジョンを持っているか
これまでのキャリアと、応募する業界・業種・職種が大きく変わっている場合は、「キャリアの一貫性」を懸念されることもあります。キャリアに一貫性がない場合は、入社後に「やはり合わない」と感じて早期離職する可能性もあるため、企業は入社後のキャリアビジョンを持っているかどうかを確認し、早期離職につながりやすい人材かどうかも見極めているでしょう。
応募企業に入社することを想定し、「5年後、10年後にどのようなキャリアを築きたいのか」を明確にした上で、志望動機で「将来、どのような活躍・貢献をしていきたいのか」まで伝えることがポイントです。
未経験転職で志望動機を書く際のポイント【例文あり】
未経験転職を目指す場合、履歴書に志望動機を書く際のポイントをご紹介します。
ポイント1 応募企業を選んだ理由
未経験転職において採用担当者が知りたい情報の1つは、「なぜ業界や職種を変えて、応募企業を選んだのか」ということです。その企業や職種を志望した理由について説得力がある内容を意識し、採用担当者に納得感を持たせられるかどうかが重要なポイントです。転職を希望する業界・企業・職種についてしっかりと調べて理解を深めた上で、自身の転職理由や経験・スキル・強み、キャリアビジョンとの接点などを簡潔にアピールしましょう。
以下の例文を参考にしてみてください。
<例文>営業→コンサルタント
現職の営業では、自社商品を前提とした提案しか行えず、顧客の課題を解決しきれないと感じております。よりクライアントの本質的な経営課題の解決に寄与する仕事をしていきたいと考え、コンサルティング業界への転職を決意しました。
<例文>広報→異業界の広報
前職でも広報を担当していましたが、ニッチな業界のため、新たなチャレンジに積極的ではない状況がありました。人的資本開示やDE&Iなどに先進的に取り組まれ、企業として社会に貢献するチャレンジを数多く実践している貴社にて、より幅広い領域で広報の経験を活かしたいと考えて志望いたしました。
ポイント2 経験・スキルをどう活かすか
採用担当者は、「未経験の業界・職種で、自分の経験・スキルをどのように活かせると考えているのか」という点も知りたいと考えています。
「募集要項」「仕事内容」「求める人物像」などを確認し、これまで培ってきた経験・スキルに共通するものを探した上で、「入社後どのように活かせると考えているか」をアピールします。過去のエピソードや実績を用いて具体的かつ簡潔にまとめましょう。また、応募企業や応募職種に活かせる資格などを取得していたり、取得する予定があったりした場合は、履歴書に記載することをおすすめします。未経験からキャッチアップする意欲や姿勢のアピールにつながりやすいでしょう。
<例文>製造業界の営業→IT業界のカスタマーサクセス
IT業界のカスタマーサクセスは未経験ですが、製造業界の営業として製造現場の課題を理解し、課題解決の提案を続けてきた経験があります。製造現場における専門知識や現場で得た知見を貴社が展開する製造業界関連のサービス活用と機能拡張の提案に活かしながら、大手法人顧客に対するソリューション営業に貢献していきたいと考えております。
<例文>会計コンサルタント→事業会社の経理
経理業務は未経験ではありますが、現在、転職に向けて簿記の資格の勉強を続け、年内の取得を目指しております。これまで会計コンサルタントとしてデータをスピーディに集計してきた経験なども活かして、貴社の経理業務に貢献したいと考えておりますので、面接の機会をいただけますよう、何卒よろしくお願いいたします。
未経験転職で志望動機を書く際の注意点
未経験転職で志望動機を書く際に気をつけておきたい点をご紹介します。
転職理由を明確に伝える
未経験者の場合は、なぜこれまでの経験・スキルを活かせる業界・業種・職種を選ばず、新たなチャレンジをしようと思ったのかを明確にすることが大切です。
応募企業「ならでは」を意識する
未経験転職だからこそ、採用担当者は応募者の入社意欲の高さや熱意、自社の事業や業務に対する理解度を確認したいと考えています。企業や業界をしっかりリサーチして、応募企業「ならでは」を伝えられるような志望動機を書きましょう。その際、競合他社にも共通するような志望動機を伝えても、「自社でなくてもいいのでは?」と判断される可能性があります。また、求人情報や企業のホームページに書いてある言葉をそのまま転用した場合は、「表面的な情報しか調べていない」と判断されてしまうかもしれません。
