転職活動の志望動機が「書けない」ときの対処法と書き方のコツ【例文あり】 

転職活動の際、履歴書や面接を通じて企業から確認を受ける「志望動機」。履歴書にうまく書けないときはどうすればいいのでしょうか。主な書けない要因や要因別の対処法などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

志望動機の構成 

志望動機が「書けない」という場合、その要因を分析することが重要です。分析するにあたり、まずは、志望動機は何を伝えるものなのかということから把握しましょう。志望動機は、一般的に次の3つの要素で構成します。 

1.応募企業を志望した理由:応募企業のどのような点に魅力を感じたのか、その根拠も含めて簡潔に伝えます。

2.活かせる経験・スキル:入社後にどのように活躍・貢献できるのか、自身の経験・スキルと求人情報に記載されている仕事内容との共通点を見つけ出して伝えます。

3.入社後に実現したいこと:応募企業に対して感じた魅力をベースに、どのような経験・スキルを活かして、どういったことを実現していきたいのかを伝え、志望動機の締めとします。

志望動機が書けない要因と対処法 

志望動機の構成をふまえると、志望動機が書けない主な要因には、次の6つが考えられます。当てはまるものがあれば、要因ごとに挙げた対処法をもとに、自身の考えを整理し直してみましょう。 

転職によって実現したいことを整理できていない 

転職を希望する人の転職理由には大きく2種類あります。1つは、現職または前職の退職を決意した理由、すなわち「退職理由」と言えるもので、現職・前職に対する不満であるケースも多く見られます。そしてもう1つは、転職によって実現したいことがある場合で、どちらかというと前向きな理由です。 

志望動機が書けないというとき、前者の退職理由、特に、前職・現職に対する不満に意識が向き、後者の「転職によって実現したいこと」が整理できていないケースがあります。 

このケースに当てはまる人は、自分なりの「転職によって実現したいこと」を整理しましょう。具体的な方法として、「1.退職したい理由(主に現状への不満)を書き出す→2.不満の背景を整理する→3.どのような状況になれば不満が解消されるかを考える」という手順で考える方法が挙げられます。 

この方法で考え、例えば「年功序列で給料が安い→成果に応じて給料が上がる会社で働きたい」、「業績が頭打ちで給料が安い→成長業界でモチベーション高く働いて成果を残したい」など、前向きな転職理由に整理できれば、それが「入社後に実現したいこと」になり、また、それを実現できる企業であることが「応募企業を選んだ理由」になるでしょう。 

キャリアビジョンやキャリアプランが整理できていない 

「5年後(10年後)は○○ができるようになっていたい」「△△の立場で仕事をしたい」「□□な働き方をしていたい」など、プライベートも含めた将来のありたい姿、すなわちキャリアビジョンや、そのビジョンを実現するための具体的な計画や見通し(キャリアプラン)は整理できているでしょうか?整理できていれば、そのビジョンやプランに合った企業を選べる可能性が高くなりますし、志望動機として伝える「応募企業を選んだ理由」や「入社後に実現したいこと」も、キャリアビジョンやキャリアプランに従って言語化できるでしょう。 

高い精度で言語化されたビジョンや詳細なプランでなくても構いません。「今後、このようなキャリアを歩んでいきたい」といった漠然としたイメージや、「向こう1〜3年程度でこの経験・スキルを得たい」といった短期的なプランでも構わないので少しでも整理できると、それが、企業選びの基準や「応募企業を選んだ理由」「入社後に実現したいこと」になるでしょう。 

キャリアの棚卸しが十分にできていない

キャリアの棚卸しとは、これまで自分が積み重ねてきたキャリアを振り返り、どのような経験や成長があったのかを確認する作業のことです。自分にとって特別だった仕事や大きな成果だけでなく、普段から取り組んできた業務や経験などを洗い出すことで、培ってきたスキルや強み、今後のキャリアの課題が明らかになるとともに、キャリアビジョンやキャリアプランを描く土台にもなります。 

キャリアの棚卸しによって整理できた自身のスキルや強みは、志望動機を書く際に盛り込む「応募企業で活かせる経験・スキル」になりますし、今後のキャリアの課題やキャリアビジョン・キャリアプランは、企業を選ぶ基準、すなわち、「応募企業を選んだ理由」「入社後に実現したいこと」として言語化することができます。 

多忙であるためにキャリアの棚卸しをしていない人もいるかもしれませんが、志望動機が書けないならなおさら、一度時間をとってキャリアの棚卸しをしてみましょう。

応募企業についての企業研究が不足している 

応募企業についての企業研究が不足していると、自身のスキルや強み、経験の活かし方や、キャリアビジョン・キャリアプランとの接点などが明確化できず、志望動機を書けない状況に陥ることがあります。 

応募企業についての情報は、その企業のオフィシャルサイトや採用ページをはじめとした公式情報だけでなく、四季報やアナリストレポート、新聞、業界紙、書籍、SNSやWeb上の口コミ、転職エージェントからの情報、スカウトメールの内容、企業とのカジュアル面談で得られる情報など、多様な方法で入手できます。それらの中に、自身の志望動機を形にするための情報がきっとあるはずです。なかなか時間が取れないこともあるかもしれませんが、企業選びの大切な要素になると切り替えて、進めてみましょう。

志望度が低い

「なんとなく関心があるから」「なんとなく居心地よく働けそうだから」といった漠然とした理由や、「成長中の企業だから」「労働条件が魅力的だから」「転職できたら周囲に自慢できそうだから」などの一般的な理解を自身のキャリアビジョン等に落とし込めていない状況で志望している場合、志望動機がなかなか言語化できないことがあります。 