特に、待遇・福利厚生などの条件面や企業規模の大きさ、経営の安定性などは、ほかの企業に当てはまるため、主な志望動機として履歴書に記載することはおすすめできません。
企業理念や企業文化、事業の特性など、その企業ならではの魅力に着目し、自身との共通点を伝えることが重要になるでしょう。
活躍できることを「具体的」にアピールする
これまでの経験・スキルは具体的な表現で記載するとよいでしょう。例えば、「営業経験を通して」や「プロジェクトマネジメントスキルを活かして」というように職種を通じて身につけた経験などを抽象的に記載した場合は、採用担当者から「その経験スキルを自社で具体的にどのように活かせるのかわからない」「同じような経験を持つ人材なら、同業界の経験者のほうが即戦力となる」などと判断される可能性があります。
先にも述べた通り、中途採用では即戦力採用を基本とするため、「未経験でも入社後の活躍が期待できる」「早期に業務をキャッチアップできるポテンシャルがある」「自社にない新しい知見を持ち込んでくれそう」などの即戦力としての要素も求められています。例えば、同業界の中でWebエンジニアから未経験職種の人事に転職を考えている場合、「エンジニアの経験から現場の心理や専門用語がわかる」など、実績や実際のエピソードをベースにした具体例を示し、活躍できることをアピールすることがポイントです。
また、入社後のキャリアビジョンとして、将来的にどのような領域で活躍・貢献していきたいかを具体的に伝えることでも、よりアピールにつながりやすいでしょう。
未経験転職でよく見られる3つのパターンと特徴
未経験の業界・職種への転職を目指す「未経験転職」は、おおまかには以下の3パターンに分けることができます。
・未経験業界×経験職種:
職種は同じで業界を変えるパターン。製薬会社のMR→IT企業の営業、アパレル(小売り)企業の財務→人材サービス会社の財務など、職種の専門性は変えない転職。
・経験業界×未経験職種:
業界は同じで職種を変えるパターン。電機・機械メーカーの営業→電機・機械メーカーのマーケティング、IT企業のコンサルタント→IT企業の人事など。
・未経験業界×未経験職種:
業界も職種も変えるパターン。食品販売会社の店長→ECサービス企業のカスタマー対応SV(スーパーバイザー)、証券会社の営業→IT企業のエンジニアなど。
一般的に中途採用では、職種の経験・専門性があるほど即戦力人材とみなされることがあります。未経験のギャップを埋めるためには、志望動機で今の仕事と応募企業での仕事の共通点や接点をできるだけ提示し、「未経験でも、強みを活かすことで即戦力に近づける」というアピールにつなげることが重要なポイントになるでしょう。
【パターン別】未経験転職の志望動機の例文
志望動機の一般的な構成としては「志望理由」「活かせる経験・スキル」「入社後に実現したいこと」という3つの要素があります。
ここからは未経験転職のパターン別に、志望動機のポイントと履歴書に書く際の例文をご紹介します。 面接では履歴書の記述を元にさらに深掘りされることが多いので、面接で志望動機を伝えるための準備にも役立ててください。
「未経験業界×経験職種」の志望動機【営業職の例文あり】
同じ職種であっても業界が異なると、商品やサービス、仕事の内容や目的、方法なども変わってきます。自身が経験してきたことを「いつ」「どこで」「だれと」「何を」「なぜ」「どのように」の5W1Hで整理し、応募企業で求められている仕事との共通点を見つけ、経験を活かせる部分を探しましょう。また、実績を出すためにどのような創意工夫をしてきたかも整理しておき、面接で仕事への取り組み方が伝えられるようにすることが重要です。
【事例:製薬会社のMR→IT企業(SIer)の営業】
製薬会社のMRとして医療現場を見てきた私は、IT活用で医療を効率化する価値の大きさを実感した経験から「医療に直接関わるよりも、ITからアプローチした方が医療現場の変革に貢献できるのではないか」と考えるようになりました。
電子カルテや輸血システムなど、「IT×医療」のプロダクトを総合的に扱う貴社は、国内の医療システム開発の最先端を走っています。MRとして新薬販売プロジェクトのリーダーを務めた経験を活かし、貴社においては新たな領域や価値を医療業界へ提案していきたいと考えて志望いたしました。将来的には営業マネジャーとして組織を牽引する存在になりたいと考えております。
「経験業界×未経験職種」の志望動機【Web業界の例文あり】
「業界経験者なら異職種でもすぐにキャッチアップできそうだ」と思う方もいるかもしれませんが、業界知識があることと、応募職種への理解や適正があるかは別の問題と言えます。今までの職務経歴の中から、新たな職種と共通する経験や、活かせる経験をできるだけ多く洗い出してアピールしましょう。業界に対する知識や理解の深さと共に、「なぜ職種を変え、今までと違う形で取り組みたいのか」を確認されることが多いので、説得力のある志望動機を準備することも大事です。
【事例:Web業界エンジニア→Web業界人事】
現職において、組織体制の課題によって技術力のあるエンジニアが個人の力を発揮できない状況となり、開発がうまく進まないケースに幾度も遭遇したことから、人事領域に興味を持つようになりました。エンジニア出身のため、技術用語や最新動向、エンジニアの心理の把握などがしやすく、早期に業務をキャッチアップできる上、採用や評価、組織作り、教育研修でもこれまでの知見を活かせると考えております。先見性を持ち、常に業界をリードする貴社において、エンジニアならではの経験を活かし、事業プロダクトの成長を支える人事として貢献していきたいと考えております。
「未経験業界×未経験職種」の志望動機【マネジャーの例文あり】
業界・職種ともに全くの未経験者の場合は、業界・企業・職種についてしっかりと調べ、未経験なりに理解を深めておくことが重要です。その上で、過去の経験と応募企業との接点や、現職と希望職種の共通項を洗い出していきましょう。未知の分野への転職では、業界・職種に関わりなくどのような仕事でも求められるポータブルスキルをアピールすることもポイントです。「マネジメントスキル」「問題決定力」「分析力」などについて、具体的に現職でどう発揮してきたのか、それを新たな職種でどう活かせるのかをイメージして、志望動機に落とし込みましょう。
【事例:金融業界(生保)営業管理→アウトソーシング業界プロジェクトマネージャー】
10年以上にわたり、50名規模の契約社員、パート、アルバイトの営業マネジメントや採用、評価を担当してきました。モチベーション高く、メンバーが能動的に活躍できる環境を作ることを大切にしてきた経験は、アウトソーシングのプロジェクトを進行し、多様な雇用形態の人員を管理する貴社の業務にも活かせると考えております。
現職でも複数の領域でアウトソーシング化が進行しており、貴社の顧客満足度の高さには常々注目してきました。成長著しい貴社において、より多様なマネジメント能力を磨きたいと考えて志望いたしました。顧客満足度を重視したPMとして「業界を代表とする企業へ成長する」という貴社の目標に貢献していきたいと考えております。
未経験転職の可能性を探すために、転職エージェントやスカウトサービスも役立つ
転職エージェントでは、未経験者の採用に積極的な企業を把握しているケースもあるため、採用の可能性がある企業を見つけやすくなるでしょう。また、未経験転職を多く実現している転職エージェントの場合は、未経験者の採用傾向を把握している可能性もあります。履歴書に書く志望動機や自己PRの内容について、より評価につなげるアドバイスを得ることもできるかもしれません。
一方、スカウトサービスでは、登録者の経験・スキルに興味を持った企業や転職エージェントからスカウトメールを受けることができるため、「未経験OK」の企業かどうかを判断しやすくなるでしょう。
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粟野友樹(あわの ともき)
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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