その場合、まずは先述した「転職によって実現したいことを整理する」「キャリアビジョン・キャリアプランを整理する」「キャリアの棚卸しをする」「企業研究をする」の4つに取り組んでみましょう。それでも志望動機が思いつかない、あるいは、抽象的な内容しか書けない、企業研究に熱が入らないといった場合は、そもそも志望度が高くないということも考えられるため、応募するかどうか検討することも選択の一つと言えるでしょう。

「正解」が必要と考えている

「誰が見ても素晴らしいと思えるような論理的で整合性の取れた志望動機を作らなければならない」など、志望動機には何かしら正解があるという誤解から、納得のいく志望動機が書けなかったり、表面的な内容しか書けなかったりするケースがあります。 

応募企業に伝える志望動機に唯一の正解はありません。また、論理性や整合性も必要ではありますが、同時に、個々人の主観に基づく転職理由やキャリアビジョン、企業への興味・関心、想いを伝えることが重要です。企業も、志望動機だけで採用・不採用を判断するわけではありませんから、完璧を目指す必要はなく、応募企業へ入社意欲の高さや、自身と募集業務や社風がどれだけ合っているのかなどを自分の言葉で伝えられるよう考えを整理しましょう。

志望動機を書く際のポイント 

志望動機が整理できれば、実際に文章にしていきます。その際は、次の点に留意すると、より説得力の高い志望動機になるでしょう。 

応募企業「ならでは」を意識する

応募企業に魅力を感じた点やその根拠を述べる際に、応募企業の独自性や強みなど、応募企業ならではの特徴について言及すると、より説得力を高めることができます。 

活かせる経験・スキルを具体的に伝える 

採用担当者が入社後の活躍をイメージできるよう、自身の経験・スキルをどのような場面や領域で活かせるのかを具体的に伝えましょう。 

条件だけを志望動機にしない 

給与や年間休日、その他手当などの働く条件は、転職先を選ぶ際に重要なものですが、それらの条件のみを志望動機として伝えても、採用担当者が「入社後に活躍できるかどうか」を判断する材料にはなりません。また、「条件が変わったらすぐに退職してしまうのでは」という懸念を抱かれるケースもあるでしょう。条件だけでなく、「応募企業で何を実現したいのか」を明らかにしましょう。

前職(現職)への不満や批判だけを書かない 

前職(現職)に対する不満がきっかけで転職活動を始めた場合でも、志望動機に不満や批判は書かず、前向きな志望理由に言い換えることをおすすめします。前職(現職)に対する不満を伝えても、採用担当者が得られるのは応募者からの情報のみで、応募者の職場側から見た情報は得られないため、不満や不満が生じた背景が事実かどうか、客観的な判断ができません。

また、「日頃から不満を抱きがちな人物なのだろうか?」「自社に入社してもまた何らかの不満を感じ、同じことを繰り返す可能性があるかもしれない」などの懸念を持たれる恐れもあります。 

志望動機の例文 

履歴書の志望動機欄に記載する場合、欄のサイズにもよりますが、一般的には100~200文字程度が目安とされています。その字数でまとめた例文を、「管理部門」「ITエンジニア」「営業職(管理職)」の3職種に分けて紹介します。 

管理部門を志望する場合の例文 

<例文>

数多くの不動産テック企業のうち、貴社の業務支援ツールはUXが素晴らしく、カスタマーサクセスの対応レベルが高いこともあり、事業成長力に注目しておりました。現職では13名のメンバーを抱える管理部門の責任者として、経理、総務、法務、人事を担当しています。バックオフィス業務全般の体制整備やメンバーのマネジメント、各部署と連携する仕組みづくりを手掛けた経験を活かし、事業の急成長を管理部門から支えたいと考えております。

【解説】

応募企業のプロダクト・サービスを利用した具体的な経験を記載することで、興味・関心の高さがリアルに伝わると同時に、「事業成長」をキーワードとし、企業と自身が求めていることが合致していることも伝わります。また、マネジメントの経験・スキルに加え、管理部門での幅広い経験スキルを端的にアピールしている点もプラスに働くでしょう。 

ITエンジニアを志望する場合の例文 

<例文>

現職では、PMとしてバックエンドの開発業務に携わり、官公庁向けの基幹システム開発でプライム案件を数多く手掛けてきましたが、担当できる領域が限られていました。官公庁向けの基幹システムの開発に加え、民間企業と大規模案件なども手掛けている貴社で、これまでのスキルを活かしながらも、経験領域の幅を広げたく志望しました。入社後は、開発スタッフと顧客から信頼されるPMとして、多くのプロジェクトを手掛けたいと考えております。

【解説】

「官公庁」「基幹システム」「プライム案件」など、これまでの仕事内容や担当領域で経験したことを明確にし、応募企業の業務に活かせる強みをアピールすることができています。また、「経験の幅を広げたい」という転職理由との一貫性や、入社後に実現したい具体的なキャリアビジョンも明確に伝えることができています。志望する理由が明確であり、入社意欲の高さが伝わります。

営業職(管理職)を志望する場合の例文 

<例文>

大手企業も多数参入している市場で、後発ながら業界トップ3のシェアを持つ確かな戦略性や商品力を持つ貴社に魅力を感じております。現職では主力事業の営業部隊をマネジメントした経験に加え、新規立ち上げ部署のマネジメントも経験してきました。成長期を経て次のステージに向かう貴社の営業組織の体制再編や仕組みづくりに貢献し、安定的に業績を挙げられる営業組織を構築していくスキルを磨いていきたいと考えております。

【解説】

企業が求めるものを分析・解釈し、自身の経験・スキルとの接点を的確かつ具体的にアピールすることで、入社後の活躍イメージをより具体化して伝えることができています。 


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アドバイザー

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。